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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第1章「限りなく水色に近い緋色」
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5「実験室の研究者」


 ――忘れてないか? 俺も遺伝子研究特化型サンプルだってこと? 実験室にいたんだぞ、俺?


 ――火傷ならたいした事ない。自身の能力をうまく使えなかった授業料だと思ってる。何より、ひなたの消息を失った【今まで】の方が何より辛かった。


 ――ずっと探していたって事だよ。


 水原爽の台詞がスピーカーから、微小のノイズを含みながら別の場所で反復されていた。2人の人影はモニターを見ながら、まるで実験動物を見るような目で、ひなたと水原爽を見やる。


 ふぅむ。一人が息を吐く。


 これは面白い。”フラスコ”はニンマリ笑んだ。これではまるでメロドラマではないか。”ビーカー”はその様相は興味ないかのように、作業を黙々と続けていた。


「ヤツも、実験室所属の被験体という事か」


「特化型サンプルが残っていたとは貴重だな」


 ビーカーが珍しく応じる。データ収拾が”ビーカー”にとっての生き甲斐だからこそ、その対象が増えた事は歓喜モノだろうが、それを表情で読み取れないのもまた”ビーカー”らしい。


「どの(カテゴリー)か判別できるか?」


「バカ言うな。事前情報もなく判別できたら生物兵器の意味がない」


「お前のデータベースから該当するボウズがいたか、という意味でだ」


「さて。子どもの成長は早いからな。切ったり、注入したり、投薬したりの被験体を一々覚えておけ、という方が酷と思うが?」


「充分にヒドイ言い方だ」


 ”フラスコ”は苦笑を浮かべる。もっとも、それは”フラスコ”も同様だ。科学の発展に犠牲はつきもの。昨今では倫理観を問う声もあるが、マッドと呼ばれる科学者によって人類が文明を発展させたのは間違いない。恩恵は狂気より供与されているが、それには蓋をする保守どもの嬌声がやかましい。


 実験室が計画休止を迫られた事も腹ただしいが、他のプロジェクトを休止させても、遺伝子特化型サンプルを制御する事には意味がある。


「実験がしたい」


 ”ビーカー”が言う。


「了承するが、学校だ。派手な事は困る」


 一応、まともに返してやる。言質はとった。後は”ビーカー”に責任を押し付ける事もできる。”フラスコ”とて、データは欲しくてたまらないのは一緒だが、政治的調整を含めて実験室としての業務は遵守しなくてはいけない。室長もストレスが溜まるのだ。好き勝手に人体を切り裂かせて欲しいモノだ。忌々しい。


「丁度いい、処分対象の廃材スクラップ・チップスがいる。こいつを当て――いや、待て」


「どうした?」


 ”ビーカー”の言葉に緊張が走る。監視カメラの映像と、GPS反応を相互に見比べる。


「…これだから廃材スクラップ・チップスを御するのは困難だ」


 息を吐く。”フラスコ”も画面を見やり、瞬時に緊急時の回避案を思考内で巡らす。


 その刹那、響く轟音がスピーカー越しでも強烈だった。


廃材スクラップ・チップス、遺伝子研究特化型サンプルに接触、攻撃を開始。これより情報統制ネットワーク、監視システム、防衛ツール、レベルAを実行する」


 それは実験室所属の研究者”ビーカー”が室長”フラスコ”に許可を得る形式的なモノでしかなかったが。


「レベルDも想定して監視システムを強化、情報収集に務めるか」


 それは命令というよりも、巡ってきた機会(イケニエ)に喰らいついた悪鬼の如き形相という表現が相応しくて。


 だからこそ、獲物イケニエの揺るぎない、揺るがない、負けない意志ある言葉がスピーカーから流れてきた事に、実験室の研究者達は目を丸くした。


 ――本当にバケモノの片棒担ぐつもりあるの?


 それは水原爽に向けて、遺伝子特化型サンプル【限りなく水色に近い緋色】が発した、過去データではあり得ないぐらい、意欲と活気、打開と希望に満ちた声だったから。


「データを再検索しろ! バグの可能性も」


「再計算する。大きな変化は無い! あの坊主の方も監視対象に――」


 実験室の研究者達の予想をはるかに上回り、廃材(スクラップ・チップス)に肉薄する、遺伝子研究特化型サンプルの姿がモニターに映る。それは、本当に刹那の活劇だったが――実験室の研究者二人の言葉を失わせるには、充分な5分間だった。

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