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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
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15「頑張るから、絶対ご褒美頂戴」

 ゆかりは左耳にはめたイヤーチップに集中する。保育園に突入する直前に爽が渡してくれていたモノだった。本当なら、ひなたのようなペンダントが欲しい。特別な能力はいらないけど、と本末転倒な事を思う。


 あのペンダントはひなたにカスタマイズされているのも承知している。


 それでも――爽と繋がる事ができるのなら、少しでも拠り所が欲しい。ゆかりに残された時間はわずかしか無い。そう思うと焦る。


 水原爽は自分の事など見向きもしない。最初からゆかりは、そう結論付ていた。彼は学校でも、線を引くべき存在だった。どの女子から見てもそうだったろう。


 誰にも優しく、誰にもさり気なく。少し『いいなぁ』『仲良くなりたいなぁ』と思った瞬間に、線を引かれてその手は届かない。爽はそんな存在だった。


 ゆかりが知る中でも、爽に仄かな感情を抱いていた子を少なからず知っている。勇気を振り絞って、告白をした女子だって、幾数人(いくすうにん)。全てが玉砕だった。爽の心が宗方ひなたという転校生全てに捧げられていた事を知り、ようやく理解する。


 爽は遺伝子研究特化型サンプルだと言う。


 ゆかりは、研究室の実験について細かい事は知らないが、彼の能力は戦闘特化型サンプルではありえない。数少ない支援型サンプルなのだ、と知りまた唖然とするしかなかった。

 埋め込み型のブーストでは為し得ない力の流動に単純に驚く。ここまで効率的に能力を行使できた事はなかった。細胞への負担も多分、今まで一番軽く――否、ほとんど無いに等しい。


 ひなたが、特化型サンプルなのは理解するが、爽もまた別次元の人だった。彼と彼女の接点は、学校とう枠を超えて、【実験室】にまで遡るのだ。それはどんな女子も――ゆかりなど、どう足掻いてもかなうはずも無く。


「桑島、桑島、聞こえるか!」


 ノイズ混じりで、イヤーチップから想い人の声が聞こえてきて焦る。


「あ、え、うん?」


 自分はとても腑抜けた声を出していた気がする。思わず、自転車を運転するバランスを崩しそうになった。


「桑島?」


「あ、大丈夫。それより水原先輩、このまま進んでいいの? ヤツがまったく見えないんだけど」


「河川敷を北上してる。桑島、橋を渡れ。多分、奴は北区に入る」


 北区は田舎町という表現が似合う田園風景の残るベッドタウンだ。閑静な住宅街に潜む 廃材(スクラップ・チップス)という名の誘拐犯。どことなくシュールで笑えない。


「あっちはバイクで、私は自転車ってかなりハンデあり過ぎなんですけど?」


「監視マーカーで追跡できているうちは大丈夫。焦らなくて良い。俺達もできるだけ早く、追いつくようにするから。それと仮に追いついても、即接触は禁止ね」


 後半息切れする爽に、ゆかりは苦笑を浮かべる。戦闘型サンプルや廃材(スクラップ・チップス)に比べて、支援型サンプルは総合体力でどうしても劣る。体力、火力、能力を排除し支援や索敵、環境改善に特化する故に仕方ないが、単体ではあまりにも、か弱い。だからいざとなったら、爽の事は自分が守る。そうゆかりは決意を固めていた。


「おい、ひなた、あまりくっつくな。その胸があたって――」


「でも爽君、下り坂でスピード出て、コワイコワイ! 怖いから!」


 そう言えばひなたはバス通学なので、自転車が無い。必然的に爽の自転車の後ろに乗る羽目になるのだろうが、釈然としない。自分が必死で追跡している最中、彼らは青春真っ只中。今すぐ雷撃を放ってやりたい気分に駆り立てられる。

 全部、台無しだ。


「水原先輩」


「な、な、何?!」


 最早、爽には余裕が無い。いざ実験室とら合間見えた時の冷静沈着さはまるで消し飛んだ様相に、 ゆかりは小さく笑む。


「頑張るから、絶対ご褒美頂戴」


「奢れの件?」


「勿論。その代わり高いですよ?」


 ゆかりが邪笑をあえて浮かべると、爽は小さく息をついた。


「桑島、絶対に行くまで無理するなよ?」


 爽の心配は別方向で。気遣ってくれる爽の優しさが妙に嬉しくて。単純な自分に苦笑しながら、通信を切った。

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