略奪
まず、今はお嬢様の嫁入り道具を見張っているはずの番頭に話をつけなきゃ。とにかく嫁入りはなしになった。そのことを説明して。
「お嬢様、一度宿に戻りましょう」
あたしはお嬢様から手を放し立ち上がる。
「さあ」
お嬢様はひどい顔色だ。ろくに家の外も出たことのないお嬢様に役人の犯罪者を捕縛する姿は大分刺激が強かったはずだ。
よろよろとぎこちない立ち方だが何とか立ち上がる。崩れた髪を後ろにかき上げてやった。
「宿はどちらかしら」
そう言われてどのように歩いたか頭の中で反芻する。
そして何とかたどり着けそうだと判断した。
「多分大丈夫です、何となく覚えています」
そして歩き出したが、やはり足元がおぼつかない。そもそもお嬢様は家の中にこもりきりでろくに歩いたこともないのだ。
えぐえぐとしゃくりあげながら歩くお嬢様を支えて何とか記憶を頼りに宿にたどり着く。最初に歩いたよりだいぶ疲れた。
お嬢様はその場に立ち尽くし茫然としている。
それでも気力を振り絞ったのか何とか口を開いた。
「私の連れは?」
そう尋ねたが相手はきょとんとした顔でお嬢様を見返している。
あたしが間に入って詳しい話を聞くことにした。しかし宿の主である老夫婦は怪訝そうな顔であたしたちを見返すだけだ。
あたしは宿の中に飛び込みお嬢様の部屋に入った。
部屋はもぬけの殻だった。
「何もない?」
思わず声が大きくなった。
「いったいどうしたの?」
「誰も残っていません、婚礼が終わるまで待っているはずなのに、それに明日運び込む予定の嫁入り道具が見当たりません」
お嬢様があたしの肩越しに部屋を覗き込むそして何も残っていないのを確認して目をむいた。
あたしはお嬢様の横をすり抜けて宿の主のところに飛んで行った。
「何があったんですか」
「佶家のご夫婦がいらして、すべて運び出して他の方にも帰るように言って」
あたしはあの悪の強い老婆の息子とは思えないほど影の薄い佶家の名目上の主とその妻の顔を思い出していた。
とても柔和で人当たりの良い、だから旦那様も騙されたんだと思う。
「あの夫婦なんてことを」
すべて計算だったんだ。この嫁入りは最初から嫁入り道具を盗み出すために。おそらくあの家からも相当の財産を持ち逃げしていたんだろう。
あの夫婦だけは自分たちの足元に火がついていることに気が付いていた。
「あの二人とんでもないことをしでかしましたよ」
お嬢様はおそらく状況が分かっていない。
「わかりませんかお嬢様、あの二人は自分の母親と息子を見殺しにして、自分達だけ逃げたんです。お嬢様の財産を行きがけ駄賃に持ち逃げして」
そう、あのくそ婆の息子が真人間なわけがない。当然どんなに善良そうな顔をしていても極悪人に決まっている。
「見殺しって、あの方を」
まだ、理解できてないんだ。
悪人に騙されたってことを。




