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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第1章「限りなく水色に近い緋色」
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2「転校生」

 転校を繰り返す。億劫な事なのだが、自分にも責任があるのは自覚しているだけにため息を飲み込んだ。社会的には非公認、政府としては公認の「遺伝子研究特化型サンプル」それが宗方ひなた、という女の子だった。


 社会的には――超能力のようなものが公認できるはずが無い。ひなたの能力を分別するなら発火能力(パイロキネシス)となるかな? と父は言う。本当はもう少し込み入った能力なんだけど、それを昇華させるつもりも強化させるつもりも無いからね、と父は続ける。


 はぁ、とひなた。本来なら、遺伝子研究の献体として娘を使用した時点で父も母も鬼畜だと思うが、そこらへんは根っからの研究者魂なのか、な? と最近思うようにしている。


 現在の野菜の品種改良に対する両親の愛情っぷりは、ため息がそれこ出る程にはマッドだ。


 それでも、ここ数年だと思う。ひなたが両親に本音を晒せるようになってきたのは。そして娘への接し方でずっと悩んできた2人である事もひなたは知っている。


 だから、転校する問題は家族の問題でもあるのだ。


 ひなたは、感情が不安定になると発火してしまう。これが問題だった。


 今まで騒ぎに至っていないのは、ボヤ程度だった事と、ひなたが必死に感情を抑えてきた成果だ。例えば、仲間はずれ。例えば、教師の何気ない一言。例えば、素敵な男の子のドキドキした時。例えば、テストの点数に一喜一憂した時。何気ない、本当に何気ない瞬間に心の箍たががたわむ。必死に抑えて、抑えていただけに。


 だから、ひなたはできるだけ孤独に努め、心のなかを空っぽにする事に務めた。それでも我慢して息をついた瞬間、炎が産まれてしまう。


 泣きたい。でも泣いたら、火種は火炎へとあっさり育ってしまう。


 

 それが、だ。今回の転校先では不思議と、発火が起きない。なんで? と思うが、妙にひなたを受け入れてくれる空気感が、安心をくれる。


 最初はひなたも緊張していた。挨拶も言葉少なくに務めた。興味関心は抱いてくれなくていい。それだけを願って。


 それなのにすっと伸びる手が、満面の笑顔で発言を求める。


「やれやれ」


 担任の先生が苦笑した顔で、応じる。


「はい、水原君」


 と質問を許可する。待ってました、と言わんばかりの笑顔を水原と呼ばれた男子生徒は見せる。


「折角、クラスメイトになるんだから、もっと宗方さんの事が知りたいです」


 緊張の輪が溶けた瞬間だった。


「爽、お前だけ抜け駆けズルいっ!」


 と声が上がれば、


「水原君、さすが!」


 と声が上がり、途端に後は我先ワレサキの様相を示し、ひなたに対しての仲良し大作戦が決行される。普段なら、これでもう精神的に不安定になり、発火能力が発動してしまうトコロだが、今のところそれはない。比例して心臓はバクバクしているが、何故か水原爽というクラスメイトに名前を呼ばれた事が、心の安定剤になったようで、左程の動揺も無い。


「えー、君たち。一時間目始まるまでに、落ち着いておくように。それと水原君。責任とって収束させておいてね」


 それだけ言って先生は出て行った。後はもう、華の高校生達の天下である。


「ひなた、は平仮名なんだね?」


「身長ひくいっ! カワイイ!」


「あの好みの男性は?」


「もしかして俺みたいな?」


「そういう事初対面で言われると引くからヤメ!」


「さり気ない気遣いがないよねぇ、男子達って」


「無理無理。水原君みたいな人、そうはいないって」


「なんで俺?」


「いつも一番早く行動してくれるのが水原君だから、でしょ」


「はぁ」


 水原爽も困惑の表情で、ひなたに視線を向けた。そして苦笑。何故か、ひなたも笑った。あれ? どれくらい振りだろう? 笑ったのは。


「笑顔がカワイイぞ。宗方さん!」


「ちょっと、誰かバカ男子つまみ出せ」


 ひなたの感動をよそに、喧騒は続く。


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