老婦人
私が何ができるのでしょうか。
目の前の老人を見ながら私はぼんやりと思う。
「簡単なことだよ、女なら誰でもできることだ」
老婆はにんまりと笑う。
「いったい何を言っているのでしょう、女なら誰でもできるなんて」
「とぼけるんじゃない、女は身体で稼げるんだよ」
そう言って身じろぎすると、黒い衣装を身に着けているように見えて極細の金糸銀糸で細かく刺繍がしてあるのが見えた。
趣味がいいとは言い難い。そんなことを考えるほどに言われたことが頭に入ってこなかった。
「あの、それはもしかして」
「いい旦那を紹介してあげるよ」
私の旦那様はあの方だけだ。他の旦那様などいらない。いや、ほかの旦那様のところに行くなど絶対嫌だ。
「一つ聞いていいですか」
愛亜が私を押しのけた。
「お嬢様は結婚の約束をしておりましたが、婚礼を上げておりません。この時点でお嬢様は嘉の国の崔家の娘ということになります、この国の法ではそのような関係で佶家の負債をお嬢様に請求することが正しいのでしょうかね」
そう言って愛亜は私の前に立ちふさがる。
「だが、そちらのお嬢様がいいと言えば不法ではないね」
私の言葉次第、でも私はあの方以外の方など。
「このままあの男が牢獄にいるままでいいのかい」
私の胸がざわめく。あの方を救い出す手段があるというの。
「私の力があればその程度のことなど」
「へえ、そうですか」
愛亜が私の前に陣取って私に話させようとしない。
「ですが、佶家はこの家より大きな家みたいでしたね、その佶家があっさり潰されたのにこの家が潰されない根拠は」
あの方を救うための手段があると言っているのに愛亜はあんなことを言って相手を怒らせるようなことを言っている。
どうすればいいの。
「いいのかい、あの男はもうすぐ北の鉱山に贈られる。そこで身体がガタガタになるまでこき使われ、ガタガタになったら放り出されてのたれ死ぬことになるよ」
老人が声を荒げる。あの方がそんな残酷なことになるなんて。
私は愛亜を押しのけようとした。
「そのあたりにしておいたらどう、薄の」
そう言って入ってきたのはまた老婦人だった。
だが着ているものは落ち着いているし、化粧も品がいい。
物腰は美しい。明らかに教養のある幼い時から厳しくしつけられた女性だと思った。
「佶家に恨みがあるのは分かるけど、あまり関係がない人だし、もしこの人をどうこうしたとしてもあの佶家の人はさして気にしないでしょうね」
そう言って老婦人は私に手を伸ばす。
「お嬢さん、背後を確かめもせず人の言葉をうのみにしては駄目よ」
「はい?」
「ここは私が引き受けます」
「ふざけるな勒のあんたが口を出す筋合いかい」
「こちらの口添えがあったのでね」
宿屋の夫婦がいた。
「お客様が大変なことになったと言われてね、あの宿屋は私の管轄、そこでずいぶんふざけた真似をしてくれたね」
私は結局一言も口を利かないまま何が何だかわからないまま宿屋に逆戻りすることになった。