第十五話 領主からの招待状 その1
夕飯は大好評だった。
ステーキの付け合わせに、外はカリッ、中はフワッとした食感のフレンチフライと、果物から作った酵母を使用した、フワフワなパンを用意した。わたしの空腹が限界だったので、ステーキ以外はストレージにある作り置きしていたものである。
数ヵ月後には農作物を収穫できるので、それまでに窯を作っておけば、孤児院でもパンやピザなども食べられるようになる。料理が増えることは良いことだ。
ただ、カミアは夕食時にも寝たままで、翌朝になっても目が覚めなかった。
今日も起きなかったら、目覚めの魔法を使って起きるか確認する予定だ。
カミアのことを気にしながらもわたしは、街で食べ歩きしながら情報収集していた。
食事処の値段は、パンが銅貨5枚、ソーセージが大銅貨1枚、スープが銅貨8枚で、調味料は塩のみで、焼く、煮るだけの調理で美味しいと思える料理はなかった。
……堅いパン、塩だけで調味したソーセージ、とりあえず根菜を放り込んで塩で味付けしたスープだけなんて、この街の食文化はどうなっているの!?
お腹が一杯になれば食材を見て回るが、野菜は根菜だけで果菜、葉菜は売っておらず、精肉は鳥肉、豚肉だけて牛肉や魔物肉は売られていなかった。肉類のキロ単価は銀貨1枚で、フォレストウルフ1匹が大銀貨1枚で売却できたので高いのか安いのか、良く分からなかった。
「おや。いいところで会ったのじゃ」
声をかけてきたのはダングルフで、「指名依頼の件で話したいことがある」と言われ、情報収集を終えたわたしは承諾して、冒険者ギルドまで足を運んだ。
「話したい事って何ですか?」
「まず、これを渡すのじゃ」
魔銀製で透明な魔石が飾り付けられた魔道具らしき指輪と魔銀製のプレートをダングルフが差し出した。
「魔道具だと思うのですが、どのような付与がされているのですか?」
「預金管理や為替取引ができるようになるものじゃ」
ダングルフの説明を聞けば、指輪に魔力登録することで、冒険者ギルドと商業ギルドの共同資金部門に口座が作られるらしい。各ギルドの窓口で貨幣を引き出すこともできれば、小切手みたいな取引書に指輪を押しつけると資金決済を口座間でできるようになり、プレートに指輪を押しつけると、預けている預金を確認できるらしい。
「へぇー。すごく便利ですね!」
……ゲーム内ではこんな便利アイテムは無かったよ!
「今回の報酬金額が高額なのじゃよ」
「そえば、いくらなのですか?」
「魔物の群れ討伐が大金貨1枚、竜の討伐で大金貨40枚じゃ」
……ニーズヘッグ討伐、美味しいね!
わたしは、指輪に魔力登録し、取引書の内容と金額内容を確認してから、指輪を押しつける。ダングルフも指輪を押しつけたら、取引書が燃えだした。
「わっ。燃えだしましたよ!?」
「取引成立するとそうなるのじゃ」
ダングルフから「取引成立したのでプレートを確認するのじゃ」と、促されプレートに指輪を当てれば大金貨41枚と数秒間だけ表示された。
「窓口では両替もやっているので銅貨1枚でも引き出せるのじゃ」
「こんなに便利だと街の人は皆持っているのですか?」
「いや、一部の冒険者、工房、商人と貴族様くらいじゃ」
……お金持ちや迅速な取引が必要な者だけってことね。
「では、指名依頼の報酬は確かに頂きました。出店の準備をするので失礼しますね」
「いや。まだ話があるのじゃ…」
そう言うなり、ダングルフは決まりの悪そうな表情に変わった。
「……どんな話ですか」
「い、いや。今回の竜退治で、領主から館まで来るように、招待状が、届いたのじゃが……」
ダングルフの返事は、やけに歯切れが悪い。嫌な予感がした。
「招待状ですが…。見せて頂けますか」
「……見せても良いのじゃが、ここで暴れないで欲しいのじゃ……」
……つまり、怒るような内容なの?
渡された招待状には「竜退治、大義である。だが、竜は我が領土の物なので速やかに竜を差し出すように。なお、差し出さない場合は犯罪者として扱う」と、書かれていた。
「えーと。ここの領主はバカなのですか?」
「……。典型的な貴族で、貴族以外は見下す人なのじゃよ」
「今から領主の館に神罰の落雷でも落ちそうですね」
……犯罪者として扱うなら屋敷を壊しちゃっても問題ないよね!
わたしが不敵な笑みを浮かべれば、ダングルフの顔が青くなった。
「わたし、修道服から戦闘装備に着替えて、領主の館まで行ってきますね」
「まてまて、戦闘装備に着替えるってなんなのじゃ!!」
フフフと、笑みを浮かべ無言のまま立ち上がると同時に、バーンと勢いよくドアが開いた。
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