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平民宰相の世界大戦 ~原敬兄弟転生~  作者: 巽未頼
明治五(1872)年
88/109

第88話 ニューヨーク③&ボストン 世界企業の片鱗

以前いただいた感想でアメリカ人と主人公が普通に話せているのはというものをいただきました。

主人公は外交官としての役職持ちとしてほとんどの人物と会っており、そうでない場合は大半がアメリカ人貿易商のウイリアムを経由して最初話をしています。その分、アメリカ人側がある程度立場を理解して対応してくれていると考えてください。

唯一そうした立場を使わずに話した相手はシフだけですが、シフはドイツからアメリカに来て(現地人から見て)日が浅くユダヤ人のために自分自身も被差別側です。主人公にぶっきらぼうな対応をするだけで普通に接しているのは、そのあたりも原因です。

 アメリカ ニューヨーク


 証券取引所に行くと、黒板にはめ込まれた数字の板の前で多くの人が交渉していた。黒板の上に会社名が記されており、数字のパネルが今の株価らしい。そこに黒板上で矢印が書き込まれ、今日の価格変動が記録される仕組みのようだ。

 事前にオリバー・ハリマンから話がいっていたらしく、俺の案内役はエドワード・ヘンリー・ハリマンだった。名刺を交換すると、仕組みを色々と説明された。


『といったかんじで、株価が常に変動します。株主の中には事前に自分の売買したい値を決めていて、ここにいる証券会社の人間に購入を任せている人間もいます』

『そういうかんじなんですね』

『最近はティッカー・システムで会社名よりコードを使って取引するのが主流ですがね』


 この時代の証券取引なんて知らないのだから面白い以上の感想は難しい。時代が進めば色々システムも変わるのだろうが、チューリップバブルの時代と戦後のシステムくらいしかさすがに知らない。おそらく電信が発展していけばこのあたりもまた変わっていくのだろう。


『ちなみに、タカシ殿は何か買ってみるつもりは?』

『そうですね』


 どちらかというとこちらが本命。しかし、この時代は鉄道公債の取り扱いばかりのようだ。そこには手を出したくない。帰国前に暴落することがわかっているのに手を出す人間はいない。


『では、チェス・カーリー社とかはありますか?』

『聞いたことがない会社ですね』

『では、チャールズ・プラット・アンド・カンパニーとか』

『あそこは株を公開していませんね』

『では、スタンダード・オイルとか』

『スタンダード・オイルは1月に1株100ドルでしたが、今日の最初は95ドルで取引されていますね』


 実は先月にあたる2月26日、輸送業者のミスで石油輸送費が倍増する騒ぎがあった。このせいで今月は抗議行動が発生し、石油業者は軒並み株価を下げていると新聞に書かれていた。値下がりしているなら今が買いのチャンスだ。

 現状こちらで動かせるのは義父でもある利剛様から借りた分を含めて約3000ドルだ。これでも超がつく大金なのだが、それでも手数料含めたら30株が限界だ。


『30株買えますか?』

『市場に出ているのが……800株ですか。今日はやや下がり気味ですね』


 そのまま担当している人間のところへ交渉に向かうハリマン氏。しばらくやりとりをしていたが、俺がトイレから戻る頃には帰ってきていた。ちなみに、スタンダード・オイルの株は総数2万5000。主要な銀行家が保有している分は売られず、先日買収されたクリーヴランドの会社が株による買収だったために、買収された企業の経営者が持ち株をニューヨークで売り払った分が取引に出回っている大半らしい。


『30株、2835ドルで買ってきましたよ。手数料は……1ドルで結構です』

『1ドル、ですか』

『ええ。私もこの騒動でむしろ「買い」だと思っている人間でして』


 スタンダード・オイルはここ数年で急激に会社を巨大化させているらしい。今年に入って新規発行した株によって調達した資金は150万ドル。日本なら国家予算の5%くらいの資金だ。それをこの短期間で調達している。経済規模の違いを痛感させられる。ちなみに、株取引自体は1株ずつやるらしく、時間がかかったのはそのためだった。最初は93ドル後半で買えたらしいが、後半は98ドルまで値を戻していたらしい。


『誰に任されたか、あるいはどうやって儲けたかはわかりませんが、日本という国にとってその額は大金のはず。それを自分だけの判断で動かせるのですから、貴方は今の段階で日本で相応の地位にあるはずだ。外交官というだけでない、何かを。ならば、貴方との縁は手数料よりずっと価値が高いですよ』


 なるほど。後の鉄道王だけのことはある。1ドルだけ受け取るのは取引実績は残すためか。強かだ。

 その後も内部の色々な場所を見て回った。ちょくちょくオススメの株を紹介されたが、さすがに資金が残っていないので1つだけ一番のオススメを、といって紹介されたものだけ買った。コーニング・フリント・グラス・ワークスというガラス企業だ。俺の知っているコーニングだとしたら、やはりハリマンは偉人だと言わざるを得ない。


 ♢♢


 アメリカ スプリングフィールド


 マサチューセッツ州にチェッカー人生ゲームというボードゲームを制作した人物がいる。ミルトン・ブラッドリーという人物だ。スプリングフィールドでゲーム制作会社を運営する彼は、既にポスターをアメリカ各地に展開してボードゲームで大いに儲けているという。春を迎えたスプリングフィールドで、俺は日本のボードゲームを紹介しつつ彼の作ったゲームの日本版製造の許可を得るという名目で会いに行くことになった。森殿も本命の仕事が終わった後ならという条件で「遊びも西洋のものを研究するのですな」とか言って許可してくれた。


『ほう。これが日本の子どもが遊ぶトランプのようなカードゲーム』

『はい。そしてこれが塔抜きと呼んでいる木を抜いては上に載せるゲームです』


 日本でUNOとジェンガを試作してあり、早速ミルトン氏と遊んでみる。ちなみに、UNOは船内で遊んでいたし、ジェンガも麻子様と日本で遊んでいたので日本発のゲームという売りこみ方はセーフだ。


『バランスをとるのか。指で押すと塔が揺らぐ』

『子どもから大人まで遊べますよね』

『いいな。楽しめる。しかし、木のブロックのサイズをこれと同じように揃えるのが少し面倒だ』

『大きさはある程度揃える必要がありますが、重さは揃えない方がむしろ不確定な要素が増えて面白いです』

『そういう部分もイレギュラーにしていくと。悪くない。建材に使えない端材でも作れそうだ』


 ジェンガは好評だった。感覚的にもわかりやすいからだろう。UNOはルールの把握が必要なので、トランプとの比較で厳しいかもしれないと言われた。


『トランプのように複数の遊び方がないのも問題だ』

『確かに、トランプの良さは同じものを使って色々な遊びができることですしね』

『悪いとは思えない。人々が文字を読めるようになり、ルールを把握できるようになればトランプに飽きた人々に売れるかもしれない』


 史実で流行ったからと言っていつ売りだしても売れるというものではないということだろう。そのゲームに必要な物を作る技術やルールの把握ができる教養が必要ということだ。


 本当はモノポリーも提案しようと思っていたが、おそらくルールの複雑さから無理と言われるだろうと思ってやめた。もう少し時代を置いて売りだす方がいいだろう。将棋や囲碁もルールが複雑すぎると言われた。チェスと同じようなものと紹介すると、『そもそもチェスがもっと普及しないと厳しいのだよ』と言われた。ご尤も。


『チェスを知っているなら、ロンドンに行った時に世界大会を見てくるといい。今年の会場がロンドンだし、ロンドンに渡るのだろう?』

『ええ。チェスの世界大会ですか』

『そうさ。私のオススメはイングランドの代表、ブラック・デスさ』

『ブラック・デス?』


 黒死病なんてあだ名中二病でもつけられたくなさそうだけれど。


『ジョセフ・ヘンリー・ブラックバーン。あいつはチェスに革命をもたらせる名人だよ』


 紹介状を用意するから会場で会ってくるといいと言われ、手紙を1通もらうことになった。ついでにとチェスで勝負をしたが、レガル・トラップくらいなら知っているというレベルだった。泥沼な勝負だったので、詳細は語らないでおこう。


 ♢


 アメリカ ボストン


 ナイアガラの滝を見学した使節団が先行してマサチューセッツ州に来ていた俺と合流した。使節団のメンバーとボストンのフィッチバーグ駅で待ち合わせたが、地方でも複数列車が止まれる規模の駅があるのは流石の一言だろう。

 山口尚芳殿と情報交換をする。


「敬殿、スプリングフィールドの兵器工廠見学については問題なさそうかね?」

「はい。事前にルートの確認をしてあります。人数も伝えてあるので、工程の見学もできるそうです」

「良し。後は工科大学とハーバード大学の見学か」

「岩倉様の案内には工科大学は副学長が、ハーバードは学長が随行するそうです。見学場所が分かれたら、司法官や文部官には学生が案内につくと聞いています」

「学生の様子を見た方がいいという話だったな」

「ええ。アメリカでも屈指の学生が集う大学ですので。あれらの大学にいる学生を日本の最高学府で育てられるようになるのが目標かと」


 マサチューセッツ工科大学と言えば誰しも一度は聞いたことがあるだろう。3日後にはそこに見学に行く予定だ。そしてその2日後にはハーバード大学に行く。どちらも名門中の名門だ。外交官という称号がなければ気軽に入ることは出来なかっただろう。事前交渉でハーバードには昨日行った。案内を担当してくれた人物が予想外の出会いをくれた。チャールズ・ジョゼフ・ボナパルト。ハーバードで案内を担当する学生の1人にいたのだ。予行演習として俺と一緒に行動した学生の1人だった彼には名刺を渡しておいた。ただ、俺が年下ということもあって反応はイマイチだった。まぁいくら外交官と言っても学生ではそういう部分が表に出ることはある。今までの対応が素晴らしすぎたと思おう。それに彼はあのナポレオンの血をひく名門だ。日本の平民相手では気乗りしないのも仕方ない。本番に彼が案内するのは公家出身の東久世様の予定だ。そのあたりは伝えてあるので、本番はきちんと仕事をしてくれるだろう。


「工廠も工科大学も大島殿が楽しみにしているからな。敬殿も学べることはきちんと学んできてもらいたい」

「そうですね。あくまで見学する経路と時間しか確認しませんでしたので」


 説明とかは当日のお楽しみだ。まぁ、すでに細い糸のようなコネがつくれたので俺は満足なんだけれど。

年末年始に追加で1話投稿できたら投稿します。


この時代の株の取引はそこまで活発でなく、証券取引所での売買は鉄道公債などが一般的だったのは調べて初めて知りました。後世の大企業でも市場取引の記録のある企業がものすごく少なかったです。

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― 新着の感想 ―
[一言] この時代の証券取引所はまあ……。取引される金額多寡以外見るものないのかもしれないですね 何せこの頃の日本には先物取引までしていた米相場とかいうおかしなものが存在してますからねえ いや、明…
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