表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
20/68

17「私を導いて。私、勇気を出すから」


「爽君」


 ぎゅっとひなたにしがみつかれて、我に返る。


「え?」


「代わるよ? 爽君がきつそう」


「大丈夫。ひなたには体力を温存してもらわないと――」


 さらにぎゅっと、ひなたが爽を後ろから抱き締めた。


「え?」


 爽は自転車のスピードを緩める。


「私は自分の能力が怖い。怖くて仕方なかった。それを誰かを助ける力にできるかも、って思えたのは爽君のおかげ。だから、私にもできる事をさせて」


「ひなた?」


「私は何も分かってない」


 爽の制服を掴んで言う。その手に少し力がこめられた。


「誰かに向けて力を使うのはやっぱり怖い」 


 爽は自転車を止める。ひなたの言葉に耳を傾ける事に集中する。


「うん」


「でも、爽君があの人に体当たりを受けた時、頭が真っ白になった。もう少し間違ってたら、爽君を失うかもしれないって思うと、怖くて」


 ひなたは爽の背中に頬を押し当てる。爽は自分の理性を抑えるのに必死になりながら、再度聞く事に集中する。無自覚すぎるのだ、ひなたは。


「うん」


「でもあの状態のまま、知らないふりはできない」


「ひなたならそう言うと思ったよ」


 爽は小さく笑う。


「爽君」


「うん?」


「私を導いて。私、勇気を出すから」


「ひなた?」


「怖くても、誰かを傷つけても。例え、誰かを殺す事になっても爽君とゆかりちゃんの事は守る。そこは譲らない。絶対に譲らないから」


 ぎゅっと、ひなたは爽の背中を掴む。爽の想像力が足りなかったというべきか。彼女は常に大きすぎる能力に翻弄されてきた。結局、安定したのも爽がブースターとブレーキで仲介している事を実感した今日の話なのだ。それまでのひなたは、能力に怯えてきた。今回の作戦ミスは、爽の分析ミス――敵ではなく、ひなたに対しての。ひなたが今まで抱えてきた、不安に対してのケアに着眼していなかった。


 だから爽は、自転車から降りて、ひなたの顔を直視する、


「爽君?」


「ひなたはあの 廃材(スクラップ・チップス)を救いたいと思った。そうだよね?」


「え、うん」


 コクリとひなたは頷く。


「ひなたは保育園の子ども達や先生が怖い思いをしていたから、助けたいと思った。そうだよね?」


「う、うん」


「だったら1つは達成した訳じゃない? 今度は廃材(スクラップ・チップス)とあの子を助けよう。ひなたは桑島を助ける事ができたんだ。あの親子も助けよう」


「うん!」


 満面の笑顔で頷く。爽も笑顔で返した。


 変なプライドは捨てろ。爽は言い聞かせる。そもそも爽が支援型である以上、ひなたやゆかりと、双肩を並べる事の方が無理なのだ。


 爽の戦い方は、彼女たちと同列であってはならない。――のだが、やっぱり自転車二人乗りで女の子に漕いでもらうのは、誰もいなくても周囲を意識してしまう。


「イメージ」


 ひなたは呟いた。


「え?」


「イメージでコンディションを整えるんだよね?」


 保育園での爽のアドバイスをなぞるように呟く。違和感を感じた。否――ひなたの中の何かが変わったような感覚が爽に伝播する。


 ペダルを漕ぐ。その瞬間、自転車は加速した。


「え? え? え?」


 思わず爽はひなたにしがみつく。


 風を切る。その表現でしか言い表せない。法定速度60キロで走る車を、自転車がいとも簡単に追い越していく。その加速があまりに急すぎて、爽の感覚がついていけない。



「ちょっと、ひなた?」


「えっと、爽君。もう少しスピード出すよ?」


「え?――って、オイ、ちょっと!」


「それっ!!!」


 思わず、さらに強くひなたの腰にしがみつく。もうプライドも何も余裕が無い。


「あ、爽君。あんまり近いのはさすがに恥ずかしいんだけど?」


「む、無茶言うなぁぁ!」


 絶叫しながらも、笑い出す爽がいて。なんて子だ、分析していないが、間違いなくこの加速は、筋力局所強化を下肢に施したのだ。無茶苦茶にも程がある。【限りなく水色に近い緋色】の底なしさに驚愕せざる得ない。実験室がデータを収集したら、兵器としても欲しい素材であるのは間違いない。その情報戦からもひなたを守りたい。それは偽らざる、爽の本心だった。


 速度は自転車の規定外だが、運転そのものは安定している。


 爽はスマートフォンに目を向ける。


 廃材(スクラップ・チップス)羽島の動きが止まった。自分たちとゆかりとの距離も近い。近すぎた。慌てて、通信を接続する。


「桑島、聞こえるか?!」


「はぁい。何?」


「そこで待機。あと少しで追いつける」


「……水原先輩無理しすぎじゃない? さすがに距離的に無理――」


「ひなた止まれ!」


 爽の声は絶叫にも近い。ゆかりを追い越してから、ようやくブレーキをかけて、爽を放り投げての停車。ゆかりは、眼前の事態に唖然とするしか無い。爽は畑の中にしたたかに叩きつけられた。


「爽君、ゴメン、ゴメンなさい!」


 慌てて、爽に駆け寄るひなたより、ゆかりの方が早かった。無意識に爽を抱き締める。


「二人とも無理しすぎ!」


 呆れながら、軽い脳震盪をおこして悶える爽を心配しながら。


「爽君、ゴメン」


 半泣きにも近いひなたを励ましつつ、ゆかりは小さく息を吐く。ひなたはゆかりにとってのライバルで、ココで罵倒してあげてもいいはずなのに、ゆかりにはその言葉が何故か出てこない。


 10分間のイレギュラーな作戦休止の間も、事態は動いていた事をひなた達は知る由もなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ