戦いの記憶
結局元に戻ったあたしは何となく宿でへたり込んでいた。
「大変だったみたいですねえ」
そう言ってきたのは宿の主人夫婦の娘だというぽっちゃりとした頬が愛嬌のある顔をしている。
何故かついてきた清秋は不貞腐れた顔で壁にもたれている。
「大変だったけど、何とか生き延びたと思う」
「生き延びた後って、うれしいとかそういうのより、ちょっと茫然としますよねえ」
そう言って宿屋の娘、風花は笑う。
「あたしも、陛下が即位する前の内乱では何度も死ぬかと思いましたけど、生き延びて嬉しかったというとなんだか違う気もしますね」
風花は内乱を生き延びたのか、奈良、この程度の騒ぎでぐったりしているあたしはさぞ軟弱に見えるだろう。
「人を殺してまで生き延びたのに、嬉しくないなんて言ったら殺された連中はどう思いますかね、殺したことは後悔していませんが」
人殺し、あたしのいた街では人殺しは縛り首と決まっていた。だからあたしは今まで一人の人殺しも見たことはない。
「じゃあ、あの人の雄姿を見たのか?」
いきなり清秋が食いついた。
「あの人って?」
「佶家の若旦那だよ、あの人が反乱軍をやっつけたんだろう」
風花の目が点になっていた。
「あのう?」
風花がものすごく何かを聞きたそうな顔をしている。
あたしは清秋に聞こえないように風花に事の次第を教えてやった。風花は何とも言えないような顔をする。
「あの、貴女名前は」
「愛亜、崔愛亜ですよ、もちろん事実は知っています、あの人は内乱当時この国にはね」
あたしの言いたいことの後半は理解したのか風花はほっとした顔をする。
「まるっきり、間違いというわけでもないんですよね、街を守るための自警団を組織していたこともあったんです」
もしそれが勘違いの原因ならちょっと罪が軽くなるのかもしれない、あくまでちょっとだけど。
「ただ、その自警団ちょっと問題がね」
そしてあたしに耳打ちした。
「自警団を作ったことで佶家の人間がとんでもなく横柄にふるまい人を無理やり連れだして無給でこき使ったり、はては暴力、そして最悪の事態が起きて」
さもありなんとあたしは思った。
最悪の事態とは婦女暴行、未遂だが止めに入った何人かが重傷を負ったという。
「それで街のみんながブチ切れてねえ」
「だろうねえ」
うんうんとあたしは頷く、その間の会話は清秋には聞こえないよう努力した。絶対めんどくさいことになるから。
「それで別の自警団を作ったんですよあたしもそれに参加しました」
「ちょっと待て、聞き捨てならないことを言ったな、なんで女が参加する?」
必死で耳を澄ましていた清秋が割り込んできた。
「ああ、それはね、戦う意志だけが戦いに参加する権利を保障するものだからよ、女子供老人そんなもの関係なかった」
風花は誇らしげにそう語った。




