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Blood Tale  作者: 黒兎pon!!
第1幕 紅の勇者と美しい世界編
9/41

青の魔法使い II

「……私がその【妖花(ようか)】を倒します。」


私は魔剣を握りしめてそう強く言いました。

心の底の燃えるような何かが私を突き動かしていました。

魔剣も私の強い意志に呼応するように鼓動を早めていました。

「アリス! そんな無茶は私が許さないわ!」

白さんは私にそう言って引き止めましたが…

「……どうしても私が倒したいのです。」

と私は白さんに告げるとそのまま強い魔力を感じる方に走りました。

「待って! アリス!」

白さんの声が背後で聞こえましたが、もう止まることはできませんでした…なぜならすでに私は例の【妖花】と言う魔物の索敵範囲に入っていたからです。

壁を砕いて無数の蔦が現れ、私をめがけて凄まじい速度で振り下ろされました。

「…っ!」

私は瞬時にその蔦の配置を確認して剣をグッと握ると自分に最も近い蔦から順番に切り裂いて行きました。

背後からも蔦は容赦なく私に襲いかかりますが、私はクルリと舞うように剣で周囲を素早く薙ぎはらって再び走り出しました。

しかし【妖花】も私をなんとか近づけないように今度は鋭い刃のような先端をもった蔦を操って私に襲いかかってきました。

鋭く磨かれた刃のような蔦は当たれば一撃で私の体を引き裂くでしょう。

「……遅いです。」

私は蔦と蔦の隙間を縫うように走りながら、一本づつ蔦を切断していきました。

一撃の速度と殺傷能力は多分先ほどの鞭状の蔦よりは高いのかもしれませんが、振り抜いた後の蔦は地面にぶつかった衝撃からか一瞬だけその動きを鈍らせてしまうようなので回避は思っていた以上に簡単でした。

蔦を大方切り捨てて大きなドーム状の部屋に私は一気に突入しました。

天井には魔力で輝く不思議な石が埋め込まれていて今までの地下道の暗さが嘘のように明るく綺麗な空間でした…しかしその大きな円状の部屋の真ん中には巨大な花の塊がありました。

その中でもひときわ大きな一輪は蕾のように閉ざされたままでした。

「……あれが本体ですね。」

私は大きな閉ざされた花を本体と断定しました。

異常なまでの魔力が吸い寄せられてその閉ざされた花に注がれていくのがわかりました。

「アリス!」

私の背後から白さんの声が聞こえました。

どうやら【妖花】は私のみに狙いを絞ったようで、白さんの方には先ほどのような蔦は全く出ていませんでした…その代わりに今、私の目の前には刃のような蔦や太く大きな蔦などたくさんの蔦が私に向けられていました。

「……白さんは下がっていてください。」

私に狙いを絞っている以上は私のそばに来ると白さんにも危険が迫ってしまいます。

「何を言っているの! 私も戦うから!」

白さんはそう言って私の方に来ようとしましたが…

「きゃっ! 何これ…」

それは突然白さんの目の前に現れると狭い通路を鉄柵のように閉ざしてしまいました。

「これって…蔦? もう!」

白さんは大鎌を振るい蔦を切ろうとしましたが、蔦はとても固く大鎌を跳ね返してしまいました。

「なによ…これ…」

白さんはそれでもなんとか私の元に来るべく蔦に攻撃を繰り返していました。

「……白さん…私は大丈夫です。」

私は白さんにそうとだけ言うと即座に地を蹴って花に向けて駆け寄りました。

刃のような蔦が恐ろしい速度で私に向かって振り下ろされますが、私はその蔦を真っ二つに切り裂きそのまま速度を落とすことなく駆け寄ります。

左右から太い鞭のような蔦が私に振られてきますがそれを飛んで避けました。

しかしそれを待っていたように細い蔦が私に向けていくつも放たれました。

私はほとんどの蔦を剣で払うように切りましたが全て切ることはできず、私は細い蔦に絡め取られてしまいました。

「くぅ…こんなの……っ!?」

私は細い蔦をなんとか切ろうと暴れましたが、私に絡みついた蔦はどうやら粘液をまとっていたようで私にベッタリと張り付いて全く離れませんでした。

「……むぅ!」

それでも私はなんとかもがいて剣をブンブンと振りました。

気づけばかなり花の近くに私は連れてこられていました。

大きな閉ざされた花は私が引き寄せられるに連れて少しづつ開かれていきました。

不気味な巨大な花は不気味な香りを放っていて中央には触手のようなものがたくさんの生えていました。

「……うぐぅっ!」

あんな花に捕まるなんて絶対に嫌です!

私は持てる力でなんとか蔦から逃れようともがきましたが…

「……うぁ…?」

どうしてか全く体に力が入りません。

蔦の締め付けがみるみるうちに強くなっていき、私は身動きが取れないほどに縛り付けられてしまいました。

「………うぅっ。」

全く力が入らず、体を思うように動かせない私は花の中央にあっさりと連れてこられてしまいました。

独特の香りに目が眩むような感覚に陥りました。

どうやらこの香りには理性を奪う効果があるのでしょう。

ゆっくりと眠りに落ちるように私は意識が薄れていくのがわかりました。

「………ぁぅ…ぁ…くぅ…」

大きな花の真ん中で私はたくさんの触手に縛り付けられて少しづつ中の方に取り込まれていきました。

ほとんど意識がなかったためか体中を這い回る触手の感覚はあまり感じませんでした、しかし魔力をドンドン吸われているのはよくわかりました。

「…りす……あ……す…!」

遠くで誰かの声が聞こえました…

「アリス! アリス! しっかりして!」

白さんの声でした…

「……白さん。」

一瞬だけ意識が戻って来ました。

「う…うぁぁぁっ!」

私はなんとかもう一度体に力を込めてみた…けれど魔力を吸われたこともあって力は思うように込められない。

私はたくさんの触手から逃れることもできず、ただそこでモゾモゾと動いているだけだった。

「はぁ…はぁ…」

私はどれだけ頑張ってもドンドン中に引き込まれていくだけだった。

「アリスっ!」

白さんの叫ぶ声が聞こえました。

その時でした…


「僕に任せて…」


それは突然、白さんの横をすり抜けて檻のような蔦をも通り過ぎて赤く輝く杖を私の方に向けた。

「………セノン…さん…?」

それは間違いなくセノンさんでした。

「放てるのは一撃きりかな…」

炎の結晶のような杖の先端から炎の翼のようなものが紋章のように空間に浮かび上がり周囲を赤い炎で染めて行った。

「……綺麗で…す。」

私はその美しい炎に見惚れてしまった。

「…太古の焔を祀る炎杖(えんじょう)フレグゼィールよ、我が呼びかけに答え、一瞬の業火となれ!」

セノンさんは空間を焼くほどの強烈な魔力に押されながらもなんとか制御して魔法を唱えていました。

妖花はそんなセノンさんの魔法を止めるために何度も太い鞭のような蔦で攻撃しましたが、空間を焼くほどの炎の魔力に一瞬で焼き切られてセノンさんには届きませんでした。

「まさかその魔法…」

白さんがセノンさんの魔法を見てとても驚いていました。

「だめよ! そんなことをしたら死んでしまうわ!」

白さんはセノンさんに叫びました。

「ご心配ありがとう…でも生憎僕はすでに死んでいるよ。」

セノンさんはニコリと微笑むと再び魔法に集中しました。

「…もう少しだ…待っていてね、アリスちゃん。」

セノンさんは私に向けた杖をグッと両手で握ると小さな声でそう言いました。

その瞬間に杖は先ほどまでよりも強く輝きました。

「頼む! 届いてくれ! フラムエール!」

セノンさんはついに自らの身をも焦がすほどの炎の魔力を解放して、フェニックスのような焔の鳥の形の炎を放ちました。

大量の蔦を瞬時に焼きはらい、幻惑作用のある花粉を燃やし、火の粉をまといながら焔の鳥は私に向かって飛んできました。

「………ぁ…ぅ…」

私を絡め取っていた蔦は焼き切られ、私はそのまま吐き出されました。

灼熱で揺らぐ地面に叩きつけられて私は朦朧とする意識のままゆっくりと立ち上がりました。

「アリスちゃん…君は僕のことを思ってこんな無茶をしてくれたんだよね?」

揺れる視界の中から優しい声が私に問いかけました。

「……わ…たし…は……」

蔦をバタバタさせてなんとか炎を消そうと暴れる【妖花】を見て私は再び剣を構えました。

「…もう、無理しないでアリスちゃん。 僕はもう大丈夫だから。」

セノンさんは私にそう言いました。

「……わたし…は…それでも戦います。」

私は震える足で前に進みました。

「…もう大丈夫ですから。」

覚悟はもう出来ていました。

私は剣をビュンと薙ぐように払って突撃の体勢を取りました。

「君は本当に強い子なんだね…」

セノンさんは私にそう言うと杖を私に差し出しました。

「……?」

私は突然のセノンさんの行動に首をかしげました。

「…君にこれをあげるよ、僕の墓標にはもったいない品だよ。」

セノンさんはそう私に静かに言いました。

「………私は魔法を使えません。」

私はセノンさんにそう答えました。

幼い時から魔法とは相性が悪いらしく、私は攻撃系魔法は一切使えません。

「そうだね…じゃあ僕の魂を君のそれに込めてみてくれないかな?」

セノンさんは私の襟につけたリボンの宝石を指差して言いました。

「……どうしてソウルガーメントのことを知っているのですか?」

私はセノンさんにはソウルガーメントの事を話していません。

「アリオンさんから聞いたんだよ、君からは二人分の魂を感じたから気になっていたんだ…」

セノンさんはそう答えました。

「………でもそれは…」

私がそこまで言うとセノンさんはすぐに

「もう僕は死んで人生を終えた身だよ、そんな僕が誰かの力になれるなら願ってもいなかったチャンスというものだよ。」

と言って私に覚悟を決めた事を教えてくれました。

「……わかりました…やってみます。」

私はその言葉を信じて、ソウルガーメント《勇者の魂》を解除しました。

「僕のために戦ってくれてありがとう。 君は僕のためとは言わなかったけど、そうなんだろうってすぐにわかったんだ…だから僕も君の力になるよ!」

セノンさんは最後にそう私に伝えると揺らめく小さな炎になりました。

「……お願いしますセノンさん!」

私はセノンさんの魂をソウルガーメントに込めてソウルガーメントを発動させました。

青白い光が私の周囲を包み込み、ゆっくりと私の服はその姿を変えていきました。

セノンさんの着ていた服と見た目は少し違いましたが、その姿は間違いなく魔法使いでした。

青い特徴的な服が完全に私の身を包んだ時、私の頭上で何かが具現化して私の頭に降ってきました。

「ひゃうあっ!?」

私の頭にばさっと被さったそれに私はびっくりして変な声を上げながら手でそれを確認しました…魔女帽子でした。

「……これがソウルガーメントの力なのですね。」

私は体の中から溢れる魔力を感じながらそう言って炎杖セレグゼェールを構えました。

【妖花】は炎をなんとか消して蔦をビシビシと地面に叩きつけて私に再び鞭のような蔦をしならせて風をきるような速度で私に向けて振り回してきました。

「くっ……」

バックステップを踏むように後退して間合いをとって私は杖を振りました。

杖は魔力を小さな炎の弾に変えて放ちました。

しかし小さな炎では蔦の勢いに負けて消されてしまいます。

「何か…他の手を考えないといけませんね。」

私は杖を両手でぐっと握って魔力を込めて大きな炎を発射しました。

それでも【妖花】はあっさりと搔き消してしまいました。

魔法をもう少ししっかりと学んでいれば、こんな時にすぐに攻撃魔法を放てたのかもしれません。

「アリス! 攻撃魔法はまずイメージを固めて…初歩的な魔法でも、イメージをしっかりと持って使えば強力な魔法になるから!」

背後から白さんが私にそう叫びました。

「……イメージですか…」

生まれて今まで、魔法を使ったことが全くないので…具体的に何をイメージして良いのか全くわかりません。

【妖花】は鋭い刃のついた鞭を私に向けて振り上げて狙いを定め、一気に振り抜きました。

「……炎…炎……爆発…」

至極単純な発想でしたが、私にとってはとても具体的な魔法のイメージでした。

「……はぁっ!」

私は杖を真横にブンっと振り抜いて、小さな炎の弾を放ちました。

圧縮した炎の魔力は弾丸のように本体に向けて飛んでいき、着弾した瞬間に大きな爆発を巻き起こしました。

【妖花】は蔦をブンブン振って突然飛来した炎を払おうと暴れていました。

「……終わらせます。」

私は炎を大きな剣をイメージして杖に魔力を溜め込みました。

杖は赤いオーブのような光を周囲に浮かべて、空間に熱波を放ちました。

「アリス……その魔力…」

白さんは驚いて大鎌を落として立ち尽くしていました。

「………これで…終わりです!」

私の声とともに杖から紅蓮の巨剣が発現し、杖を振るえばその刃で周囲を赤く染めて壁に焼き跡を残し、炎を撒き散らしました。

【妖花】はすべての蔦を花に纏わせて守りの体勢をとりました、しかし私の杖と同時に振られた炎の巨剣はそんな幾重にも重なる蔦を真っ二つに焼き切って本体の大きな植物の塊を一刀両断しました。

「………これで…」

私は蔦の塊が剥がれ落ちて、炎を消す力も残っていない【妖花】を見て、ようやく安心しました。

巨大な花と植物の塊が膨大な魔力を周囲に放ちながら焼け落ちて行きました。

「アリス……やったわ!」

白さんの前に檻のように行く手を遮っていた蔦をなくなり、白さんは私をぎゅっと抱きしめてくれました。

「……白さん…勝手なことをしてすみませんでした。」

私は白さんに謝ると、ゆっくりとソウルガーメントの力を使って元の《勇者の魂》に姿を変えました。

「もうっ! 無茶ばっかりして…でも良かった…アリスが無事で本当に良かったぁ〜。」

白さんは私の頭をコツンと小突いてから優しくそう言ってくれました。

「どうやら無事に倒せたみたいだね…」

突然ソウルガーメントが淡い光を放ったと思うと、セノンさんの魂がソウルガーメントから再び姿を現しました。

「……あなたのおかげです…ありがとうございました。」

私はセノンさんに深々と頭を下げました。

「いいんだよそんなこと…それよりさっきの魔法すごかったよ〜。」

セノンさんはニコニコとしながら私にそう答えると私に再び

「僕も助けてもらったわけだし、何かお礼をしないといけないね…」

と続けました。

「………お礼なんて大丈夫です。」

私はセノンさんにそう言って今まで【妖花】によって隠されていた通路に向けて歩き出しました。

「そうだ……これからも僕の力を今みたいに使ってくれないかな?」

セノンさんは突然、そう私に問いかけました。

「………いいのですか?」

私は攻撃魔法を全く使えないので、今みたいに攻撃魔法を使える姿があれば戦闘の幅が増えるでしょう。

しかし、そのためには常にその姿になれる《魂》が必要になるのです。

つまり、セノンさんの《魂》があれば私は攻撃魔法を使うことができるということになります。

「僕のためにこれだけ戦ってくれたんだ…僕も君のために戦うよ。」

セノンさんはそう言って私を見つめました。

「……助かります…それではよろしくお願いします。」

私はそう静かに答えて再びセノンさんをソウルガーメントの中に宿しました。


白さんと共に少しだけ休憩をとって、私たちは奥へと進んで行きました。

しばらくして地上に続く梯子にたどり着きました。

この先はもう砦の中になっています。

私たちは意を決して梯子を登りました…

これから先に何が待っているのか…そしてどんな厳しい戦いになるのか…それはまだ私たちにはわかりませんが、今だけはどうにかなると思えました…



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