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月を捕まえようとした男

作者:斎藤秋
 これはとある小さな漁村での話です。

 二人の男が言い争っていました。

 片方は背が高く、片方は背の低い男でした。

「太陽は熱くて捕まえられないかもしれないが、月なら捕まえることができるだろう」

 その言葉に、背の高い男は言い返しました。

「どうやって、捕まえるんだ。あんな空高く昇っているというのに」

 二人は月を捕まえられるかどうかの話をしていたのです。

 話のきっかけは、男達も忘れていました。気付けば二人は、月を捕まえられるかどうかの論争に、夢中になっていたのです。

 背の低い男は、自信ありげに言い返しました。

「月も太陽と同じように東の空から昇っていって、西の空に沈むだろ。空に昇っているときは無理だが、昇ってくる瞬間を狙えば捕まえられるはずだ」

 その言葉を聞いた背の高い男は笑いました。

「なんだ。おまえは月が海から出てくる場所を見つけようっていうのか」

「そうだ」

 それからしばらくして、男は船で月を捕まえるために旅立ちました。

 漁村の人たちは、彼を笑い、馬鹿にしながら見送りました。

「月なんか捕まえられるはずがない」

「あいつは馬鹿だと思っていたけれども、ここまで馬鹿だとは思っていなかった」

 背の低い男は、その漁村の人たちの声を気にしませんでした。男の頭の中には月を捕まえて、漁村の人たちに捕まえた月を見せて、鼻を明かすことだけしかありませんでした。

 男はまず西に向かいました。

 船は、漁村を遠く離れ、漁村はついに見えなくなりました。見渡すばかりの青い海が広がっています。空には太陽が輝いていました。

 それから夜が来て、月が空に昇りました。

 男は夜を待っていたのでした。

 男は月が沈む西の場所を目指して、船を一生懸命漕ぎました。時間は限られています。そして月が沈む時間がやってきました。

 男の努力もむなしく、月は水平線の向こうに沈んでいきました。

 男は幾つもの夜をそのように過ごしました。しかし、月はいつも水平線の向こうに沈んでしまうのです。
 男は沈む場所を見つけるのを、ついに諦めました。

 男は月が昇る場所を見つけることにしたのです。

 今度は男は東に向かって船をこぎ始めました。太陽が昇っているうちに、東に向かって一生懸命船をこぎ始めたのです。

 太陽が、西の空に沈むと同時に月が東の水平線から顔を出し始めました。

 そうです。

 東に向かっても男は月が昇る場所にたどり着けなかったのです。

 男は諦め始めました。

 それから辺りは暗くなり、一面の星空の中に月が男をあざ笑うかのようにして、満月の姿を見せつけました。

 男は船の中に横たわり、月に手を伸ばしました。男は月をつかもうとしましたが、男の手は月には届かず、空をつかむばかりでした。

「月にもう少しで手が届きそうなのにな……」

 それが男の最後の言葉でした。

 男はそこで、力つきてしまったのです。

 男を乗せた船は、男の故郷に流れ着きました。

 男の変わり果てた姿を見た漁村の人たちは、彼を笑うことができませんでした。

 漁村の人たちは、満月の夜に男を浜辺で火葬してあげました。

 その煙は満月を目指して、高く伸びていきました。

 その様子に漁村の人たちは、煙に男の執念が宿っているように感じました。

 この日の満月は泣いているようでした。

(了)

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