パフェット・スパイダー①
「『パフェット・スパイダーのコンサートチケット』!? ヴィオレッタさん、これどうやって手に入れたんですか!?」
魔術特訓の休憩時間中に、ヴィオレッタさんが持っていたそのチケットを見て俺は思わず大声で反応してしまう。それもそのはず、『パフェット・スパイダーのコンサートチケット』といえば、四天王とアイドルを兼業しているパフェット様のライブコンサートに行くことの出来るチケットであり、あまりの人気ぶりに毎回チケットは当日完売、入手困難と名高い代物だからだ。
「ええ、実は本人と少し面識がありまして⋯⋯。昨日、プレゼントされたのです」
うん、流石にもう驚かない。ヴィオレッタさんも最近はマリー様やグレアと親しい間柄なこと隠してないし。本人の口から直接は聞いてないが、ヴィオレッタさんは魔王軍において四天王と同じくらいの立場であることは間違いないだろう。
「それは凄いですね! いいな~、俺も1回行ってみたかったんですよね」
「⋯⋯じ、実は、チケットは2枚貰ったんです。シルバさんさえよければ、一緒に行きませんか⋯⋯?」
「え、いいんですか!? グレアとかマリー様とかを誘った方がいいんじゃ⋯⋯」
「いえ!! し、シルバさんがいいんです!!」
そこまで言われたら断る理由はない。俺はヴィオレッタさんの手を握りしめて感謝を伝え、後日一緒にライブに行く約束をしたのであった。
「し、シルバさんに手握られちゃった⋯⋯! こ、これってデートってことでいいんだよね!? あの子がわざわざ2枚チケットを送ったことは少し気になるけれど⋯⋯。でも、楽しみ!!」
〇〇〇〇〇
「お前ラ、盛り上がってるカ~!?」
「「「うおおおおおおおーーー!!!!」」」
「キャハハ!! なあ、オレさま、可愛いよな~? ⋯⋯おい、可愛いって言えヨ!!」
「「可愛いぃぃぃーーーー!!!!」」
「よくデキマシタ♡ ご褒美に、お前ラ皆、もっともーっと、オレさまの虜にしてやるゼ!! 覚悟しろよナ!!」
「「「うおおおおおおおおおおおおーーーー!!!!?」」」
ギザギザの歯をにかっと剥き出しにして微笑み、バチンとウインクを決めたパフェット様に観客は一斉に湧き上がり歓声を上げる。俺は正直この熱狂ぶりに若干引いていた。隣のヴィオレッタさんも似たような反応をしている。
確かに、パフェット様は可愛い。ダンスを踊る度にフリル付きの衣装がフリフリと揺れ、それに合わせてピンク色のツインテールもふるふると可愛らしく揺れている。また、アラクネ族特有の蜘蛛の下半身やグルグルと渦巻いた瞳などの魔族特有の部位もまた、ギャップとしてパフェット様の魅力をより引き立てているように見える。
ただ、俺は周りにいる魔族ほど熱狂できない。その理由は俺がこのライブに来たのが初めてというのもあるが、実はもうひとつ別に理由はある。そっちの理由は、まあ、俺個人の好みの問題というか⋯⋯。
「これで最後ダ!! お前ラ、今日はわざわざその短い足をえっちらおっちら運んで来てくれてありがとナ!! お土産にオレさまの糸をプレゼントしてやるゼ~!!」
パフェット様はステージ上でくるくると可愛くターンを決め、それと同時に観客席に糸の雨を降らせる。糸を回収せんと皆が血走った目で争う中、ぼーっと突っ立っていた俺の元に、一枚の紙がふわりと落ちてきた。
『楽屋で待ってるゾ。絶対来いよナ!! パフェット☆スパイダーちゃん様より。 ぴーえす・ヴィオレッタは連れてくるなヨ!!』
可愛らしい丸文字で書かれたそのメッセージを読み終わり顔を上げると、ステージ上から俺に向かってウインクするパフェット様と目が合った。どうやら、このメッセージは確実に俺に向けて送られたものらしい。本当はヴィオレッタさんに相談したいところだが、連れてくるなと書いてあるのでヴィオレッタさんに知られたら何か不味いことがあるのかもしれない。
俺は、一抹の不安を感じながらも、ヴィオレッタさんにトイレに行くと一言断って、紙のすみに小さく書かれた地図を頼りにパフェット様の楽屋へと向かう。
楽屋までの道のりは、なかなかに長かった。そもそも、ライブが行われた会場が魔王様が趣味で制作した迷宮型ダンジョンの地下50階層にあたる大広間だ。そして、地図に記された楽屋があるのは1つ上の階層。この階層は迷路形式になっていて侵入者を迷わせる複雑な構造となっているため、アバウトな位置しか書かれていないこの地図では正しいルートがよく分からず普通に迷った。
しかし、苦労の末ようやく俺は楽屋のあるドアの前までたどり着くことが出来た。迷路を駆け抜けた上に、大物に会う緊張もあり激しく動く心臓を落ち着かせるためにも、ふう~っと小さく息を吐き、気合いを入れて一気にドアを開く。
「おじゃまします。言われた通り楽屋にやって来ましたけれど、一体どんな用件で⋯⋯」
「アハ!! 引っかかったな馬鹿メ!!」
楽屋に入った直後、俺の身体はパフェット様の糸によってグルグルと巻かれ床に倒されてしまった。突然の事態を理解出来ずに困惑していると、天井から落ちたパフェット様が俺の上に着地し、馬乗りになった。可愛らしい顔に悪そうな笑みを浮かべ、じゅるりと舌なめずりをしたパフェット様は、俺の顔にぐんっ! と自分の顔を近づけてくる。
「フーン、グレアとヴィオレッタが夢中になってるって噂を聞いテどんな奴か気になってたケド⋯⋯ただの冴えないゴブリンじゃないカ」
「ぱ、パフェット様、これは一体何を⋯⋯?」
俺がそう尋ねると、パフェット様は楽しそうにアハッ! と笑い、再び舌なめずりをしてからこう答えた。
「オレさま、意地悪なんダ。他人の欲しいモノを、ついつい奪いたくなっちゃうんダ。だから、お前はオレさまのものにナレ」
パフェット様の足は、俺を誘惑するかのように、一定のリズムでお腹から徐々に下へと下がっていく。蜘蛛の鋭く尖った足で軽く突かれる感触はこしょぐったい。そして、パフェット様の足は俺の股間まで来たところでその動きを止めた。
「フフ、オレさまの誘惑にお前はすでにめろめろダロ? だって、オレさま可愛いもんナ!! ほーら、股間もこんもりと盛り上がって⋯⋯!? ま、全く反応してなイ!? な、何故ダ!?」
それまでの余裕たっぷりの態度が一変、面白いほど狼狽え始めるパフェット様。⋯⋯正直、この状態のパフェット様に追い打ちをかけるのは望みではないが、涙目になって必死に俺のアソコを反応させようとしているパフェット様を見てると段々可愛そうになってきたので正直に打ち明けることにする。それに結構痛いし。
「すいません、パフェット様。俺、実は⋯⋯胸の大きい女性が好みなんです。正直、パフェット様は、その⋯⋯タイプじゃないです」
パフェット様の胸に視線を向けると、悲しいかな、そこには一切起伏のない大平野が広がっていた。パフェット様は、ギギギ⋯⋯という擬音が聞こえてきそうなほどぎこちなく首を動かし、自らの胸に視線を落とす。両手ですっと胸をなで下ろすと、一切抵抗を受けることなくそのままストーンと手は下に落ち、俺の顔へと当たった。
「⋯⋯せなイ」
「あ、あの、そろそろ上から降りて貰っても⋯⋯」
「許せなイ許せなイ許せなイ!! ここまで侮辱されたのは生まれて初めてダ!! 覚えてろよシルバ、オレさまのすーぱーなテクニックで、お前をぜーったいにオレさまの虜にしてヤル!!」
顔を真っ赤にしてそう怒鳴ったパフェット様は、ぷりぷりと肩を怒らせながら楽屋を飛び出して行ってしまった。え、この糸ほどいてくれないんですか?
ちなみに、俺がいつまで経っても戻ってこないことを心配したヴィオレッタさんが、100体あまりの人形を総動員して俺を見つけたのは、その翌日のことであった。同じく捜索用の魔術具で俺を探してくれていたクルルと一緒に楽屋に飛び込んできた2人の姿は、まるで女神のように見えた。
しかし、俺の受難はこれで終わりではない。むしろ、これはまだ始まりに過ぎなかったと悟るのは、さらにその翌日であった。
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