婚姻
あたしは考えた。こういう時話をつけるなら旦那様より若旦那様だ。
とにかくお嬢様の思い込みを何とかしてもらおうと若旦那様に報告した。
若旦那様はしばらく考え込んでいたが。小さく手を打った。
「ちょうどいいじゃないか」
「若旦那様?」
「美鈿はもう同列の結婚相手は望めないだろう。多少格が落ちたとしても嫁げるだけ幸せだろう。それに、どうも父上は美鈿の教育を間違えたようだ。待望の女の子だとかまいすぎた」
それはまあそうだ。
「あれに話をしよう、その上で、あの子を引き取ってくれるなら相応の謝礼をすると言えばおそらく話はまとまる」
確かに今更お嬢様が錦の商家に嫁ぐわけにはいかないのだから適当な結婚相手を探さなければならないのは当然だ。
それなりに優秀な商人になりそうで、親戚関係にあって格下なのでいいように扱える、考えてみれば理想の婿殿かもしれない。
そっちのほうにはなしがまとまるならあたしが口出しする筋合いではない。
「それはそうと、もはや美鈿は使えない。そうなればお前の使い道もまた変わる」
それはまあ薄々察していた。
この家にはお嬢様しか女の子がいない。あたしを引き取ったのもいざというときにお嬢様の代わりに使うためだ。
この家に持ってこられた政略結婚にお嬢様の代わりに嫁げというのだろう。
「なるほど、最近若旦那様が妙に私に気を使ってくださると思っていたのですよ」
「まあ、わかっているならいい、お前の嫁ぎ先は閃だ」
思わず耳を疑った。
「あの、どういうことでしょう」
「勒婦人を覚えているか」
あんな強烈な経験を忘れることができるわけがない。
「あちらからどうしてもお前がいいという話があってな」
お嬢様が届けた手紙を受けた旦那様と若旦那様は勒婦人に渡りをつけ、そして今度は実際に現地に若旦那様の弟様を派遣し綿密に調べさせたのだそうだ。
その上で勒婦人を新たな取引相手に選んだのだそうだ。
その上であたしを嫁に欲しいと向こうが言い出したのだとか。
もう一度あの街に戻る。
あの日船に乗せられた時にはもうこれで一生見ることがないと思ったのだけれど。
「お前ならいろいろと事情も分かっているだろうしな」
どのみちあたしに断ることはできない。
「お前は正式に父上の養女として嫁ぐことになる。そのことを肝に銘じておけ」
そしてあたしは再び閃に行く船の上にいた。
今度は上等な衣装を身に着けあたし自身がお嬢様と呼ばれている。
あたしの人生、よくもないけれどものすごく悪くはない。そのことに変わりはないと思う。
旦那様の養女となっていいうちに嫁げるのは悪いことではないが。あの街の住人は一癖も二癖もある。きっと苦労するだろう。
それでも進み続けるしかない。
今頃お嬢様の婚礼も執り行われているはずだ。結局最後までいることはできなかったけれど、ある意味家族のそばで嫁入りできるのはあの人にとっては良かったのかもしれない。
あたしは前だけ見て生きる。




