ニートの朝
ある日の朝、タバコをふかしながらふと窓の外を見ると、カラスが電線の上に二羽とまっていた。右側のカラスは左側のカラスにちょっかいを出していた。どうやらカラスの求婚らしい。左側のカラスは「ガァ」というような鳴き声でちょっかいをうまくかわしているようだった。
カラスの世界でもプロポーズに失敗することがあるんだなと木田誠司30歳無職は寝ぼけ眼で思った。誠司はゆっくりベッドから体を起こして立ち上がると、テレビをつけた。テレビでは一週間後に控えている衆議院総選挙の番組をやっている。誠司はニートだが、選挙の度、毎回律義に投票しているので、割と真剣にテレビを見ている。「この候補者は俺の思想に反しているからダメだな」なんてことを一人部屋の中でぶつぶつつぶやいていた。もう一本タバコを吸って、大きく背伸びをした。
「誠司ー、ごはんよー」と一階から母親の声がした。うっせえババアだなあと誠司は一言つぶやいてドンドンと階段を降りて行った。
「そういえば佳代ちゃん結婚したらしいわよ」母親に言われた瞬間、誠司はドキンとした。「昨日スーパーで佳代ちゃんのお母さんにばったり会って聞いたのよ」佳代は誠司の幼馴染だ。幼稚園から中学校まで一緒だった。中学校の時、誠司は佳代に告白された。だが、誠司は付き合うことがどういうことなのかまだ分からなかったので、返事をせずにそのままうやむやにしてしまった。実は佳代のことが好きだった事に気づいたのは中学校を卒業する時だった。「あの時付き合っておけばよかった」と誠司はその時後悔していた。
「そ、そうなんだ」と誠司はうわついた言葉で返事をした。「誠司はいつ結婚してくれるのかしら」と母親はため息交じりに言った。