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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第1章「限りなく水色に近い緋色」
3/68

1「あの日」


 何度、夢見た事だろう。抑えきれない感情。嫌悪感、不快感。吐き気がする。


 ――総員、避難、避難!


 金切り声で大人たちが叫ぶ。


 当時のひなたは、接続チューブを全て千切った。――いや、燃やしたという表現が適切だ。当時5歳のひなたの両手から溢れ出る、炎の塊。不思議とひなたは熱量は微かにしか感じない。反比例して、周囲はその熱量に顔を歪ませていた。


 ――被験体を盾にして、避難経路を確保せよ!


 なるほど。ひなたは幼いながらに、小さく笑んで理解した。生まれた炎をその声の主達に投げつける事に躊躇ない。お父さんを、お母さんを守るんだ、私は!


 それは明確な意志だった。


 



 周囲は騒然とし、恐怖の色を為す。その視線の一つと、ひなたの目が合った。怯え? 恐怖? それはそうだろう。こんなモノを見せられたら、誰だってそうだ。


 でも仕方ない。宗方ひなたは、科学の貢献の為に作られた遺伝子特化型サンプルだ。当時からその言葉を散々聞かされてきた。お父さんもお母さんも研究に夢中だった。お父さんが良い結果を出せるよう、それだけを”ひなた”は考えた。


 だけど、だけど――。


 欲しかったのは、


『よくやったね、ひなた』


『えらかったね、ひなた』


 それだけ、それだけだったのに。


 その言葉は結局聞かせてもらえなかった。


 反比例して、両親の目から怯えが生まれたのをひなたは覚えている。人間には過分な能力を、ひなたは宿してしまった。


【遺伝子特化型サンプル──限りなく水色に近い緋色】


 それがひなたに与えられた識別記号だった。それもこの時で終焉を迎える。この日、全てをひなたは叩き壊すから。


 ひなたは酸素を凝縮する。点火、発火、それを繰り返し、火炎を



 意志を投げつける。

 炎が舞い上がる。


 織り編んでいく。周囲の人間達は酸素濃度が低下して、顔を青くしている。


「ひなた!」


 父が叫ぶ。


「ひなた!!」


 お母さんが――鼓動が激しくなる。炎が止まらない。と、そこに一人の少年がひなたの前に立った。


 頭痛。反比例して、炎が蜷局(とぐろ)を巻く。これは業火だ。私の。私自身の。そして私というサンプルを作った全ての人への。


 その業に、この少年は関係無い。怯えた目。震える下肢。でも少年は、私の前に立った。多分、大人たちの命令に従って。


 だから――ひなたの感情がハジけた。


 少年の脇を細く通りすぎて、炎が槍となる。実験室のメインシステムを破壊。そのまま、白衣を来た人間にだけ焦点を当てて、火の粉を散らす。


 それは火の粉という姿の弾丸だった。


 耳をつんざく音は、悲鳴をかき消し、ひなたにとっての無音。

 もう父の声も母の声も届かない。でも、少年が何かを叫んでいた。


 頭が痛い。


 ズキズキして、感情はさらにこみ上げて、でも気怠さに飲み込まれそうで、機器類のショートする音すら電気信号のように無機質に聞こえた。


 そして打ち上がる、破壊の花火。


 その中で少年が、恐れを捨てて私を抱き締めて――そこまでしか覚えてない。


 この日、厚生労働省の外郭団体『特殊遺伝子工学研究所』

 通称、実験室が崩壊した日だった。


 

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