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第三話・イルマとの永遠の契約





 木の棒でつつくたびに跳ねるシュイロさんの体が面白くて、うつ伏せで痙攣するシュイロさんを何度もつついた。


「や、やめろぉぉぉぉぉ……触るんじゃない……」


 これが先ほどまでワーウルフの群れに一人で大太刀回りしていた人とは思えない。


「……ふっ……く……あっ……」


 つついてつついてつつきまくる。呻くシュイロさんは面白い。


「ははっ」


「……うっ」


「ふふふっ」


「かはっ……」


 あんなに強かったシュイロさんが、今では私の手のひらの上、口元のにまにまが抑えられない。


「ねえねえ、シュイロさん。やめてほしい?」


「……ぜひとも頼む」


「じゃあ私とパーティー組んでよ、記憶なくて行くとこないんでしょ? そしたらわたしが」


「断る。パーティー等というよくわからない契約に乗るわけにはいか、なああぁぁああん……やめろぉ!」


「いーやっ、シュイロさんがパーティー組んでくれるまでやめない」


 はいと言うまで絶対にやめてあげない。だって行動しろって言ったのはシュイロさんだもん。


「……ふぐっ……卑怯だぞ」


「シュイロさんには無理なんてないんでしょ? 私を止めてみてよ、ほら行動して」


 それから百回くらいつついたら、シュイロさんが答えてくれた。


「……わかった、そのパーティーとやらを組む、だからやめてくれ、頼む」


「ふふふふふ、途中でやめるなんてシュイロさんはしないよね、信じてるから」


「あぁ、受けた依頼を反故にしたことなど一度もない、約束しよう」


「記憶ないのに変なシュイロさん。あ、パーティーになるからシュイロって呼ぶね」


 とりあえずワーウルフの死骸が散らばってるから片付けよう。毛皮と牙はお金になるし。それにマッドベアの素材もたんまりとある。パーティーになったんだし、お金になるのは共有財産だ。私も働かないと。





 やられたっ! まさか無力だと思った相手に不当契約を結ばされるとは。人間め、あなどれん。


 日が中天に回ってようやく俺は立ち上がることができた。まだ全身に痛みが走っているが、この森で休むわけにはいかない。


 幸い、死体の処理は俺が起き上がる前にイルマが済ませといてくれていたので歩くだけで済む。だが足が生まれたての小鹿の様に震える。


「シュイロ大丈夫? もうちょっと休む?」


「問題ない。森を出るのが先決だ、案内を頼む」


 熊の毛皮でイルマが金になると言っていた素材をくるんで背負う。背負った時に全身に激痛が走るが、問題っない!


 筋肉痛で倒れていた時に考えた。今の俺の状況はかなり不味い。


 現在世界がどこかわからず、上官や同胞との連絡が一切取れない。そして衣食住を欲する人間の体。魔物と呼ばれる外敵生物の存在。


 これはしばらく任務に戻れそうにない。まずは生活基盤を作らねば生存が危うい。


 それにこのイルマという少女と結んだ契約もある。


 顎のラインで一周するように切りそろえられた髪、前髪は眉の上で横一線に切られて表情がうかがいやすい。毛先から言って自分で切っているのだろう。ということはイルマは本人の情報通り裕福ではない。


 気になるのはその髪色だ。俺が担当していた地球でも見たことが無い、黒の下地に薄緑の髪がところどころ混じっている。艶の感じから地毛のはず。食べ物の影響でそうなっているのか、それとも魔力というものの影響か。もしこの髪色が普通の世界であるならば、外見からの情報収集の認識を改めねばならないということになる。


 体は百六十センチほどの痩せ型、服装は血で所々汚れた質の悪い服に皮の胸当てがついている。血はワーウルフの解体をしたからか。


「イルマ、パーティーというのはなんだ、そろそろ教えてくれてもいいだろう」


 先を行くイルマが振り返りこちらを見る。薄緑の瞳が昼の日差しで輝いている。しかし表情が乏しいためか、どこか無機質のような印象を受ける。整っているがいわゆる幸の薄い顔といえばいいだろうか。


「うん、いいよ。パーティーっていうのは、いつも一緒に活動する冒険者グループのことを言うの。私たちの場合は二人だからバディーっていうんだけどね」


「バディーか。それだけならわかる。だが一緒に活動するだけなら契約はいらないのではないか?」


「パーティー契約をしてギルドに申請すると、いろいろと支援を受けられるの。例えばパーティー用の銀行口座を持てたり、支援プログラムに参加できたり、一つ上のランクの依頼を受けられたり。あとパーティー専用の依頼とかも受けられるようになるんだ」


 なるほど、その特典を受けるために契約をしたのか。理にかなっている。それに俺にも恩恵がありそうだ。


「わかった、すまんが冒険者についても教えてくれ。俺の持っている情報と差異が無いか確認したい」


「冒険者は、冒険者ギルドで登録した人のことだよ。冒険者になると冒険者ギルドが請け負った依頼を受注することができるの」


「俺の知っている情報と変わりはなさそうだな。何でも屋と考えてもいいのだろう?」


「んーそうかも。でも何でも屋っていう職業の人もいるから、厳密には違うよ。理由はわかんない」


「理解した。そうなると俺とイルマの契約は、一緒に冒険者としてパーティーを組んで働く、ということで間違いないな?」


「うん、よろしくねシュイロ」


 思うところはあるが、ここでごねても何にもならない。契約したからには完遂するだけだ。


「あぁ、よろしく頼むイルマ。ところで契約期間についてなんだが」


「一生」


「すまん、もう一度言ってくれ」


「一生、私とシュイロは一緒」


「はっはっは、何を冗談を。そんな契約があるはずが」


「冗談じゃないよ? これからシュイロは私が死ぬまで、ずっと一緒に仕事をするの。そういう契約なの」


 イルマの笑顔はとても晴れやかな笑顔だった。


 この契約を完遂するのは極めて厳しい道のりになりそうだ。




 森を抜けて、人の手が入った土の道に出た。イルマの案内に従い道を歩いていく。今のペースであれば夕方にはレイラの町に着くそうだ。


 イルマにこの世界の情報を聞きながら歩いてしばらく経った。


「あそこの丘を登ればレイラの町が見えるよ。ここら辺ではおっきなほうだから、人口も一万人いるし」


 丘を登ると、遠くに石の城壁で囲まれた町が見えた。外観からして地球で言う中世当たりの建物が主だが、ところどころに地球の中世の技術では不可能な高さ・形状をした建物が見える。よく目を凝らすと城壁自体にもぼやけるような薄い膜がある。


「町全体が薄い膜で覆われているが、あれはなんだ?」


「あれは領主サルマン様の結界魔法、あれがあるから町に悪意のある魔物とかが入ってこれないようになってるの」


 結界魔法……俺が使っていた神域の神威のようなものだろうか。魔法についてもしっかりと学ぶ必要があるようだ。もしかしたらなくなった神威も魔法で再現できるかもしれない。


「そういえば聞いていなかったな。イルマは魔法を使えるのか? 見たところ肉弾戦をするようには見えないが」


「私は……うん、パーティーになるんだもん、隠すわけにはいかないよね。私はジョブでいうと魔導士になるんだけど、その……魔法が苦手なの」


「魔導士か、魔法が苦手とはどういうことだ? もしやそれが理由でパーティーが組めなかったのか?」


「うん半分はそう、魔力をコントロールするのが苦手でね。みてて。偉大なる火の神よ、私の手にその怒りを表せ、ファイアーボール」


 イルマが人差し指を立てると、その先にこぶし大の火の玉が現れる。人差し指を前に振ると、火の玉も前へと進む。


「……ね?」


 火の玉は三十センチほど進んだところで霧散した。形式的に放出型の神威に似ているが、これでは使い物にならないだろう。


「なるほど、今のが魔法か。役に立ちそうにないな」


「うん、役に立ったことなんてない。シュイロは魔法見たことないの? あ、記憶がないんだっけか」


「そうだな、見るのは初めてだ。俺にも魔法は使えるのだろうか」


「んー適性次第だけど、わかんない。でも魔法もスキルも使わずにあれだけ戦えるんだからすごいよ。シュイロはなんの職業だったんだろうね」


 自分の戦い方を考えてみる。基本的に転生殺人術が主な戦い方だが、一様にどのような戦い方をしているとは言いづらい。『通り魔』系は暗殺技術に近いな。神威が無くても使えるものとして『酔っ払いの喧嘩で死亡』や『扉を開けたら強盗殺人』といった正面から戦士の様に戦うものもある。魔法が使えて再現ができるのであれば『眼前でこけるトラック』は乗馬術、『まさか爆破テロが起きるなんて』は火魔法、『寝ている間に崩落事故』などはサイキックになるのだろうか。魔法がある世界の場合はサイキックは何というのだろう。


「昨夜の様に正面から戦う戦士のような技術はある。暗殺技術も習得しているし、弓や銃といった遠距離武器も得意だ。これだとどうなるんだ?」


「んーじゅうっていうのがよくわからないけど、遠近どちらもいけて暗殺もできる……防御関係はできる?」


「防御関係とはなんだ? 遅滞戦術用の技術は覚えているが」


「えっと、敵を引き付けて戦うナイトとかパラディンっていうジョブの人がいるんだけど、シュイロはできる?」


「囮の役をする職業があるのか、珍しいな。戦場の歩兵や殿とは違うのか?」


「戦場はまだ経験したことがないからわからないけど、役割は似てると思う。そうだな、『ハウルボイス』とか『強者の威圧』っていうスキルで敵を引き付けて、その間に他の人が敵を倒すの」


「すまないがそれはできそうにないな。スキルというものも俺にはわからない」


「そっか、そしたらー……んー戦士もできる斥候、かな? なんてジョブになるんだろう……」


「そのジョブというのは必ずしもつかなければいけないのか? 俺としてはどうでもいいことなのだが」


「冒険者登録するときに記入しなきゃいけないの。ジョブを変えるときは申請する必要があるし、あ、でも大丈夫。登録するときに能力鑑定してもらえば魔法適正とジョブ適性がわかるから」


 能力鑑定……CTや人物解析のようなものだろうか。


「ではその能力鑑定とやらを受けるまでは何もわかりそうにないな。町に着いたらすぐに受けてみることにしよう」


「うん、それがいいとおもう、私もシュイロのこともっと知りたいし」





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