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シルバの居ない一日

今回は三人称でお届けします。

 魔王軍四天王の1人、パフェット・スパイダー。彼女が四天王に選ばれたのは、その類い希なる才能故であった。”技”の2つ名を付けられたのも、その才能に起因している。

 

 彼女は、一度見た技はどんなモノでも再現出来る才能を持っている。魔法でも、武術でも、一度見た以上彼女に再現出来ないモノはない。再現出来ないモノがあるとすれば、それは種族特有の個性だったり、契約魔術だったりという特殊な条件が必要なモノくらいだ。


 しかし、そんな彼女にも決して再現出来ないモノはある。それは、感情の動き、つまり『心』である。彼女がアイドルをしている理由は、勿論自分の可愛さを見せつけた上で改めて可愛さを認めて貰いたいという願望が大部分を占めているのは確かだが、観客と自身の心が合わさる一体感、歌やダンスによる気分の高揚、そういった感情の動きが新鮮だからというのもあるのだ。


 そして今、パフェットの心はこれまでの人生の中で一番激しく揺れ動いていた。その原因は、視線の先にあるボロ小屋、正確に言えばその中に居るゴブリン、同じ四天王であるシルバのせいだ。


 パフェットは、少し離れた場所に立っている木の陰に隠れながら、小屋の様子を伺っていた。その手には、可愛らしいバスケットが握られている。今日は、いつもご飯をご馳走になっているお礼に、クッキーを焼いて持ってきたのだ。

 シルバと幼なじみだというククルに彼の好物を尋ねたところ、甘いお菓子が好きだと教わったので、頑張って手作りしたクッキーは、甘いミルク味。蜘蛛の形がなんともチャーミングで、可愛い自分にぴったりの最高に可愛いクッキーにできあがったと自負している。


 あとはこのクッキーを渡すだけなのだが、シルバの家に向かおうとすると、心臓がバクバクと激しく音を立てて身体が思うように動かない。いつも自分が料理を食べるところをニコニコと優しい顔で見つめてくれるようなシルバのことだ、きっとクッキーを渡してもあの笑顔で受け取ってくれるだろう。


 しかし、もし受け取って貰えなかったらどうしようという恐怖が、躊躇いを産む。こんなことは産まれて初めてで、パフェットは混乱していた。


「だ、大丈夫。オレさまは可愛いカラ、何も問題ないんダ。で、デモ、もしクッキーが美味しくなかったらシルバに嫌われちゃうかもしれナイ⋯⋯」


「よおパフェット!! こんなところで何ブツブツ呟いてんだ?」


「ギャアアアアア!!? ぐ、グレア、何でここに居るんダ!?」


 背後からいきなり話しかけられ、悲鳴を上げ跳び上がるパフェット。そして、話しかけた本人であるグレアも、予想以上の反応に驚き目を丸くしていた。


「いや、腹減ったからシルバに飯をおごって貰おうと思ってな。お前こそなんでここに居るんだ? もしかしてアタイと同じ理由か?」


「そ、ソウダ! いっつもわざわざ飯を持ってきて貰ってるからナ。たまには自分から行こうかなって思ったんダ!!」


 正直にクッキーを渡しに来たとは、照れくさくて言うことが出来なかった。慌ててバスケットを空間魔術で異空間に隠し、パフェットはグレアに話を合わせることにしたのだった。


「それなら、そんなところでモタモタしてないでさっさと行こうぜ!」


「ちょ、ちょっと待テ! まだ心の準備ガ⋯⋯」


「アイツに会うのに遠慮はいらねぇだろ! 早く行こうぜ、もう空腹が限界なんだ!!」


 パフェットの複雑な乙女心など知るよしもないグレアは、渋るパフェットの腕を引っ張って無理矢理連れて行く。これから食べるシルバの飯を想像してか、ご機嫌に鼻歌交じりである。


「おーい、シルバ~!! 飯貰いに来たぞー!!」


 大声で呼びかけ、乱暴にドアをノックするも、返事は返ってこない。どうやら、シルバは留守のようだ。パフェットは、ほっと息を吐く。少し残念な気持ちもあるが、クッキーはまたいつか渡せばいいだろうとそう思った。


「な、なあグレア、シルバは居ないみたいだし、一旦出直し⋯⋯」


「無視してんじゃねえぞシルバぁーー!! オラぁ!!」


「なんで壊すのォォーーー!?」


 グレアの思わぬ暴挙に、パフェットは悲鳴を上げた。目の前には、グレアのパンチで破壊されたドアの残骸が無残な有様で地面に転がっている。しかも、あまりの破壊力でボロ小屋の壁の一部まで壊され、半ば半壊状態になっていた。


 これじゃあシルバに嫌われてしまう。絶望感でパフェットの目の前は真っ暗になった。軽いパニック状態に陥り、涙を浮かべ、元々渦巻いている瞳をさらにグルグルと回転させたパフェットの頭は、とんでもない結論を導き出した。


 ――そうダ、グレアを消して、家を壊したことをなかったことにしてしまおう。


 パフェットは、無防備なグレアの背中目掛け、無言で糸を吐いた。しかし、勘が鋭いグレアはギリギリでそれを回避する。


「うお!? おいパフェット、いきなり何しやがるんだ!! 危ねぇだろうが!!」


「オレさまは嫌われたくないんダ⋯⋯! ごめんグレア、死んでクレ!!」


「おお? なんだかよく分からねぇが、喧嘩なら買うぜ。かかってきなぁ!!」


 元々細かいことはあまり気にしないたちであるグレアは、パフェットの突然の凶行を理解することを放棄し、純粋に戦闘が出来ることを楽しむことを決めた。この女、とことん脳筋である。

 

 拳を打ち合わせ、雄叫びを上げるグレアに対するは、涙目のパフェット。しかし、その身体からは殺気が立ち上っている。2人とも戦う準備は万全であった。


 

 ところで、四天王で誰が一番強いかと聞かれた時、魔界に住む多くの魔族はグレアが一番強いと答えるだろう。それは、単純にグレア以外の四天王は滅多なことでは戦う姿を見せないことが原因である。しかし実際のところ、四天王の実力はシルバを除けばほぼ互角である。マリーが単体だと若干劣るくらいだろう。


 魔力は一切無いが、その類い希なる戦闘センスと圧倒的な破壊力でもって敵をなぎ倒す”力”のグレアに、あらゆる魔術や武術を使いこなし、敵を翻弄する”技”のパフェット。ゴブリンの家の一部を壊しただけというなんともしょうもない理由で、今世紀の対決が幕を開けようとしていた。


 

 力強く地面を蹴り、必殺の拳を放つグレアに、魔力を込め硬度を高めた糸を爪のようにして振るうパフェット。両者の先制の一撃が衝突する直前、その間に転移魔術で割り込んできた金髪の殺戮人形(キラードール)が、あらかじめ詠唱しておいた宣誓魔術を発動させる。


「⋯⋯停滞と秩序の象徴蒼玉よ、我に力を。『―川の流れのように―《スローモーション》』」 


 すると、停滞の魔力を受けたグレアとパフェットの動きは、ナメクジのようにノロマな速さになってしまう。そんな2人の頭をパシッと叩いたマリーは、呆れた口調で叱責した。


「何をやっているのだお前らは。こんなところで争ったら、今度こそシルバの家は完全に壊れてしまうぞ。マスターが気付いて我を送らなければどうなっていたことか⋯⋯。もう少し、自分たちの力と立場を理解しろ」


「冷たいこと言うなよマリー。折角良いところだったんだぜ?」


「ソウダ! オレさまもこいつを消さないと大変なことになるんダ!!」


「⋯⋯あまりしつこいと、マスター直々に仕置きして貰うが?」


「「すいませんでした」」


 マリーがヴィオレッタの名前を出した途端、グレアとパフェットは揃って頭を下げた。2人とも、ヴィオレッタにだけは逆らってはいけないことを理解しているのだ。


 それもそのはず、本気を出したヴィオレッタ相手だと、グレアとパフェット2人がかりでも勝てるかどうか怪しいくらいの実力差なのだ。その強さは、魔王様にも匹敵するのではないかと彼女の実力を知る者は噂しているし、魔王もそれを否定していない。


 2人が大人しくなったことを確認したマリーは、今も小型の飛行人形の瞳を通してこちらの様子を確認しているであろう主人を思い、小さくため息をついた。


「⋯⋯それにしても、我が主はもう少しこの2人の積極性を見習って貰いたいものだ。シルバがククルと出かけたことを知ってただそれを見ているだけとは。これではいつまで経ってもよい友人のままだぞ?」


 

 

 そう、この家に居るはずの主人は今、約束を果たすためククルと一緒に出かけているのであった。

ヴィオレッタさんは地味に最強です。ただ恋愛においては奥手の敗北者じゃけぇ。


次回、シルバとククルのデート回です。

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