生い立ち
あたしの人生あんまりよくないが悪すぎるということもない。
ずっとそう思ってきた。
父さんは結構な大店の末端の親族。本家の主の父親の末の弟の孫というあたり、あと少しで他人になりそうなところにいた。
父さんは本家の商いの末端にいた。交易の船に乗っていたのだ。それなりに順調で、あと数年頑張れば支店を任されるはずだった。
運が悪いことに父さんが入った直後に疫病が発生したということで港が閉鎖、閉鎖が説かれた後にはすでに父さんは疫病に感染しておりすぐに亡くなってしまった。
残された母さんにはすぐに後添えの話が来た。
なんでも何度妻を取り換えても子供ができない御仁がいらしたのと、それですでに子供を産んだ実績のある妻を望まれたのだ。
あたしを産んだ後でも母さんは十分にまだ若かった。
母さんは弟を産んだら迎えに来ると言っていたが、まあ無理だろうと幼いながら思ったし、実際無理だった。
あたしは本家の預かり子という身分になった。
その身分で本家のただ一人のお嬢様美鈿様のおつきという形になった。
父さんが死んだことは残念だが、それでもただ運が悪いだけで不名誉な死ではなかった。だからあたしと母さんは本家に後々の面倒を見てもらえた。
もし父さんの死が不名誉なものだったら後添えの話など世話してもらえなかったろうし、あたしもそのまま放り出されていたろう。
それに本家の預かり子という身分は使用人ではあるがお嬢様と一緒に教育もうけさせてもらえた。
それもまた好待遇というものだ。
父さんが支店を任されて、家族で暮らして、いつか弟妹が増えて、かなわなかった未来を思うと物悲しくはあるが、あたしはそれなりにうまくやっているつもりだった。
あの日お嬢様の様子がおかしくなった。
どうやら離れの客人を見てしまったようだ。何事かされたのかと思ったが別にすれ違っただけだという。
あの家族は何となく虫が好かなかった。
何となく人を値踏みするような目で見るのだ。なんでも閃国でたいそうな大店を構えていたのだそうだが、戦火に追われこの国まで逃げてきたのだとか。
以前商売の取引があったそうだが。
大旦那様にしては随分と甘い。すでに商売の相手ではないのにこの家に居候させてやるなんて。
あたしはあの一家には極力かかわらないようにしてきた。
だが、ちらほらと小間使いなんかをやっている人間は噂を運んでくる。
目下の人間に対する扱いがとにかくあまりよくないようだ。かかわらなくて本当に良かった。
そして国が落ち着いたので出ていくと聞いたときには手を打って喜んだものだ。
もう二度とあいつらには会いたくない。




