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平民宰相の世界大戦 ~原敬兄弟転生~  作者: 巽未頼
文久二(1862)年
8/109

第8話 盛岡藩主 南部利剛(中)

今日3話目です。

 陸奥国 盛岡


 翌日。藩主様が屋敷に来た。名目上は家老になる父との話し合いだが、四半刻(約30分)も話すと俺と兄が呼ばれた。藩主様のおもてなし部屋に初めて入ることになった。


「その見識は見事なものだった。一層励めよ」


 そう褒められた。


「とは言え、異国に対する考えは藩内でも大きく違う。あまりあの場で褒めるとそなた自身が目をつけられかねない。だから何も言わなかった」


 攘夷過激派か。面倒だな。


「大島に自由にさせている通り、魯西亜ロシアという敵を思えば異国の優れたものは取り入れねばならぬ。だが、我が藩も多くの借財がある。何でもかんでも、とはいかぬ。分かるか?」

「はっ」

「だが、その借財もその米があれば何とか出来るやもしれぬ。江戸では米価が少しずつ上がり続けていると報告が来ている。豊作になれば、近隣の藩や江戸に売れる」

「江戸廻送令にございますか」

「そうだ。江戸の奉行と横浜の奉行でさえあの御触れで揉めている。だが、そこに大量の米を売りこめば金になる。二人には期待しておるぞ」

「はっ」

「それと、直治の禄も増えている。その分は二人で差配できるよう言い含めておいた故、どう使うか話し合っておけ」

「ははっ!」


 藩の力にもなるというなら、頑張るしかないだろう。それに、自由にできる金もできるなら最高だ。


 ♢♢♢


 2人が部屋を出た後、残った直治は南部利剛に釘を刺された。


「いいか、確かに知は十分だが、家中を割りかねない揉め事に繋がらせぬようにせよ」

「はっ」

「金もひとまず今年の秋の収穫をもって与えれば良い。四十石分故百二十石の米で二百両は手に入れるであろうが、逆に言えばその範囲以上に過激な事をさせぬように。人も雇うなら選べ。己と、あの子等の身を守る為にも、な」

「確と進めて参ります」


 周囲との軋轢を生まないよう、出来ることを増やしつつも制限をかけさせる。情勢が不安定な今、尖りすぎた才能は危険も生む。南部利剛という人は、内部をまとめるのに最も難しい時期だからこそ、火種を大きくしない道を選んでいた。

 今年の収穫で実績さえ積めば、多少は無茶もきくようになる。だからこそ、今年1年は彼らに大人しくしていてもらう必要があった。


「それと、八角や大島と二人を会わせるのも秋以降だ。大島には蝦夷地の調査を命じてあるが、早くに結びつくと騒ぎだす輩が出ぬとも限らぬ」

「心得ております」

「騒ぎそうな家も米さえ増えれば多少は静かになる。それまで、とにかく時間を稼げ」


 収穫が増えさえすれば選択肢が広がる。開明的と言われる藩主であっても、家臣が全員開明的なわけではない。南部利剛にとってもこれはチャンスだが、だからこそ慎重さが求められるのだった。


 ♢


 秋になった。収穫は821.5石になった。平均すると反収3.1石だ。種籾にすると13万6000反分、らしい。


「盛岡藩の稲作は26万反程。稗田粟田を転作するなら43万反まで可能でしゅ」

「良くこの複雑な帳簿が読めるな、お前」

「色々この時代の本を読んだので、慣れました」


 結局英会話もフランス語会話も、大学時代の留学生やら仕事で製薬会社とのやり取りがあったから使えるレベルになったのだ。慣れるまで延々と読み続けたのが全てだろう。


「帳簿のつけ方ももうちょっと何とかしたいでしゅがね」

「そういう仕事は義母が全部やっていたからなぁ」

「一族経営の弊害でしゅね。財務状況が悪化しても他の人には気づきにくい」


 手をつけたい項目は多い。うろ覚えの地図から情報を書き出しながら、水田の位置を大まかに確認する。


「水田の位置はこんなかんじでしゅね」

「大まかにだが、このあたりは育つか微妙だな。今は寒すぎる。今年と同じくらい寒いと、育たないかもしれない」

「ではそれを父上に伝えましゅ」


 細かい調整は藩主様がするだろうが、そもそも育たない地域はこちらで示さないといけない。そのため非常に大まかな稲作・稗や粟の耕作地帯をまとめてもらっていた。家老の家柄でもなければ許されなかったことだろう。


「しかし、冬の内に相当な人数が教わりに来るからな」

「噂は領内にかなり広まっているそうでしゅね。越境してきた嫁がいるごくごく一部の家から漏れぬよう口外禁止になっているとか」


 各農村では『いわてっこ』について口外せぬよう通達があったらしい。誰かが口外した場合、その家には種籾で絶対に配られないとか。

 でも、今年は領内全土に米が植えられるわけでもないので、来年には周辺の大名にも知られることになるだろう。恐らく藩主様はそうして欲しがる大名に売りつける気だろうな。


 ♢


 800石の米は全て回収された。その分うちの領内の今年の年貢は半減だ。収穫と同量の米が渡され、彼らはかなりの収入になったと大喜びだ。年貢が半分でもうちは増収だし、献上したことで40石が加増の上父は出世である。うちの管理する農民たちは莫大な収入をえたため大喜び。十分だ。


「うちもこの屋敷の新築時の証文が若干残っていたからな。全て整理できた」

「それは何よりでしゅ」

「殿もお喜びだった。来年も頼むぞ」


 まぁ。少しずつでも改善する他なし。おかずも増えたし、栄養面の改善は今後に繋がるだろう。

明日は0時過ぎと12時過ぎの2話投稿です。


ロシアの漢字は意図的に色々使っています。民衆・武士レベルでは露助、正式な対応がある上級武士や藩主は魯西亜などです。

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