第十三話 魔物の氾濫 その4
……ニーズヘッグ!?
咆哮と共に姿を現した漆黒の巨竜は、ゲームだとレベル50上限時に導入され、リアル15日間に出現するかしないかのレベル70のレア敵だが、素材は現役品で出現場所に張り込んでいるユーザたちが大勢居た。
男たちは人生の終わりを悟り地面へ、へたり込むがサキだけは唇の端をニィッと釣上げていた。
……巨大な魔石、角、牙、爪、革、羽、肉、骨、鱗、血…素材の宝庫♪
レア素材を前に喜んでいたら、ニーズヘッグから漆黒のブレスが吐かれる。
わたしは思い描くは《ブレスを防ぐ障壁》魔法が発動すれば、上空へブレスを逃すよう傾斜がついた薄ら光る魔法の障壁が張られる。
……えっ!? ブレスが凝縮されている? これまずい、まずいよ!!
漆黒のブレスが凝縮するにつれて威力が上がってきて障壁が破られそうになる。男たちの阿鼻叫喚が煩い。
サキは剣を抜きながら、すべてを斬り裂く刃を思い描いて斬り放てば、障壁が破られたと同時に放たれた剣技でブレスを2つに斬り裂き、ブレスが触れた地面は黒く腐っていた。
……このブレスを浴びたらどうなる? 即死はしなくても痛そうだよ!
「守りながらの討伐は無理そうなので、早急に退避してください!」
「其方だけで倒せるわけがない!」
「わたしは勝てない戦闘はしない主義です! 退避しないなら魔法で強制的に吹き飛ばしますよ!」
……もー! 涙目で凄まれても… マクシス面倒だよ…。
引こうとしないマクシス付近を魔法で地面を吹き飛ばし、「本気でするよ?」と、言い放ち。わたしは、ニーズヘッグに向かって駆けだす。
たどり着くまでに漆黒のブレスを吐かれたが、剣技で斬り裂きながら突き進む。
……斬り裂けることを知っていれば、怖くないし!
サキはニーズヘッグに、たどり着くなり地面を蹴りあげ、高く跳び上がり、剣に高周波を付与して前足を斬りつけたが、斬り飛ばすことができずに深い傷を与えるだけだった。
「レベル70なのに堅すぎでしょ!」
斬り飛ばすことは無理でもダメージを与えていることは確かなので、サキは軽快に動きまわりニーズヘッグを切り刻んでいく。
……これなら討伐できそう。
討伐の目処が付き安堵して、一瞬だけ油断した時に背後から、激しく振り回された尾尻を背中から喰らい地面へ叩きつけられる。
「うぐぅぅぅっ」
……痛い、痛い、痛いよ!
ゲームでは感じられなかったほどの痛みを感じて、のたうちまわる。
わたしは思い描くは《体は癒え、痛みは消えさる》…。痛みで思考が乱れ、魔法は発動しない。
……やば。これって致命的だよね…
焦っているうちに装備品に付与していた、『自動回復』で痛みが軽減されてくるなり、口を大きく開けたニーズヘッグの追撃が迫ってきていた。
追撃に目を見開いた、サキは力任せに地面を両手で押しのけて回避する。
……短期戦じゃないとジリ貧になるかも?
武器を両手剣に切り替えて、わたしは思い描くは《常に癒され、痛覚を遮断する》魔法が発動するなり、ニーズヘッグの下から両手剣を「吹き飛べ!」と、叫びながら力任せに振り上げる。
ひっくり返ったニーズヘッグを見つめながら、わたしは思い描くは《我が魔力にて敵は縛られる》魔法が発動すれば、金色に光り輝く蔓がニーズヘッグに絡みつき身動きを一時的に封じる。
力任せに地面を蹴り飛び、両手剣に、重力増加を思い描いてニーズヘッグの無防備にさらされた腹に両手剣を突き刺してから、わたしは思い描くは《喰らい尽くす雷撃》魔法が発動すれば、両手剣を通じてニーズヘッグの体内に電撃が駆け巡る。
……感電すると思って、発動と同時に離れたけど…離れて正解だったね。
魔法の効果が消えれば、息絶えたニーズヘッグが横たわる。
……痛覚遮断の魔防具作らないとだね。
サキはニーズヘッグの死骸をストレージに収納して、尽きかけたMPを少しでも回復するべく、その場で寝転がり、雲ひとつない晴天な青空を見ながら呟いた。
「指名依頼を受領してないけど、ニーズヘッグ討伐の相場ってどのくらいなのだろう?」
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