48「お前が憎んだ世界を妾が焼こう」
それは不思議な感覚だった。
ユルサナイという感情はニエタギル、抑えきれないイカリの感情に類似していて。それなのに、ひなたはたゆたうように漂う。
ずっとひなたの中にいて眠っていた誰かと、すれ違った。触れるように、その髪をそっと撫でるように。
唇を裂くように、その誰かは破顔した。歓喜を隠すことなく、あふれんばかりに零して。
――あとは、まかせておせ。
そう誰かは囁いた。
その言葉すらも、ひなたの鼓膜にはボンヤリとしか届かない。
ぱちん、と火種が弾けて。
暖炉の炎のように、橙の淡い灯りがひなたを暖める。その視界全てを染めて。埋め尽くして。
ひなたは目を細めて、小さくアクビをした。
眠い、本当にねむい。
――た、ひな――ひ――先輩――ひな――お姉ちゃ――ひな――。
ブツギレの声がなお、眠りを誘う。ぱちぱちと燃える炎は、甘美なまでに優しくて。
マカセテオケ。
そう囁いた声は、ひなたに届かない。
炎が弾ける。
――水色、お前が憎んだ世界を妾が焼こう。
ひなたに良く似た、そしてひなたが絶対出さないであろう哄笑をあげながら、炎はなお歓喜に舞う。