襲撃
あたしは隅っこに残っていたあたしの荷物に気が付いた。
下着と着替えが二三着。それと小銭。
あたしの待遇は悪くないが、その分給金が安い。
多分お嬢様と一緒に学問や習い事をしている分天引きされていると思う。
あちらも商売だ。
「お嬢様、これに着替えてください」
一番いい余所行きの、休みの日にしか着ない黄緑の襦裙を差し出した。
「その恰好では目立ちすぎます、それに着崩れてしまってみっともないでしょう」
実際輿から投げ出されたときに相当着崩れている。それに仰々しい花嫁衣装など着ていては身動きが取れない。
「婚礼は行われないのだから」
再びお嬢様がはらはらと涙をこぼされる。
まあ仕方がないと言えば仕方がない。お嬢様は唯々諾々と着替え始めた。
崩れてしまった髷を結いなおして郊外でまとめた。
そして、手の中の花嫁衣装をしばらく眺めた。
よく考えれば今手元にある金目のものはこれしかない。
「お嬢様、場合によってはこれを金に換える必要があると思われます」
できるだけ簡潔に説得することにした。
「いいですか、金目のものはみんな持っていかれたんです。旦那様に連絡をつけて迎えに来てもらうにしても何日かかるかわかりません、ですからそれまで生き延びなければならないんです」
この期に及んで現実を受け入れられないのか逡巡する様子が見える。しかし背に腹は代えられないのだ。
「いいですか、お嬢様、人間食べなければ死ぬんですよ」
しばらく悩んでいたようだけど、すぐにうなずいた。
「わかった」
さすがに理解してくれたかと安心する。
「そうですよ、お嬢様、生きてこそです」
そう言って少しでも気が晴れるように笑って見せた。
やっと少し気が抜けたと思ったのに、何かが扉を破壊しながらやってきた。
一目見ただけでわかる。その筋の人だ。人生の裏街道をまっしぐらの犯罪者予備軍なのかすでにそうなっているのか。
「何なの?」
振り返って背後を見たお嬢様も硬直している。
仕方がない、あたしはお嬢様を背後に回す。
「佶家の嫁だな」
「佶家には借りがあってな、お嫁さんにちょっと払ってもらわんとな」
うん、これはあれだなこの機会にあの家にどんな恨みがあるかわからないけど、か弱いお嬢様にぶつけようというやつか、それとも売り飛ばしが目的か。
「まだ結婚してないわ、婚姻が成立していない以上佶家の負債なんかお嬢様が払ういわれはないのよ」
冷や汗をかきながらあたしは何とかこの場をごまかす方法を考えようとしていた。
「火事だ、逃げろ」
どこかでそんな声が聞こえる。一瞬視線がずれた。ままよとばかりにお嬢様を引っ張って一瞬視線がずれた。あたしはがむしゃらに走った。
そして火事は起きておらず、目の前に知らない少年がいた。
「こっちだ」
少年の手招くままにあたしたちは走り出した。




