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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
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44「廃材」


 声が虚ろに、無気力に反響し、木霊する。

 

 ──イヤダ、シニタクナイ


 ──コワレタクナイ


 ──スクラップチップス、ッテナンナノ?


 ──ワタシハ、マダイキテル


 ──マダ、ジッケン ハ オワッテナイ


 ──イキタイ、イキタイ


 ──マダ、オワリジャナイ


 ──タスケテ、クルシイノ、タスケテ


 ──アナタガ ムリヲシナイデイテクレタラ


 ──モウイッカイ、マウンドニタッテ、ボール ヲ 


 ──タスケテ


 ──ミノリ

 

 声が幾重にも重なる。実験室の無機質な量産型サンプルなら、まだ「敵」と思い込むことで立ち向かうことができた。だが、この声は紛れも無く、生きている人だ。ひなたの足が竦んでしまう。


 ただ本能でみのりを守る為に、炎を生み出す。その意志が弱い自覚がある。


(爽君、ゆかりちゃん──)


 もうダメだ。廃材(スクラップ・チップス)が幾つも手を伸ばしてくる。その手が、念力弾サイコネキシス・バレットを飛ばす。目を瞑る。もう防げない。


 と、電気が奔った。


 ゆかりもオーバードライブしたのか。声はもう届かないんだろうか。手をのばす。ゆかりを救えなかった。奇跡はもう起こらない。何て自分は無力なんだろう。爽が尽力してくれたのに、応えることができない自分が歯痒い。何もできず、抵抗すらできず。


 せめて、みのりを守れたら。それだけを思う。炎を投げ放つ。それを嘲笑うかのように、雷鳴が鳴り響く。

 ひなたの炎をかき消さんばかりに、電流が暴れ狂う。


「ひな先輩、すぐに諦めちゃだめだよ、ひな先輩らしくない」


 え?

 ひなたは顔を上げる。廃材の群れに臆することなく、声の主は背筋をのばし、対峙する。その手に電流を青白く纏わせながら。


「お姉ちゃん……」


 みのりが、ひなたの手を握る。


「ひな先輩が諦めないでいてくれたから、今の私がいる。だから私は諦めない。それだけだよ?」


 ニッと彼女は笑う。


「ば、バカな――」


 シリンジは口をパクパクさせて喚くが、言葉にならない。


「廃材が、廃材のくせに、廃材がなんで干渉信号の影響を受けない? ナゼだ?! ナゼそんなことが――」


 泡を吹くように声を荒げるシリンジに向けて、当の廃材の少女は静かに動いた。


「あの信号は二回目だけど、正直気持ち悪かった。まだ頭痛いし。だから、私は機嫌が悪い。ひな先輩を追い詰めたのも、金木先輩を道具扱いしたのも。この回りくどいやり口も。胸糞悪いこの有様も。だから、良く聞いてよ、実験室の研究者さん?」


 その手に帯電させたまま、シリンジの顎を掴む。群がる廃材達をもう片方の手で、放電し消滅させながら。


「私達は、スクラップ・チップスとかサンプルとか、そんな名前じゃない。まして記号じゃないし部品でもない!」


 ゆかりの電流が青白く猛る。そこに熱く燃える焔が同調することに気付き、ゆかりはニッと笑む。

 いきますか? そう炎に向かって囁いて。


 ゆかりは――そしてひなたは、全力で自分の能力(スキル)を開放したのだった。


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