54「命令はかくして実行された」
臓器が崩れ落ち、廃材達が苦悶の声をあげる中でそれは、ぴちゃぴちゃと音をたてながら這いずった。一瞥、特化型サンプル達を見やる。蛇の姿をした彼は憎悪をその目に宿しながら。
蛇は排水口めがけて、飛び込む。悪臭と屈辱にまみれながら、下水管を進む。
コレデオワッタト、オモウナ。
殺意をたぎらせて。それを遺伝子研究監視型サンプル【弁護なき裁判団】No.Tは監視を続けていた。
【遺伝子照合しました。対象を確認。No.Kの指示を仰ぎます】
【シリンジはスピッツの研究まで盗み、変容体試験のサンプルとして自身の体を使ったか。まぁ、実験室の研究者であれば特段驚くこともない。監視を継続。施設破棄に向けて計画を稼働する。特化型サンプル達の安全を確認した上で計画実行。シリンジが施設外に逃亡した場合、速やかに処分せよ】
【了解しました、Enter】
【実行。Enter】
No.Tは特化型サンプルたちを見やり、計画を再考する。No.Kの指示にはバグがあるのではないか、と思う。No.Eがエラーが出たのはつい最近の事だ。
No.KはNo.Eから急遽、命令権を移譲された。バグがあって当然だと思う。本来ならば、特化型サンプルとともに施設を破棄すべきではないか?
No.SとNo.Tは思考を繋ぎ、それに同意をした。 これはNo.Zの言う所の非常時の緊急判断事項に該当するのではないか。
それならば――。
【プログラムを一部変更し実行する。Enter】
【非常時緊急案件に該当。No.Zにログを送信。計画を実行する。Enter】
【了解した。実行する。Enter】
命令はかくして実行された。