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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
39/68

36「力を、力をください」


 ゆかりは拳を固める。パチン、青白く火花が散る。以前に比べたらコントロールがいい。何より暴走しない、これはどういう事なんだろう、と思う。


 ──君は失敗作だ。


 宣告は無機質だった。なに、ガッカリする事はない。契約は確実に履行する。君のデータは今後の研究に活かす。君は実験室のデータとして、確かに生きた証を刻む。最期の日までメンテナンスは継続する。契約を違うことはない。


 淡々と、淡々と。


 研究者・ビーカーはそう呟いた。契約内容は癌だった父の、手術及び入院費用、その後の生活フォローの全面支援。父が病床に伏せて始めて知る父の存在の大きさ。母の脆さを感じた。


 何が何でも、父を救いたかった。知らなかった、自分がこんなにお父さんっ子だったなんて。


 あら? と気丈に母は振舞って言う。昔からゆかりはそうよ? そう笑んで。


 結果、手術は失敗した。末期の大腸がんだった。


 父の末期に、母が自分たちに手を差し伸べてくれたのは唯一の救いだったのかもしれない。弟はそんな母を支えようと懸命なのが見てとれた。彼は私よりしっかりしている。大丈夫、大丈夫、大丈夫。


 結局は役立たずと自分を自嘲してしまう。


 ──スクラップチップスにはスクラップチップスなりの存在意義がある。君のデータは無駄にはしない。科学の貢献に感謝する。


 なんて無機質で用意された、テンプレートな台詞だろうか。


 置かれた札束の山を、ゆかりは茫然と見やることしかできなかった。

 ゆかりは、拳を再度握る。


 ぱちん。ぱちん。


 またしても青白く光る。そのチカラが以前に比べて過剰な気がする。オーバードライブの前兆か。力の過剰放出が症状の一つとして出る。それはサンプルになる前に学習させられた予備知識だった。


 まっすぐ前を向く。学校の屋上から見る夕陽は、影の色を深めていく。なお、ゆかりの時間制限(タイムリミット)を感じさせる。


 不思議と怖くはない。

 終わりは覚悟できた。


 気持ちの整理は――できたとは言い難い。残していく家族のことはやはり気になる。何より宗方ひなたと出会えたことが、ゆかりにとってはかけがえがない。


(恋敵なのになぁ)


 あえて古風な言い方で言って、自分で苦笑が漏れる。


 水原爽の想い人。それだけで嫉妬が疼く。それなのにその嫉妬を抑えてなお、ひなたを信頼する自分の感情。


 ぐっと手すりをつかんで、夕焼けに溶けそうな見慣れた町並みに目を向ける。


 ひなたはオーバードライブしたゆかりに、電流に晒されながら言ってくれた。ダイジョウブ、と。

 爽は国民国防委員会との立会いの中で、強く宣言をしてくれた。絶対に諦めない、と。


 ゆかりは言葉にならない。自分の行動は実験室との契約を破棄することになるかもしれない。母にも弟にも迷惑はかけたくない。


 でも、でも、でも、でも──。


 ダイジョウブ、と言ってくれたひなただから。諦めないと言ってくれた爽だから。ゆかりは返したいのだ。自分の生た証として。少しでも二人の記憶に残りたいから。実験室に翻弄されるのはゆかり一人でもういいから。羽島みのりには、もう怖い想いも寂しい想いもさせたくないから。


 グルングルンと思考は廻る。


 だから──。

 力が欲しい。癌だった父を守りたい力、家族を守る力、自分の寿命をのばす力? ゆかりは拳を握る。その手を広げる。差し伸べるように、まっすぐと。


 ゆかりの目には、あの日その手を握ってくれたひなたの体温を感じていた。


 拳を握る。

 力が欲しい。


 ワガママだなぁ、と思う。勝手だと思う。ひな先輩は怒るだろうか? お母さんは、弟は、水原先輩はどんな顔をするだろうか?


 それでも──。

 悔やみたくない。ひなたのようにまっすぐ前へ。それだけを思う。


 力を、力をください。

 みんなを守る力を。私が生きたアカシを。力を、力を。


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