第三十話 うわっ…回復薬の性能、低すぎ…
「サキお姉ちゃんが困ってるの!!」
わたしがカミアを見れば、跪く男たちに「めっ」って、怒っていた。
……わたしの為に怒ってくれるのは嬉しいけど、可愛くて迫力ないよ。
そんな姿を見て、ほにゃりと顔を崩す。
「跪くのを止めて下さい。あと、様付けも不要です! わたしに感謝するより、わたしをその場に向かわせた神様の采配に感謝してください」
「「「わかりました」」」
……その目は、わかってないでしょ。
わたしを見る男たちは崇拝している目だった。
どっと疲れを感じたわたしは、男たちに向かって手をぷらぷらと振り散らばるよう促した。
ストレージから椅子を取り出して、屋台の後ろで休んでいるとパウラが話しかけてきた。
「欠損した肉体までも癒した冒険者とは、サキさんだったのですね」
「成り行きですよ。碌な治療もされずに、今にも死んじゃいそうな人が目の前にいたので」
「簡単なことのように言いますが、回復魔法を使える者は希少です。それに切り傷よりも重症な傷を癒す魔法や治す薬なんて存在していませんから」
わたしは首を傾げる。
確かに魔法だと使用者の魔力やMPによって効果が変わるけど、最上級の回復薬を使えば欠損した肉体も再生するからだ。
「えっ。回復薬が存在しないのですか?」
「ええ。ダンジョンの宝箱にある最上級の回復薬でも、深い切り傷を治すくらいですよ」
パウラが言う最上級の回復薬は、わたしにとっての上級だった。
ゲームでは、薬草を煮出しただけの物が初級。初級を蒸留した物が中級。中級に古竜の血を3滴追加した物が上級。上級にドリアードの髪の毛を2ミリ程追加して蒸留した物が最上級だった。
ちなみに、ドリアード自体がレア敵で倒して得た髪では効果が無く、気にいられて提供された物じゃないと効果が得られなかったので最上級回復薬は高価であった。
それに、敵扱いだが容姿が整った少女かつ、温厚な性格なので、狩ろうと思うユーザーはいなかったのだ。
「それって、上級じゃないですか?」
「最上級で間違いないですよ。それに、人が作れる回復薬はかすり傷を治すくらいです」
「えーと。驚かないで下さいね」
わたしはそう言って、回復薬の等級について説明して、上級までなら手物にある素材で製造可能であることを告げる。
「……。本当ですか?」
「本当ですよ」
ストレージから、水色の初級、青色の中級、赤色の上級、黄色の最上級の回復薬を出して見せる。
「確かに人が作れる回復薬はこの水色ので、最上級は赤色のです……。これは大変なことですよ!」
わたしはパウラに手を掴まれて、ダングルフの元まで連れて行かれた。
「行き成り何じゃ!?」
パウラはノックもせずにドアを開けたものだから、ダングルフは驚いていた。
「ギルド長。報告があります」
パウラはそう言って、ダングルフへわたしが説明した回復薬の等級と素材さえあれば製造できることを伝えれば。
「真か!!」
ダングルフは目を大きく見開く。
「製造出来ますけど?」
薬草なら、わざわざ採取しに行かなくても栽培可能だし、古竜の血やドリアードの髪の毛も少しなら持っている。
「それは売ってくれるのか」
わたしは、少し考える。
戦争で使われるのは嫌だし、上級以上は素材確保が難しい。
売るとしても中級までにしておきたいな。
「売るとしても、条件がありますよ」
「条件とは何じゃ?」
「まず、戦争で使用されるのは嫌なので、販売先は冒険者に限定すること。つぎに、上級からは安定した素材確保ができないのでお売りはしません」
ダングルフはぶつぶつ言いながら考えた後に、出した条件を了承する。
「……もしも戦争に使われた場合は、わたしが殲滅しに行きますからね」
わたしが目を細めて言えば、ダングルフは顔を若干青くしながらも頭を縦に振る。
「では、売るためにも回復薬の相場を教えてもらえますか?」
「おまえさんの等級では、初級が大銀貨5枚、中級が金貨1枚、上級が大金貨5枚なのじゃ」
……ボロ儲けのチャンスきたー?
「わかりました。その値段で中級までの回復薬を売りします。どのくらい買取りますか?」
「ギルド預金を考慮して……。初級を1万個、中級を5千個欲しいのじゃ」
「手持ち分で足りそうですね。どこに出しましょう?」
国家戦争時に上級や最上級の回復薬を体に振り掛けたり、がぶ飲みしたので在庫は100個も無いが、回復量が低い初級や中級はスキル上げで製造した物や宝箱から入手した物はストレージの肥しになっている。
「な。何じゃと!?」
……何で狼狽するのだろう? 保管場所が無いのかな?
「もしかして、置き場所が無いのですか?」
「……そこは問題ないのじゃ」
わたしは取引書に内容と金額を確認して、取引成立してから倉庫へ案内される。
今回の取引金額は銀貨1万枚に金貨5千枚で、日本円にしたら55億で、サキの金銭感覚はますますマヒしていく。
わたしは、指定された場所にストレージから木箱を取り出していく。
1木箱に100個の回復薬が入れられている。
木箱に入っている回復薬を確認したダングルフや職員たちは驚いた声を上げている。
「これはまた、精巧で透明度の高い容器なのじゃ!?」
「容器もわたしが作製ものですよ」
わたしは自慢するように胸を張って答えた。
容器もスキル上げで大量制作したものだけど、香水の容器を真似たものだ。
「おまえさんは計り知れないのじゃ……」
「……?」
わたしは、意味がわからず首を傾げる。
ダングルフはゆっくりと首を振りながら「言葉の通りじゃ」とだけで、詳しくは言ってくれなかった。
納品も終わり、冒険者ギルド倉庫を後にした。
わたしが屋台に戻れば、カミアから「忙しい時にどこ行っていたの!?」と、怒られた。
わたしはパウラをじっと見つめる。
パウラは申し訳なさそうな表情をして、カミアへ説明を始める。
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