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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
22/68

19「美味いのにな」


 ビーカーは漫然とモニターの電源をオフにした。


「ん?」


 背広の男はビーカーを見やる。


「監視システムは、羽島に直接埋め込んでいる。彼は 廃材 (スクラップ・チップス)と言う名の囮だ。あえて遠隔監視システムを稼働する必要もないし、リアルタイムである必要も無い。それに――」


 ビーカーは彼を見やる。


「弁護無き裁判団、君らがオーバドライブしたスクラップ・チップスの監視と処理をしてくれるんだろ?」


 ビーカーはもう彼の顔は見ない。スケジュールは詰まっている。フラスコ交え、政治屋連中との会談もある。研究者のスケジュールは分単位な事も珍しくないのが、非公式にして政治的には公式な「実験室」という組織なのだ。


 もっとも背広の男もビーカーの思惑は予想の範疇だ。漫然と棒付きキャンディを堪能しながら、沈黙したモニター越しに写るフラスコの表情を観察する。好きにやれ、という事だと解釈した。何より、自分へ情報収集を託したという事だ。今回の廃材(スクラップ・チップス)では【限りなく水色に近い緋色】のデータを精密に収集する事はかなわない。それならば、可能な限りのデータ収集と処分。その方が能率的で波紋も少ない。なにせあの遺伝子研究特化型サンプルはあまりにも未知数すぎる。


 まるで煙草の紫煙を吐くように、棒付きキャンディをつまみ、息を吐く。


 脳内にピ、ピというかすかな電子音。ピン!と高く音が跳ね上がる。リンクする。ビーカーはこちらに一瞬視線を送るので、手付かずの棒付きキャンディーを贈呈する。


「……そういう意味じゃない。派手にやりすぎるなよ、という事だ」


「研究者が【遺伝子実験監視型サンプル】に 命令(コード)を示した以上、 命令(コード)は遵守する。ただしその経過(プロセス)についてまでは干渉されるいわれは無い」


「……」


「重ねて言うが、 命令(コード)は遵守する。廃材は処分し、監視データは実験室に確実に届ける。世間一般に明るみに出る事はしない。【限りなく水色に近い緋色】については過干渉はしない。その上で、お楽しみを遂行する事を避難するいわれは無いと思うが?」


 ビーカーはこの言葉に小さく息をついた。


「好きにしろ。それと、例の特化型サンプルに接触するなら、接触時のデータも私に提出しろ」


「……了解」


 背広の男は棒付きキャンディーを口に含みながら、唇の端で笑む。実験室研究者の情報戦にはまるで興味はないが、ビーカーは比較的、寛大だ。これがフラスコならそうはいかない。それぐらいのサービスは心おきなく応じるべきだ。


【No.D No.F No.Kは稼働可能です】


 脳内に無機質な自分の声が響く。


【No.Kを稼働。No.Dは監視モード。No.Fは撹乱ディスオーダーに備える。他、弁護なき裁判団、随時稼働に向けて調整せよ。タスクは自動監視システムに一時常渡可能であれば回せ。遺伝子特化型サンプル対応に注力。システム稼働の余力は確保の上でだ】


【了解。可能です】


【実行せよ】


【Enter】


 電子音が切れる。接続が切れた。


 珍しい事にビーカーはまだそこに居た。彼ら研究者のスケジュールは分単位で動く事は熟知している。だからこそ、遺伝子実験監視型サンプルなるモノが存在するのだ。


「どうした?」


「これはどういう事だ?」


 と渡された棒付きキャンディーを見やる。


「美味いぞ?」


「イチゴ醤油ラーメン味……が、か?」


 絶句する。


「舐めておけ。この後の仕事がはかどる事請け合いだ」


 ビーカーは思案の挙句、白衣のポケットに仕舞い込んだ。


「美味いのにな」


 現職、県警警部補はニンマリと笑んだ。

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