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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
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59「娘と母」


「え?」


 ひなたは目を点にする。

 母が自分を抱きしめてくれたことに戸惑う。今まで――全く記憶になかったから。

 言葉はなかった。でもこれ以上の言葉もなかった。


「――お母さん、ありがとう」


 そう言うひなたは、みのり同様に言葉にならなくて。溢れる感情の礫を隠すことができない。


【こんな時くらい素直に甘えたらいいよ】


 爽は感覚通知でそう囁く。ずっとそうだった。常に爽は傍にいてくれて、ひなたの背中を押してくれる。


 だから、なのかもしれない。

 緊張の糸が途切れたのもある。

 安心して安堵したこともある。全ての人は守れなかった。自分が踏み潰して砕いた命もあった。


 だとしても、そうだとしても――。


 目の前の人たちを守ることはできた。何ら問題は解決していないにしても、無事に帰ることができた。

 今はそれで――。

 だから――。


「ただいま」


 なんとか言えた。でも後はもう言葉にならなくて。ただ母は受け止めて抱き締めてくれる。それだけで、安心できて、産まれてきたことをやっと肯定してもらえた気がして、感情がほとばしるのだ。


 みんなが優しく見守ってくれるのを感じるからなお、感情が溢れて。


 今まで愛される資格はないと、ひなたは思っていた。それは遺伝子研究特化型サンプルとして産まれた自分の罪だとずっと思っていたから。


 爽を()いた自分の能力を、何度呪ったことか。


 でも、爽は、ゆかりは、彩子は、みんなは――ひなたを肯定してくれる。それならば、せめて目の前の人達の為に全力を尽くしたいと思う。

 ぐじゃぐじゃに撹拌されたような感情の中で、ひなたはそれだけを強く願った。 

 

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