第四十一話 全力全開の一撃
地上を走るより遅いが、久しぶりの飛翔は気持ちが良いものだった。
気持ち良く鼻歌を歌っているうちにダンジョンへたどり着く。
「フンフンフフーン」
鼻歌を継続したまま、ストレージから大弓を取り出す。そして、大弓を構えれば鼻歌を止める。ダンジョンごと破壊する一撃を放つために、9割ほどのMPを流していく。それは、ゲームではあり得ないことだった。MPが尽きれば攻撃も出来なければ防御も装備頼みになるからだ。
しかし、今回は国家戦争ではなく、どうなっても構わないと言うダングルフの念書があるので、遠慮なしの全力全開攻撃を放つのだ。
大弓の武器ランクは神話級だ。だから、サキが大量のMPを流しても大弓は耐える。
弦を引けば無属性が付与された魔法の矢が具現化される。そして、前方に強大な魔法陣が3重となって浮かび上がる。しかし、この魔法陣は大弓作成時に放送されていたアニメに影響されただけであって、特別な効果もなくエフェクト扱いなのだ。
ダンジョン目掛けて矢を放てば、風切り音もなく飛んでいく。ところが、ダンジョンに薄ら輝く障壁が張られた。
ドゴォーン
障壁に矢が当たれば、低い重低音が鳴り響く。それから、衝撃波によってルマン大森林の木々が根から吹き飛ばされていく。そして、土煙が晴れれば無傷なダンジョンが姿を現す。
「う…うそ…なんでー!?」
ゲームでは、ダンジョンが防壁を張ることはなかった。それは、少なくともわたしと同等かそれ以上の存在がいることを意味する。
……ヤバいよ…ヤバいよ、これは。
わたしは、おどおどしながらもストレージからMP回復を早める指輪を取り出して装備する。
ダンジョン上空で反撃に怯えながら、MP回復を待っていた。それから、1時間ほど経過してMP回復は回復する。
……どうゆうこと?
国家戦争なら間違いなく反撃される。ところが、防壁を張った者から反撃されなかったのだ。つまり、防壁を張った者のMPは、サキと同等であると推測できる。
……反撃するMPがなければ、MP回復を早める魔道具を持っていなければ、こっちが優位ってことだよね!
わたしは大弓をストレージに保管して、代わりの武器を取り出す。
取り出した武器は、魔物の氾濫時にも使用した片手剣だ。同様の実力を持っている相手なら、何かしらの強化魔法を掛けていると思ったからだ。
地上に降り立ち、警戒しながらダンジョンへ潜入する。
……あれ? 臭くないよ。
死霊系が存在すると聞いていたが、ダンジョン内に死臭は漂っておらず、むしろ澄んでいた。それに、ダンジョンの壁が淡く光っていて明るかった。
わたしは、疑問を感じつつ警戒をしたまま、ダンジョン奥へと進んでいく。
……妙だよ。
ダンジョン奥に進んで行っても、教会騎士団の亡骸はない。それに、魔物にも遭遇していない。
ダンジョンに潜入してから4時間ほど経過すれば、流石にお腹が空いてくる。それにしても、防壁を張った者からの攻撃がこない。時間的にMPは回復していてもおかしくはないのに。
……腹が減っては戦ができぬ。
わたしは、辺りを警戒しながらストレージから、サンドイッチを取り出しては歩きながら食べる。お行儀が悪いけどしょうがない。
食事してても、魔物にすら遭遇しなかった。これも、油断させる罠かもしれないと、より警戒しながら進んで行っても状況は変わらなかった。
さらに、3時間ほど進んでいくと大きな扉が見えてくる。
……ようやくたどり着いたよ。終着点に。
わたしは、扉をゆっくりと開けて中に入る。
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