第十二話 魔物の氾濫 その3
わたしは外に出た瞬間、あまりにも酷い惨状に「ひぅっ」と、息をのんだ。
回復薬が尽きたのか碌な治療もされず、苦痛の呻き声をあげて地面に倒れ伏す、大勢の負傷者たち。装備はボロボロで体は血まみれで肉体を欠損した人もいる。
……このままじゃ、撤退してきても死んじゃうよ!
わたしは思い描くは《万能細胞で失われた肉体は再生され、細胞分裂を促し、肉体は癒される》魔法が発動すれば、眩い光が負傷者全体を包み込み、光が消えれば傷は癒え欠損部分も再生する。
……あれ? また光ったよ? なんで?
回復した負傷者たちが驚きながらも歓喜の声を上がり、先ほどまでと変わって周囲は明るい雰囲気になる。
「其方…なにをした!?」
マルクスの声が聞こえたので振り返れば、理解できないと目を見開いている。
「治療もされず、このままでは死んでしまうと思い、負傷者へ回復魔法をかけました」
「か、回復魔法だと!?」
「はい、そうです。孤立している人が心配なので失礼しますね」
「待て!」
マルクスは制止するが、サキは孤立者をそのままにしておけないので、無視して駆けだしていく。
マップを確認すれば孤立している者は3名おり、一箇所に集まっていることが確認できた。
救助するのに楽で良かったと思いながら走っていると、オーク・ジェネラル、マンテスと、レベル60台の魔物を含んだ群れと遭遇する。
……格下で突破は楽だけど、救助後に遭遇したら厄介だよね…
サキは剣を抜きながら、真空波を思い描いて斬り放てば、サキを中心とした扇型範囲の射線上に烈風が吹き荒れ、魔物の群れと一緒に木々も両断する。
オーク・ジェネラルは耐久力が高いため生き残ったが、通り抜けざまに剣で首をはね飛ばす。
道中遭遇した魔物を倒しても、死骸を回収せずに救出に向かっていれば、孤立していた者たちと合流する。
「「姐御!?」」
「どうしてここに?」
……え? 姐御と呼ばれる意味が分からないよ!
「……姐御ってなんですか? わたしは前線で孤立してる者を回収しに来ました。討伐隊本体は街へ撤退しています」
怪しむ表情で見ていたら、男たちが口を開く。
話を聞けば、冒険者ギルドで絡んできた者たちで、わたしの強さに尊敬し、姐御と呼んだらしい。1名居たような…と、思いだそうとしていたら、その人は男として再起不能になったらしく生まれ故郷の村へ帰ったと、パーティリーダーの男が苦笑いしながら話してくれた。
「ああ。あの時の方たちでしたか」
「「そんなぁ…覚えてなかったのですか」」
「あなたらしいですね」
リーダーは納得顔だが、2名はショックを受け俯く。
……酔っ払いのことなんか、いちいち覚えてないよ。
「そんなことより、はやく撤退しないと農地が魔物に荒らされてしまうかもなので、急ぎますよ!」
男たちは「農地?」と疑問の表情をするが、説明より撤退が大事と言って、野営地に向かって走り出す。
道中の魔物を難なく倒していけば、「さすがは姐御」、「難なく倒していくとは」等々、男たちは口にするが無視して野営地へ向かう。
野営地に着くなりマルクスから声が掛かった。
「其方、無事であったか!」
マルクスの方を見れば、司令部にいた騎士たちも野営地に残っていた。
「街まで撤退してないのですか!?」
わたしは、魔物の群れが迫っている、撤退せずに残っていることに驚きの声を上げてしまった。
「子供を置いて、撤退などはできぬ」
マクシスが口を開けば騎士たちも「そうだそうだ」と、言うけど護衛対象が増えるんだよね。困ったな…。
「容姿と能力を一緒に…」
一緒にしないで下さいと、言う前に魔物たちの雄叫びが聞こえてきた。マップを確認すれば、50体以上いる。魔物の雄叫びを聞いた騎士団たちは恐怖で体を震わせながらも、わたしを守ろうと前に立つ。
……恐怖で震えているし…。魔物が迫ってるからさっさと殲滅するよ!
無言で騎士団たちを払いのけ。わたしは思い描くは《マップ上の敵を、喰らい尽くす雷撃》魔法が発動すれば、晴天だった空に暗雲が垂れ込めば、雷鳴が鳴り響き、閃光と轟音と共に雷撃が暴れ狂う。
サキの魔法を目の辺りした男たちは、ぎょっとしたように目を剥いた。
マップで殲滅できたか確認すれば、赤色が1つだけ表示されていた。
格下相手に倒し漏れた? と、疑問を感じれば、前方から耳をつんざくような咆哮が上がった。
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