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Answer  作者: 異世界転生愛好家
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第一章 第二話「力の使い方」

 光から解放されて、初めに見えたのは広大な平原だった。


 一見すれば、ごくごく普通の平原である。近くには森があり、さらに遠くにはうっすらと城のような建造物も見える。

 しかし、元いた世界には絶対に存在しない物がある。それは、


「やっぱモンスターとかお約束的にいるんだな...」


 森の入口にある立看板に目を通しながら、鏡瀬零矢は呟いた。

 書いてある文字自体は見たことが無かったが、力を貰った影響からか読めるようになっている。

 『この先、モンスター注意』と記されていた。


「何だ?兄ちゃん、この森で何かあったのか?」


 立看板の前で立っていると、ふと後ろから話しかけられた。

 振り返ると、大きな荷物を背負った小太りの男が立っている。


「ああいや、このモンスター注意ってのは、どの程度の話なんだ?単独で入っちゃまずいのか?」


「何だ兄ちゃん、そんなこと気にしてたのか。この看板が大袈裟なだけだから気にすることなんかねえよ」


「良かった。教えてくれてありがとうな」


「礼には及ばねえよ。ところで兄ちゃん、勇者の話は知ってるか?」


「勇者?」


「何でも、俺達一般人より魔力のステータスが一万倍高いって話だ。伝承によると、ここら辺に近々降臨するらしいぜ」


「へ、へえ」


「勇者が降臨するとよくないことが起こるって噂もあるから、兄ちゃんも気をつけろよな。んじゃあな」


 その男はそう言うと、森の中へと進んでいった。


「...結局、魔女とやらがどこにいるかわかんねえとな」


 男の背中が見えなくなってから、鏡瀬零矢はため息をついた。

 神から言い渡された条件である魔女の討伐だが、それについての話がまだ出て来ない。

 鏡瀬零矢としては一刻も早くそれを済ませたい所であるが、このままではいかんせん情報不足だ。


「都の方に行ってみるか」


 ひとまず彼が出した結論はそれだ。

 情報が足りないのならば、情報を探すしかない。ここら辺で無駄な思考に時間を浪費するよりはずっといいはずだ。

 青年は手を組んで一度大きく伸びをしてから、上から降る視線にすら気づかずに遠くに見える城へと歩いて行った。



※ ※ ※ ※ ※ ※



「うわっ!なんだこれ...気持ち悪い...」


 平原と国の間に広がっている、鬱蒼とした森。

 その森の中で、彼は見慣れないモンスターに対する攻略法を探していた。

 モンスターといっても、単なるスライムなのだが、倒し方がわからない。神の力とかいうやつを使えば倒せるだろうが、そのせいで辺り一帯を吹き飛ばしたみたいな事態は絶対に避けなければならない。


(ま、スライムは雑魚モンスターのド定番だし、何とかなるか...)


 とりあえず楽観視してみることにした。すでに空はうっすらと赤くなり始めている。時間がない。

 鏡瀬零矢は近くの少し大きめの石を持ち上げ、スライムに向かって勢いよく降り下ろした。

 それと同時にスライムは潰れ、ぐちゃりと嫌な音がした。


(オーケー...何とか倒した)


 安心して、鏡瀬零矢は石から手を離した。


 離した、と、彼自身は思っていたのだが。


 離そうとした瞬間に、スライムが腕の周りに巻きついてきた。

 鏡瀬零矢は慌てて渾身の力を発揮したのだが、石ごとスライムがくっついてきて話しにならない。


「何でだよ!神の力が付いてきてるっていう話じゃなかったのかよ!」


 だんだんと体全体を包み始めるスライムに、鏡瀬零矢の頭は混乱状態にあった。

 混乱している頭で、鏡瀬零矢は記憶を探る。何かがおかしい。何故神の力が働いていない?


 結論から言えば、その理由は実にしょうもない物だった。


 森に入る前に男が言っていたことだ。


『勇者は、魔力のステータスが一万倍高いって話だ』


 その魔力を、鏡瀬零矢は使えない。たったそれだけのこと。


(たった、それだけのことで、俺は死ぬのか)


 いざ結論に達してみれば、実にあっけない。


(さよなら、二度目の人生...)


 次の瞬間、鏡瀬零矢は意識を落とした。



※ ※ ※ ※ ※ ※



 目を開くと、鏡瀬零矢は森の中にいた。


 しかし、さっきの場所とは明らかに様子が違う。ここだけ木が無く、しっかりと空が見える。明らかに人の手が加えられていた。


(...何とか死は回避出来たらしいな)


 体を起こして、鏡瀬零矢は辺りを見回す。周辺はすっかり暗くなっていたが、近くに焚き火があるおかげである程度視界が保てている。場所は崖の近くで、崖の側面には掘ったような洞穴があった。


「なにやってるんですか!?」


 ふと、後ろから驚いたような声が聞こえてきた。

 振り返ると、そこには二人の少女が立っていた。


 とてもよく似た少女だ。

 身長も同じくらいで、両方とも同じく透き通った紅い目を持っている。

 明確な違いは、一方が白、もう一方が青い髪を持っていて、青い髪の方は後ろで髪を結んでいる、といったところか。

 どうやら、白い髪の少女の方が青い髪の少女に向かって何か言っているらしい。


「もう...ミラはお人好しが過ぎますっ!なんで森の中で倒れてた人なんて連れてきちゃったんですか!?」


「まあまあ...でも、カラが同じ立場だったら、同じように助けるでしょ?」


「ぐっ...え、ええい!丸め込まれてはいけないのですよ私ぃっ!だ、大体、スライムにやられてたってどういう事なんですか!この人がまだ眠っているから言いますけどね、スライムにやられるなんて雑魚ですよ雑魚!傷とか呪いの類も無かったんでしょう!?」


「ちょ、ちょっと、カラ...」


「なんですかミラ!文句があるならこの人に...あっ」


 自分が起きていた事に、カラはようやく気づいたようだ。

 もちろん、さっきまでの会話もしっかりと聞いている。夢であってくれ。


「は、ははは...そ、そうですよね、スライムにやられるなんて、雑魚...ですよね...」


「い、いや違うんです!ほ、ほら、魔力切れを起こしたとか...うん、きっとそうですよ!そうですよね!そうであってくださいぃ!」


(くっ...悪意なしのフォローになってないフォローが痛いっ...!)


 一人の青年と二人の少女が出合い、神は不敵な笑みを浮かべる。

 過程はどうあれ、勇者の物語が始まった。

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