勘違いの始まり
あんな奴の相手なんて御免だ。とにかくお嬢様に子供ができれば私があんな奴を相手にすることなんかないんだし。
お嬢様に代わってあたしが嫁入り道具や衣装やその他もろもろの手配をしなければならない。
実際お嬢様は実務的なことは一切できない。
帳簿の読み解き方もあたしが後から勉強を始めたのにあっという間に追い抜いてしまった。
今にして思うとこれがよくなかったのかもしれない。
あたしさえお嬢様に付けておけばお嬢様の不出来はごまかせると旦那様や奥様に思わせてしまったからだ。
しかしなってしまったものはどうしようもない。
あたしは必死に独楽鼠のように働いて、嫁入り道具を見分し、それから日程や旅の準備、そして連れていく人員の確認など寝ている暇もない。
お嬢様には完全に事後報告だったがお嬢様は花嫁衣裳以外の何にも興味を示さなかった。
もう少し考えたほうがいいと思う。
そして不眠不休で働いた挙句、ようやく船の上でその間あたしの仕事はお休み。お嬢様の話し相手とお茶を淹れるぐらいのものだ。
ああこの時間が続けばいいと思ったが無情にも船は閃についてしまった。
閃の港はあちこち焦げていた。そして、船べりに妙なシミのある船がちらほらあった。
あれは死体を積んだことのある船だと、海に死体を捨てに行く際死体から染み出した血がしみ込んでしまったのだとその場にいた船乗りが笑いながら教えてくれた。
その話を聞いて血の気が一気に引く。
とんでもないところに来てしまった。そして思う。
父さんが死んだ港もこんな風だったんだろうかと。
しかしそのあとそんな感傷も吹き飛ばすような佶一家との再会があった。
飯店を兼ねた宿屋、その一室にお嬢様と嫁入り道具がひしめいていた。
使用人であるあたし達は別に大部屋がとってありそこで休むことになっていた。
とにかくあたしは目録通り道具が届いているかとかお嬢様の衣装とか当日の化粧とかやることが目白押しだったわけだ。
そこにわざわざやってきたのが佶家の花婿の両親とその母親、一家の女主である老婦人だったわけだが、それを一言でいうと、くそ婆だった。
黄色く濁った白目が嫌な光を放っている。
そしてあたしを値踏みするように、なめるように見た後、にんまりと笑って言ってくれた。
「まあ、ちんけな小娘だけど、今日から主が誰かよくわかっておいたほうがいいね、さもないと妓楼に売り飛ばされたいかい」
国を離れ、本家との連絡も取りにくい、そういう状況だからこその高飛車で卑劣な言い分だった。
旦那様、思いっきりスカを引きましたね。
このままお嬢様が嫁いだら、あたしはどんな目に会うっていうのかしら。
とりあえず、心の中でここにいない旦那様に罵詈雑言叩きつけてもあたしを責められる人間はいないはずだ。
むしろ葬式の参列者のつもりで婚礼行列を進んでいた。
そして見たのは役人にお縄にされているあのくそ婆の姿だった。
閃の新皇帝は大変有能な方だそうだ。おそらく汚職をやらかした商人の捕縛も大変迅速になさったのだろう。めでたしめでたしだけど、あたしたちこれからどうしよう。




