第一話 苦しい時の神頼み
鈴木沙紀25歳
両親はすでに亡くなっているが、物心がつく前だったので思いではない。
引き取ってくれた祖母は幼いころから、料理、洗濯、掃除、裁縫…等々、色々と教えてくれた。
生活に不自由することなく大学を卒業して就職までしたが…退職した。
わたしは、わずかな痛覚を感じるいがい現実と変わらない仮想世界VR・MMORPG『Another world online』に熱中している。
世界観は剣と魔法が混在する中世ファンタジー的なもの。
思い描くだけでMPを消費して技や魔法が発動する。が、オリジナルの詠唱や技名を唱える中高生が大勢いた。
始めた頃は、漫画やアニメや他ゲームの技や魔法を再現することに夢中になっていたが、物質加工にも魔法が使えて装備品や薬などアイデアと工夫次第で新しいものを作り出せることに気づいた。
冒険者として活動しながら、数多くの強い魔獣を倒して得た素材から装備品を作成強化する日々を送っていたが、レベルはカンストして装備品は最高ランクの神話級を複数所持していた。
昨年、運営側から広大な土地を買って所有することで建国できると、周知されるなり数多くの小国が建国された。
お金を持てあましていたわたしも勿論のこと参加し、ゲーム内の友達と連合として大和連邦国を成立する。
国家間戦争とした対人戦が人気となれば、廃人が多かった大和連邦国は大国クラスまで領土を拡大した。
国家間戦争が落ちついてきた頃、嗜みとして料理ができるわたしは、香辛料を集めては調合して数多くの調味料を再現する。
最近始めた農業では、農学を独学しながら種を蒔けば魔法を使いながら成長を促進させて品種改良を繰り返していた。
この世界で生きていきたい。
魔物を倒せば簡単にお金を得られ、農業しながら美味しい料理を食べる日々を過ごしながら平穏に一生過ごしたい。
ゲームすることにできる限りの時間を費やしていたことで現実世界は散々だ。
せめて若いうちに結婚させようと頻繁にお見合い写真を見せてくる祖母。
幼くして両親を失い会社を辞めては引き篭もりしているわたしには、より好みできる立場じゃないことを自覚しているが、写真を纏めたらクリーチャー写真集ができあがる。
今日も新たなクリーチャーを見せられては、現実逃避するように月一回行われる定期メンテナスが終わるや否やログインしようとしたときに国民保護サイレンが鳴り響き、わたしが狼狽えているあいだに眩い光と衝撃に襲われた。
死んだ…。
現実世界に未練はない、生きていてもクリーチャーと結婚する未来しかないから。
神が存在するのなら、お願いします。
生まれ変わるなら、『Another world online』へ転生させてください。
あの世界が好きなんです。
◇◆◇◆
覚醒したわたしは広く木々が密生した薄暗い森の中で倒れていた。
立ち上がり、辺りを見渡すが草木が生い茂り鬱蒼とした森林が広がっている。
「わたしは死んだはずじゃ?」
国民保護サイレンが鳴り響き、気が動転して慌てていたら…眩い光と衝撃に襲われて死んだはず…じゃ?
自分の体を見てみれば子供の手足だった。が、身にまとう服や細工が施された指にはめた指輪には見覚えがあった。
「えっ!?」
驚いたことに、『Another world online』で装備していたものだったからだ。
ストレージを思い描けば表示され、ゲームで所持していた物が収納されている。
姿鏡を取り出して木に立てかけて自分の姿を確認すれば、小柄な体格で雲母を薄く引き延ばしたような、光った白く刺繍が施されたワンピースをまとい、絹糸のように艶のある髪をサラリと腰まで伸ばした銀髪蒼眼の可憐な少女。
「…サキ?」
わたしが作成したアバター「サキ」が映る。
キャラメイキングで用意されたパーツやカスタマイズで粘土細工のように細かなところまで作り込みができることもあって、見ていたアニメに出てきそうな最高の美少女を一週間もかけて細かい部分までこだわって作り込みをした力作だ。
「わたし…ログインしたの?」
ログアウトするにも思い描いてもコンソールは表示されない。
マップを思い描けばエリア名が表示されなかったがマーカー表示はされている。
ステータスを思い描けば…
名前:スズキ・サキ
年齢:10
所属:未所属
職業:冒険(Sランク)
称号:神から願いを叶えられた者
「これって…!?」
ゲームだと称号の項目はなかった。わたしの願いを聞き届けた神様が、『Another world online』に転生してくれたことなのだろうか。跪いて名も知らないこの世界の神に感謝を捧げる。
「この世界に転生してくれた神様ありがとう」
無職引き篭もり>>>困った時の神頼み>>>願いが叶う>>>神様っているんだ!