表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
平民宰相の世界大戦 ~原敬兄弟転生~  作者: 巽未頼
文久四~元治元(1864)年
16/109

第16話 異国の入口に集う者達(上)

♢♢♢の後は手紙ですが、意訳文なので「~候」とかは使用しておりません。ご理解いただけると幸いです。

『』の会話はフランス語で行っていると思ってください。

 蝦夷地 箱館


 箱館に大きな陣屋を構える盛岡藩。その大きさは幕府の役人所より大きい。常駐する200人以上の兵は盛岡藩で最も優れた装備が支給され、今年からは『いわてっこ』の優先配給もされている。

 八幡神社の脇を抜けると実質的南部氏の家臣が住む長屋街だ。坂の上の屋敷へ行くのはちょっと子どもには大変だ。


「健次郎殿は陣屋で寝泊まり下さい。色々と難しいお立場ですので」

「ご配慮いただき申し訳ございません」

「いえいえ」


 俺のサポートについてくれているのは八角やすみ宗積そうせき殿。八角高遠殿の息子で、現在数えで24歳である。


「某も陣屋で寝泊まりできるので、役得でございますよ。長屋は隙間風が」

「あぁ、成程」


 陣屋は堀もある小さな砦といっていい規模だった。到着後すぐ大部分の調査員は箱館奉行の元へ到着を報告に向かった。俺は少し歩いた場所にあるという外国人の居留地の近くに向かった。


「宗積殿は異国の人と話したことはおありですか?」

「昨年、父と共に亜米利加の技師殿と話しました。通詞殿がいないと話せませぬが」

「そうですか。居留地へは?」

「許可がなければ出入りは難しいですな。居留地以外でも会えますが」


 そんな会話をしつつ遠目で領事館などが集まる地域を眺める。十字架が掲げられた建物は教会だろうか。この時期だとロシア正教会かな。武士らしき人物がそこから出てくるのが見えた。

 街並みを少し眺めた後、まだ許可はえていないので外国人居留地には向かわず歩きはじめる。海岸沿いに歩きつつ、人の動きを眺める。外国人がすぐ隣にいながら、ここの暮らしは盛岡とあまり変わらない。比較的寒いのも一緒だ。

 少し歩いていると、先程正教会らしき建物から出てきた武士がやってきた。


「お?子どもとは珍しい」

「盛岡藩家老の次男・原健次郎と申します」

「おお。某は箱館神明宮の沢辺という者だ。そうかそうか、南部家中か」


 沢辺殿は笑いながら薄いあごひげをなでる。


「神社の方が正教会へ?」

「ほう、見ておったか。少し魯西亜人に請われて剣術を教えておってな」

「へぇ」


 そう言えば外国人は日本の武術が好きな人いるな。前世ロシアの大統領も柔道をやっていたはず。


「何処かで修練されたのですか?」

「これでも江戸の桃井道場で学んだ身でな。まぁそなたは知らぬだろうが」

「江戸三大道場ですか。凄いですね」

「ほう。いくつか知らぬがかなり勉強しているようだな」

「9歳にございます」

「南部の今後は明るいな。家老の跡継ぎがこの才覚とは」

「いえ、俺は次男でして」

「子のいない他家から引く手数多になりそうだな」


 目を見開く沢辺殿。


「さて、面白い出会いに感謝しよう。何かあれば山の上にある神社に来るといい」

「是非」

「ではな」


 あごひげを撫でながら、沢辺殿は坂の上に向かって歩いて行った。

 その後もすこし街並みを見ながら、1時間ほど後に帰った。船旅もあってか、その日はいつもよりぐっすりと寝ることができた。盛岡よりさらに涼しいおかげもあるかもしれない。この町に夏はあるのだろうか。


 ♢♢♢


 従弟殿へ


 箱館では日々新しき文物に触れ目を回すばかりで御座います。気づけば土佐とは違うこの地の寒さにも慣れて参りました。

 ハリストス教会のニコライ神父は魯西亜の回し者というより、純粋に我が国、我が幕府、天朝に関心を抱いている様子であります。

 異人の国は我が国を清の如く切り取らんとしていると今でも思っております。然れど、異人にも様々な考えをもつ者等がいるのも正しいようです。

 もう少し異人について学んでいこうと思います。武市半平太殿だけでなく、越後で助けて頂いた巻退蔵様にも感謝の念が絶えません。

 今度箱館に来ることがあれば案内など喜んでさせていただきます。お元気で。


 追伸 南部藩の聡明な子どもに会いました。南部藩は警固もあって多くの人が蝦夷地に来ているようです。

                                  沢辺琢磨


 ♢


 今日は内堀勘平殿に同行してもらい、上大工町にあるフランス領事館(というかスイス領事館)に向かった。スイス副領事を務める商人アンリ=ヴーヴがフランス副領事を代行しているとのことだった。

 入口で警備をしている幕府の武士に軽い持ち物検査を受ける。俺はほぼ完全に無防備だ。いわゆる応接室で待つ間、内堀殿と話す。


「しかし、我等は不思議な縁ですな」

「そうですね。原の家は浅井の生き残り。内堀の家は元浅井家臣ですからね」

「紆余曲折ありながら、今は同じ主君に仕えているとは」


 原氏は浅井一族だ。浅井長政の祖父・浅井亮政の叔父浅井定政が三田村氏に婿養子に入り、三田村氏として浅井氏滅亡時に生き残った。そして生駒氏家臣をへて徳川家光の頃に南部家臣となったのだ。内堀氏は浅井家臣から前田家臣をへて南部に仕えるようになった一族だ。


「では手筈通り。健次郎殿がフランス語で話した内容を某に伝えて頂くという事で」

「はい。お任せを」


 さて、俺のフランス語はどこまで通じるか。どうしたって時代が違うのだ。通じない部分は出てくるだろう。だが、こちらがフランス語を学んでいることを見せる事も大事なのだ。


『お待たせしたかな』


 入ってきたやや恰幅のいい男性が、内堀殿に握手を求める。事前に伝えた通り、内堀殿はにこやかに握手に応じる。隣に控える若い外国人が、片言で通訳をする。大丈夫。わかる。フランス語がわかる。


『いいえ。珍しい物も多く、楽しんでおりました』


 俺がそう答えた瞬間、内堀殿は笑顔のままだ。そして、相手の2人の顔色が変わった。


『今日は商談をしにきました。可能ならばフランス政府と。出来なければ商人・ヴーヴ殿と』


 俺を見て目を見開く通訳の男性とヴーヴを見据えながら、俺は言葉をつづけた。


『さぁ、お座りください。今日は長くなりますよ』

沢辺琢磨は坂本竜馬の従兄にあたる人物です。事件をおこして箱館まで逃げてきております。

彼の逃亡を手助けしたのが巻退蔵こと前島密です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 原敬の話なんて他じゃ何処にも見当たりません。 目の付け所が面白いです。 個人的にも岩手東北にはあまり詳しくないので、そういう意味でも作品の今後が楽しみです。 [気になる点] 斎藤義龍の頃か…
[一言] なにやら話が飛んだような…… フランス語話せるとか、周囲の大人に知られるとかそんな話し出てましたっけ? この時代の幕末の9歳児がフランス語話せるなんて、不可思議で一騒動、もしくは一悶着あっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ