第四十七話 平穏な日々
サクラと合流してから3カ月が過ぎた。
青空教室で学んだ孤児院の者たちは、一通りの生活魔法を覚え。それに加えて、日頃から料理をしていたことで調理系の職人魔法も習得した。なので、カミアが本気を出せば、チョコレートやココアを量産することも可能になった。
アルテミスの食事処も体制が変わった。
パウラとデリアの日給を上げて管理者へ昇級させて、商業ギルドから従業員を雇い運営してもらっている。また、販売量は衰えが見えず、食材を卸すだけで一日に大金貨1枚を稼いでくれる。
孤児院の子供たちはと言うと、冒険者ギルドの隣の土地をサキが買いとって、新たな飲食店を始めた。営業時間は12時~17時である。
ランチタイムにパン、パスタ、サラダ、スープなど、銀貨1~2枚で一日300食限定販売している。食材は、農地で収穫したものだ。
15時からはカフェとして、茶と菓子を銀貨1枚で販売している。持ち帰り用として菓子を販売しているが、売れ行きは毎日完売となるほどである。
それから、すっかり胃袋をつかまれた。冒険者の二クラス、スヴェン、クラウスたちは店の従業員兼、用心棒として働いている。
ルマン大森林は、自然を愛するハイエルフのサクラが精霊魔法を使って蘇らした。
魔物が生息するので、そのままで良いと思ったのだが、それはそれ、これはこれと、一言で返された。
わたしは、お金にも不自由なく美味しい食事を毎日食べられて幸せな生活を送っていた。
サクラと一緒にカフェで、ハーブティを呑みながらマッタリしていると声が掛かった。
「其方、久しぶりだな」
そう声を掛けてきたのは、金髪に金色の眼で顔は整った美青年。布をふんだんに使った服を纏っていた。
「えーと。どなたですか?」
なんとなく見覚えがあるような気がしたけど、思い出せなかった。
「……ベリエ王国の第二王子のマルクスだ」
「あー。マルクスさん、久しぶりですね」
思い出したわたしは手をポンと叩く。
「この殿方とは、どのような関係ですのっ」
「たんなる顔見しりですよ。えっとね――」
マルクスとの関係をサクラに聞かれたので、魔物の氾濫時と今無き領主の事を話した。
「ご主人様!! 国家戦争ですのっ」
「いやいや。その領主はもういないから。国家戦争しないから」
ゲームでは、国土が荒れるからと国家戦争には否定的なサクラから国家戦争を提示されて、慌てて止める。
「其方、こちらの女性は何者なのだ」
国家戦争と言われて、少しだけ顔色を悪くしたマルクスが質問してきた。
「こちらはサクラ。大和連邦国の宰相を務め、わたしの冒険者仲間でもあります」
「サクラと申しますのっ。ご主人様に害なす者はあたしが退けますのっ」
旧領主の話を聞いてからサクラはどうも興奮気味である。
「宰相だと? ダングルフから聞いたが、飛空挺でやってきたのか!?」
「違いますのっ。行方不明になっていたご主人様を探している最中に、神様がご主人様の元へ転移してくれましたのっ」
サクラが言うことは間違っていない、転移した者は不明であるが。
「其方たちは神も味方なのか……」
「面識はありませんが、これまでの事を踏まえると敵対はしていませんよ」
「ふむ。転移になると神の御業としか思えぬ」
「それで、マルクスさんはどうしてこの街に?」
わたしは、第二王子が領主不在の街にいる理由が分からず聞いてみた。
「ああ。わたしがこの街の領主として治める事になったのだ」
「第二王子なのに領主ですか?」
「第一王子であるバモカノが王位を継ぐことが決まったのだ。しかし……」
「しかし?」
急に歯切れが悪くするマルクス。何かよくないことでもあるんじゃないだろうか。
「ヴィエルジ王国の姫に求婚を断られたバモカノが、ヴィエルジ王国に宣戦布告したのだ」
「振られた腹いせに国家戦争ですか!?」
「ああ、遥か昔に行われていた嫁取り戦争を始めたのだ」
嫁取り戦争に巻き込まれる兵士に合掌したい気持ちになった。そんな理由で戦争して亡くなる兵士に同情してしまう。
「そんな下らない理由で戦争する兵士の方が可哀そうですね」
「この街は戦果の影響はないですのっ?」
「……この街にまで戦果が伸びることはないと思うが、冒険者には徴兵募集を掛ける」
国の騎士だけではなく、冒険者まで徴兵するとはどれだけ大がかりな戦争をするんだろうと、呆れてしまう。
「はぁ、冒険者として活動している人に同情しますよ」
「其方は、冒険者として協力はしてくれぬのか!?」
「お金には不自由していませんし、くだらない理由の戦争には指名依頼されても拒否します」
「大和連邦国の大和国王を冒険者として見るなんて、失礼ですのっ!」
そんな下らない戦争に参加する気持ちにはなれない、サクラの言うとおり他国の王が戦争に参加するのも問題……。
「ストップ!! サクラ!! 魔法を発動させちゃだめ!!」
わたしのことを、そこら辺の冒険者と同じように扱ったマルクスに対して、サクラの魔法が発現し掛かっていた。
マルクスの回りには火球が発現し、今にもマルクス目掛けて飛んで行きそうだったのだ。
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