44「廃材」
声が虚ろに、無気力に反響し、木霊する。
──イヤダ、シニタクナイ
──コワレタクナイ
──スクラップチップス、ッテナンナノ?
──ワタシハ、マダイキテル
──マダ、ジッケン ハ オワッテナイ
──イキタイ、イキタイ
──マダ、オワリジャナイ
──タスケテ、クルシイノ、タスケテ
──アナタガ ムリヲシナイデイテクレタラ
──モウイッカイ、マウンドニタッテ、ボール ヲ
──タスケテ
──ミノリ
声が幾重にも重なる。実験室の無機質な量産型サンプルなら、まだ「敵」と思い込むことで立ち向かうことができた。だが、この声は紛れも無く、生きている人だ。ひなたの足が竦んでしまう。
ただ本能でみのりを守る為に、炎を生み出す。その意志が弱い自覚がある。
(爽君、ゆかりちゃん──)
もうダメだ。廃材が幾つも手を伸ばしてくる。その手が、念力弾を飛ばす。目を瞑る。もう防げない。
と、電気が奔った。
ゆかりもオーバードライブしたのか。声はもう届かないんだろうか。手をのばす。ゆかりを救えなかった。奇跡はもう起こらない。何て自分は無力なんだろう。爽が尽力してくれたのに、応えることができない自分が歯痒い。何もできず、抵抗すらできず。
せめて、みのりを守れたら。それだけを思う。炎を投げ放つ。それを嘲笑うかのように、雷鳴が鳴り響く。
ひなたの炎をかき消さんばかりに、電流が暴れ狂う。
「ひな先輩、すぐに諦めちゃだめだよ、ひな先輩らしくない」
え?
ひなたは顔を上げる。廃材の群れに臆することなく、声の主は背筋をのばし、対峙する。その手に電流を青白く纏わせながら。
「お姉ちゃん……」
みのりが、ひなたの手を握る。
「ひな先輩が諦めないでいてくれたから、今の私がいる。だから私は諦めない。それだけだよ?」
ニッと彼女は笑う。
「ば、バカな――」
シリンジは口をパクパクさせて喚くが、言葉にならない。
「廃材が、廃材のくせに、廃材がなんで干渉信号の影響を受けない? ナゼだ?! ナゼそんなことが――」
泡を吹くように声を荒げるシリンジに向けて、当の廃材の少女は静かに動いた。
「あの信号は二回目だけど、正直気持ち悪かった。まだ頭痛いし。だから、私は機嫌が悪い。ひな先輩を追い詰めたのも、金木先輩を道具扱いしたのも。この回りくどいやり口も。胸糞悪いこの有様も。だから、良く聞いてよ、実験室の研究者さん?」
その手に帯電させたまま、シリンジの顎を掴む。群がる廃材達をもう片方の手で、放電し消滅させながら。
「私達は、スクラップ・チップスとかサンプルとか、そんな名前じゃない。まして記号じゃないし部品でもない!」
ゆかりの電流が青白く猛る。そこに熱く燃える焔が同調することに気付き、ゆかりはニッと笑む。
いきますか? そう炎に向かって囁いて。
ゆかりは――そしてひなたは、全力で自分の能力を開放したのだった。




