警戒
人間飲まず食わずでは死ぬ。
そう当たり前のことだ。つまりこんな廃屋に隠れていたとしてもいずれ追い詰められる。
「愛亜、これからどうするの」
「そうですねえ、まず手紙を書かなければなりませんが、筆も紙もないのでどうしようもないです」
どうやったらこの国で旦那様にこの事態を知らせるか。まさか嫁いだ当日没落するとは思わなかったから情報を集めている暇もなかった。
「愛亜、あの方を救って差し上げられないかしら」
「無理言わないでください、国が相手ですよ」
何を言ってるんだこのお嬢様、自分が生き残れるかも怪しい状況で、そんな無理難題口にする前にダメに決まっているだろう。
「お嬢様、まず自分の身を救ってからようやく人を救えるのですよ」
今あたしたちが明日すら生き延びられるか怪しいような状況でどうしようというのか。
「こんなところにいたぞ」
しまった。見つかった。
土地勘がない場所で逃げ切れる可能性のほうが少ないのは分かっていた。
それにこの清秋ってのはそれほど頼りになるものじゃないのも分かっていた。それでも万が一の可能性を信じていたかった。
「お嬢様」
思わずそう呼んだけれど、あの人が頼りにならないのは分かり切っている。
か弱い女二人に子供一人無理やりひっぱられていくしかありませんよ
「三人とも来てもらおう」
逆らった清秋が殴り倒された。あたしたちも逆らえばああなるという見せしめだな。
そしてそれなりに立派なお屋敷に通されたのだけれど、見事に男性使用人のガラが悪い。
内なら即刻首になる顔だ。
客商売なのでお客様に不快にさせることは極力避ける。
まあ、もしかしたらこの国ではいろいろ社会が不安定なのであえて強面を多く採用しているのかもしれないが。
お嬢様は血の気の引いた顔で小刻みに震えている。だからあえて言う。
「お嬢様、落ち着いてください、冷静さを失ったら負けです」
それでも最後の息を引き取るまで生き延びるのをあきらめない。
ぐずぐず泣いている暇はない。
あたしはまっすぐ前を見た。
「それが佶家の嫁かい」
しゃがれた声がした。
目の前には妖怪がいた。
物凄く長生きした女性が、妓女でもためらうであろう厚化粧をしている。
「それで、ちょっと私の言うことを聞いてくれれば悪いようにしないよ」
どう考えても悪いことしかなさそうなんですが。
「私に何をしろと?」
お嬢様、発言に気を付けて。
「いったいあの婆さん何者?」
とりあえず清秋に聞いてみることにした。




