第13話 原チルドレン?結成
1日多忙すぎて投稿できませんでした。申し訳ありませんでした。
陸奥国 盛岡
年が明けた。文久4(1864)年だ。
国民皆学を訴えている大島高任殿だが、同時に藩の御国産方頭取という、様々な生活必需品・軍需物資の藩内生産を促進する部署の人間でもある。
そのため、国外から買うしかない製品の国産化を任されている。勘定奉行かつ鉄砲方でもあるため、自分で予算を引っ張ってきて色々できる強みもある。
「とは言え、西洋諸国の最新式の銃はなかなか手に入らなくてね。ようやっと予算はとれたのだが」
「南北戦争に一気に持って行かれましたからね。終わるまで武器は買えないでしょう」
「それもだけれど、幕府でさえ中々手に入れられないのはとにかく武器を渡したくないからかもしれないね」
「攘夷を前面に出しすぎた結果ですね。一先ず言えるのは、様々な武器を適当に少量ずつ集めるのはやめた方が良いです。規格が違うので」
「規格?」
「規格です。西洋でも我等の尺寸と同じように度量衡というものがございますが、イギリスとフランスでは別の度量衡を使っております故」
個人的にはメートル法の方が圧倒的に使いやすいのだが、兄もヤード・ポンド法は日本の規格と合わせにくいと嘆いていた。
「可能ならフランスの大砲が欲しいですね。最強の陸軍国家ですから」
そろそろ緊塞式が開発されるのもフランスだったはず。ナポレオンの時代からフランスといえば陸軍国家だ。一方、海軍と言えばイギリス。ヴィッカース社の技術はぜひほしい。
「正直、目まぐるしく江戸や京都の情勢が変わりすぎていて怖いよ。高炉の鉄が、戦以外にも使えればいいのだが」
「幕府は年末に使節団を欧州に送りましたね」
「攘夷を求める声に応じて、横浜だけでも封鎖したいという事だが。無理だろうね、横浜は外つ国にとって使いやすい」
表向きは横浜港の鎖港交渉をするために向かった使節団だが、実際はフランス人の殺害事件にかんする賠償のため派遣されている。このあたりは歴史の裏だから、大島殿にも言えないのだが。
「私は今年、蕃書調所で仕事があるので日新館にはあまり関われない」
「幕府でもお仕事が?」
「ああ。これでも出役教授手伝という役務があってね」
蕃書調所は江戸幕府が欧米諸国について調べるために設置した技術・文化の研究所だ。大島殿はそこにもコネがあるらしい。顔が広いというか、探究心が人脈を生むというか。
「ありがたい事に日新館の生徒はかなり多い。殿からの支援と塾生の授業料でも何とかなるが、新しい機材を買う為にも更に頑張らねば」
「それを塾生になる予定の俺に申されても」
「君も平太郎殿も塾生とは違う気がするがね。学ぶ側というより教える側な気がするが」
この年齢の人間が教えるなんておかしいだろう。
「そうでもない。君より二つから四つ程上の子は教える人間が足りなくてね。そんな歳でうちに通いたい子がこれほどいると思っていなかったから」
「それを兄が教えろ、と?」
「で、君がそれを補佐する。大丈夫、その分好きな道具を好きに使って良い事にしよう」
「ふむ」
ガラスの道具類もふくめ、色々な道具が使えるのはありがたいかもしれない。兄の知識と技術を発揮するのなら、そういう環境は金で整備するのも困難だ。
「兄上に聞いてみます」
「ぜひ頼むよ。私がもう少しここに居られる時間がとれれば良いのだが」
偉くなるほど研究者としての活動に専念するのは難しい。俺の大学時代の教授も、4年の時は分野をまたいで色々な会議に参加させられ、准教授が講義を代行することが少しあった。大島殿もそういう立場になりつつあるという事だろう。
♢
兄と話した結果、兄と同い年までである程度本気で学ぶ気のある人間のみ教えることとなった。
どうやってそれを見極めるのか、という点は2人で考えた。3日間とにかく過酷な計算問題をやらせる。そして3日目に試験。これでいこうと決めた。試験用に昨年からもらっている父の禄の一部で紙を買い、依頼して黒板を作ってもらった。この時代でも作れる程度の道具で、チョークも海岸部から貝殻を入手して作った。兄が作製した石製の粉砕機で粉々にした貝殻を少量の水で固めたものだ。漢数字ではなく完全にアラビア数字なので、年上ほど慣れないのがポイントだ。年上ほど情熱をもって取り組まないと習得できない。
「ま、丸が書きにくい」
「筆が割れそうだ」
筆だと書きにくい、という点は盲点だった。小さい黒板を用意してチョークで書く練習をした方がいいのだろうか。
黒板の前に出て数人に書いてもらうとすらっと書ける。筆の難易度は東洋・西洋という文化の違いがでてしまう部分だった。
3日間終わった後、足し算引き算の試験に合格しないと兄に教わることはできないと宣言する。結果として、約半数が3日目までに来なくなった。日新館で教わるだけなら他の教師役がいる。そちらはスパルタではない。俺や兄目当てで中途半端な覚悟の人間は早々にそちらに移るか辞めていった。
4日目の試験では一発合格は片手で数えられる程度だった。それでもなおと食らいついてきた、再試験を望む人たちは合格扱いにした。求めているのはやる気だ。最初いた人数は70人くらいだったが、結局残ったのは18人。俺を含めて20人で頑張っていくこととした。
ちなみに、日新館は当初計画より規模が大きくなりそうなので、来年には女子が学べる部門も用意するらしい。こちらはあまり西洋学問というかんじではないようだが、読み書きができる女性を増やそうという考えのようだ。兄は月15日は藩校である明義堂で勉強しているので、日新館は月10日だけだ。俺は太田代先生のところが月10日、日新館が月10日である。合間合間に農作業の指導とかが入るので、忙しいこと極まりない。
「明義堂の武術訓練が大変でな」
「武士たるもの、自分の命は守れですか?」
「母上の実家の都合上、ある程度槍も使えねば恰好がつかないしな」
「あぁ、そういう事もあるんですね」
母リツの実家は槍術道場を開く武門の一家である。そのため母自身も護身術は身につけており、俺含めて多少はその修練をさせる。俺は年齢的にそこまでではないが、兄には嫡男ということもあって求めるレベルが高いようだ。
「しかし、月に10日以外はどう進めますか?俺は他の日新館の先生に学ばせても厳しいと思いますが」
「正しい科学リテラシーの身についた人材は今後喉から手が出るほど欲しいからな。中途半端になるより、私たちの教育だけで完成して欲しい」
「となると、俺がしている実家の田んぼの作業手伝いと薬草園の手伝いかな」
「ビオトープが造りたいな。自然科学は秘かに他の学問にも重要だ」
「あぁ、成程」
化学・物理はいいのだが、どうにも自然科学・生物は西洋と東洋では違いが大きすぎるだろうし。気象とかもそうだが、生物という学問は医学や畜産にもつながる。
「生き物の飼育もした方がいいですか?」
「私はあまり色々育てるのはオススメしないけれど」
「畜産も近代化するには必要では?」
「あぁ、そうか。畜産業を育てないと肉食文化が弱いのか」
「寒いから羊毛欲しいですね。羊も育てないと」
「ジンギスカン、食べたいな」
「食べたいですね」
羊の輸入は出来るのかな。毛がもこもこすぎる種は湿度が高すぎて育てにくいとは前に聞いたことがあるけれど。
大島高任は幕府系の人物ですが、明治新政府でも重要人物になりました。彼がいたから盛岡藩への処罰が一部軽減されたという説もあります。
史実より資金が豊富+原兄弟も自費で少し投資している関係で、日新館は先進性が増しています。