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限りなく水色に近い緋色【Revise Edition】  作者: 尾岡れき
第2章「使い捨てられる廃材たち」
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12「デバッガー」


 爽は注意深く、操作を始める。あの人の言葉を思い出しながら。


 ――作戦(ミッション)において重要なのは、戦略と指示命令形等による統率。立案者の「こう思う」はどうでもいい。どう伝えるか、どう伝わるか。どう動いているか。揺るぎない予測、迅速な情報収集と取捨選択、迷いない指示と評価のプロセス。流動的な状況への即時対応。水のようにあるべし。風のようにあるべし。その覚悟、爽君はもてる?


 物言いは柔らかだが、その目は厳しくて。さすがは元実験室所属といったところか。

 とまで思って、思考を切り替える。

 今回の事は、またあの人に怒られるだろう、と思う。



 ――戦略と戦術を勘違いしないこと。どう戦うかじゃない。どう戦場を動かすか。場当たりな対応なんて意味がない。空気を支配してこそ、頭脳労働者は評価される。その点、わかってる、爽君?


 分かってる……つもりではいるのだが、どうもひなたが絡むと、爽は後手後手に回る気がする。本来であれば、ひなたに判断させるべき場ではない。


 自分だ。自分が、情報を誘導しひなたを守らなくてはいけない立場だ。


 何より、ひなたは【実験室】のもたらす【現実】を知らなすぎる。


 このご時世に、ひなたは単純に「子どもたちを守りたいから」と言う。それは暴走なく力を使えた事への安心感もあるのかもしれない。ゆかりを助けられた事への安堵も、当然ある。


 だからこそ爽は思う。


(ひなたは、自信を得たんだろうな。でも安易な自信は危険だ――)


 実験室と対峙する事は、日本政府の政策に反する事に他ならない。今後どうするかの結論は、爽自身にも言える。自分は戦闘型ではない。単純戦闘では量産型にすら劣る。あくまで支援型の特化サンプルでしかない。そこを理解した上で行動が、爽の生存率を増やす。


 だけれど――やっと出会えた、ひなたと別離を余儀無くされる事は考え難い。


 ――まぁ、爽君がそこまで執着するサンプルだし、君も戦闘特化型サンプルと組まないと、本領発揮できないだろうし。いいんじゃない? 


 あの人はあっさりとそう言う。ただし、その発言の裏には、打算と計算で埋め尽くされているのも分かる。


 でも結局は、爽がどう行動するか。どう想うか。どの結果を予測した上で選択するか。思索するには、あまりに情報が乏しかった。


 そういう意味では、ひなたの衝動に乗る事は情報収集と、ひなた自身の能力チェックを行う事にも――違う。それじゃ、実験室の研究者と何も変わらない。


 そうじゃないだろ?


 俺はひなたを守りたいんだ。それだけだろ? 幼い時の過ちは繰り返したくない。この手なら離さない。焼かれても、どんな逆境でも、その覚悟は決めたじゃないか。


 だから。


 ひなたを守る最大限の方法を思索する事に妥協をしない。桑島ゆかりの時は、完全にひなたの能力に助けられた。そこに【デバッガー】の能力は発揮できなかったに等しい。


 そして今後も、純粋な戦闘ではひなたに頼らざる得ない現実がある。男としては、やはり歯痒い。


(雑念ばかりだな)


 溜息をつきながら。スマートフォンから、現在収集している情報を整理する。電子情報侵入(ハッキング)を試みる事も考えたが、労力の割に得られる情報は少ない。特に今回の場合は、公開情報(データベース)を検索する事で、彼の存在を特定したが、こんな事は稀だ。まるで情報が整理され、収集しやすいよう――に?


(そういう事か、実験室?)


 この短い時間で爽は対策を練ろうと懸命になる。ひなたがいる。ゆかりもオーバードライブしなかったら問題無い。戦力は、だが。だがそれ以上の喜劇を実験室は求める、この図式はそういう事だ。奴らはひなたのデータをより詳細に記録したいがために、この事件を設定した可能性がある。


 爽はスマートフォンに集めた情報を整理しながら、思案を巡らす。そして出した答えは────今までの自分では出さない答えで。


「桑島!」


「へ?」


 隠密に行動すると言っていた爽が叫んだのだ。ゆかりは目を丸くする。


「最大出力、最大広範囲で雷撃だ!」


「え、いいの水原先輩?」


「早く! 早く!!」


 ゆかりは爽の言う通り、力を込める。逆の手をひなたがぎゅっと握ってくれた。


 掌を広げる。


 青白い光。爽が指を鳴らす。その途端、帯電がより強さを増す。力を効率的に倍加するブーストが爽の手で行われたのを、ゆかりは実感する。


 だから?


 今まで無いくらい冷静に、力を桑島ゆかりは投げはなった。

 最大出力、広範囲で。


 保育園の窓ガラスが割れる。爽が指で合図した刹那、ひなたとゆかりは動く。


 ふざけるな、と爽は思う。お前らにデータは与えない。五分で――データ収集をされる前に打開する。


 爽の中に芽生えた感情。


 それは【デバッガー】として、宗方ひなたを実験室から守りたいという、一心で。守れないのは――諦めるのは――探し続けるのは――もうたくさんで。


 絶対に、ひなたを守る。


 それだけを胸に刻んで、爽はひなたとゆかりの後を追う。


 


 


 


 





  残り4分20秒――。


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