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Blood Tale  作者: 黒兎pon!!
第1幕 紅の勇者と美しい世界編
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白い死神

真紅の戦闘服に身を包む少女が戦地に立ってから二ヶ月が過ぎた。

日が経つに連れてその少女の心は傷つき、無垢な瞳はいつしか虚ろな眼ざしへと変わっていた。

私はそんな少女を助けたかった。

少しづつ命を削り、人から離れていく少女の魂にもう一度だけこの世界の美しさに触れてほしいと思った。

私は死神…迷える魂を導く白き死神アリオン。

私は手を虚空にかざしていつものように未来を手繰り寄せるべく特別な力を使った。

「事象展開…対象はアリス。」

対象となるものの起こり得る事柄の全ての可能性を映し出す死神の魔法『事象展開』によって導き出された未来、そこには1つだけ彼女が生存する道があった。

その選択肢のために…私はまだ、手を出すことは許されていない。

だから…あと1日だけ待っていてね。

必ず救い出してあげるから…アリス…



戦地に立って二ヶ月がたった。

その手を鮮血に染め上げて、幾千人もの敵を葬り去りました。

もう罪悪感も後悔もありません。

何せ感じませんし。

今日は大切な話があるとフランゼルド隊長様に呼ばれています。

きっと、ここ数週間で異常発生した魔物達の掃討任務だと思います。

革命軍の人たちは私を恐れてあまり動かなくなりました。

なので、私は今は不必要というわけです。

帝国竜騎団の建屋に着くとすぐにフランゼルド隊長様が私を迎えてくれました。

その時、一瞬だけ誰かの目線を感じた気がします。

私はその視線に構うことなく隊長様について行きました。

「アリス、お前に頼むことは1つだ。」

フランゼルド隊長様はそう言うとアルスフィリア帝国の全域地図を私に見せました。

「国内でも多数の魔物の被害が出ている、この魔物たちの異常発生を帝国竜騎団と帝国科学班で調べた結果、人為的な異常発生だとわかった。」

フランゼルド隊長様はそう私に言うとやはりこう続けました。

「お前にはその異常発生した魔物たちの掃討に当たってもらう。」

ある程度はわかっていた話でした、ですがこの次の言葉は予想をこえていました。

「人員をこのような魔物の掃討などに回すわけにはいかない、よって今回の掃討任務はお前単独での行動になる。」

フランゼルド隊長様はそう私に告げるとすぐさま向かうようにと私を追い出しました。

私は一通りの荷物を持って帝都を出ました。

まずは最も近いゴブリンたちの砦を攻めることにします。



帝都から東に進んだところにゴブリンたちに占拠された古い砦がありました。

元々は大きな街とそれを囲むように大きな城壁がありました。

ここはかつてアルスフィリア帝国の商業都市として栄えていました。

いまでは帝都で商業も取り仕切っているため、ここは廃都としてボロボロですが残っていました。

かつて砦として使われていた場所ですので、知能のあるゴブリンたちにとっては狙いやすく、安全性の高い場所だったのでしょう。

私は半分を砂漠に飲み込まれた砦の跡地を一人で進んで行きました。

もう日も暮れて周囲は暗くなっていたので、ゆっくりと周囲を確認しながら進んで行きました。

ゴブリンたちの気配はまだなく、市街地の跡まで来てしまいました。

私は開けたこの場で少しだけ休憩をとることにしました。

しかし、その瞬間を待っていたかのようにゴブリンたちの群れが突然姿を現しました。

「……っ!」

即座に剣を抜いて構えましたが手遅れのようで、私はゴブリンの群れに囲まれていました。

「ヒヒヒヒ…。」

「キヒヒヒ…。」

「クヒーッ!」

ゴブリンたちは私をジロジロと見ると嬉しそうに跳ね回りました。

「ふっ!」

私はゴブリンの一体に狙いを定めて突きの体勢を取ると迷うことなく一気に距離を詰めて一体の首を狙って突きを放ちます。

「ギィィィッ!」

奇声を発してゴブリンの一体が絶命しました、しかし周囲のゴブリンは私が剣を構える間もなく手にした鉄の鉈のようなもので襲いかかってきました。

「くぅっ…」

右肩、左腕そして腹部をゴブリンたちの刃が掠めました。

赤い雫が宙を舞い、周囲に嗅ぎ慣れた香りが漂ってきました。

「ぐうっ!」

私は歯を食いしばってその場に留まり、水平に剣を振るい前列のゴブリン二体を切り裂きました、しかし腹部に貰った一撃が効いていたようで、そのまま私はガクンと膝を折って体勢を崩してしまいました。

真上から二本の刃が振り下ろされるのをなんとか剣で受けましたがバキンッと大きな音を立てて私の剣は折れてしまいました。

即座に後ろに飛んで刃を避けると、私は折れてしまった剣の刃を握りしめて軽く振りました。

大丈夫…まだ戦えます。

私の手からドクドクと血が流れて手を真っ赤に染め上げますが、私には痛覚そのものがないため痛くはありません。

「ウアァァッ!」

私は叫ぶように声をあげて突進すると同時に高速で連続突きを繰り出しました。

手の損傷からか一発はそれほどの威力を持たなかったのですが、連続で身を抉ることで絶命させる分のダメージを与えました。

残る2体を仕留めるために次は体を捻るようにして回転切りを二連続で繰り出しました。

一発はゴブリンの一体の首を刎ね、もう一発で最後の一体の腕を切り落としました。

「ギィィィィッ!」

奇声を発してなおも私に殴りかかってきましたが、私は体当たりするように刃を心臓に突き立てました。

「ウギィィィッ!」

断末魔の悲鳴をあげてようやく動かなくなったゴブリンを蹴飛ばして、私は近くの城壁の跡へと身を隠すとそのまま城壁に寄りかかりました。

手の傷は深く、未だに出血が止まらずにドクドクと血が流れています。

「ふぅ…」

私は深呼吸をすると城壁に寄りかかったまま座り込みました。

座り込むとすこしづつ意識が薄れて眠たくなってきました。

体がどんどん重たくなって、体温がゆっくりと低下していきました。

何故か体全体に激痛が走り、頬に温かい何かがゆっくりと流れていきました。

どうしてか少しだけ「死にたくない」と思いました。

私は兵器として死ねることを幸せだと教え込まれました。

そして感情に蓋をして痛みを捨てて兵器として生きようと人間であることを捨てました。

それなのに…


「アリス、まだ生きているよね?」


突然、誰かが私にそう尋ねました。

「ぅぅ……」

激痛に堪えながら私は小さな声を漏らしました。

「なんとか間に合ったみたいね…すぐに治療してあげるわね」

白いコートをきたお姉さんは私に優しくそう言って手をかざしました、すると体から痛みが引いていき、ゆっくりと傷が癒えていきました。

「ありがとうございます…」

かすれかけた声で私は小さくお礼を言いました。

「気にしないでアリス、あなたを助けるのが今の私の仕事だから。」

お姉さんは私の頭を撫でるとそう優しく微笑みかけました。

「私を助ける…どうして?」

私はお姉さんにそう尋ねました、するとお姉さんは私の目をしっかりと見て

「私は白死神と言って、死ぬべきでない命を導く役目があるの。」

と言いました。

「そうですか… 私は兵器ですので生憎そのような命を持ってはいません。」

私はその死神さんにそう伝えました、すると死神さんは

「あなたは人間よ? 決して兵器なんかじゃないわ。」

と言いました。

変な人だと思いました。

「私は心を持ちませんし、痛みも感じません。 ただの人形です。」

私はそう死神さんに伝えました、すると死神さんは微笑んで

「人形は涙を流さないのよ?」

と私の頬を流れていた暖かい何かを拭いてくれました。

「どうして……。」

私は心を全て捨てたはずでした、なのにどうして涙が出てしまうのかわかりませんでした。

「ふふ…アリスは本当に強い子ね。」

死神さんは私を抱きしめました。

「ずっとずっとアリスは兵器として生きるために痛みを捨てて、心を閉ざして…本当に辛かったよね。」

死神さんの優しい言葉が私の奥底に押し込めていた心に少しづつ温度を与えてくれました。

「私は…私は人間です…」

私はロゼルトさんの言葉を思い出しました。

「そう…アリスは人間なの、もう心を押し込めなくてもいいし、痛みを切り離さなくてもいいの、だからもう自分を兵器だなんて言わないで。」

死神さんの優しい言葉が私の封じ込めていたものを解き放ってくれました。

とめどなく流れる涙が頬を伝っていき、どんどん体が熱くなっていきました。

「うわぁぁぁっ!」

私は思い切り泣きました。

今まで押し込めていた分も泣きました。

逃げられない罪悪感と後悔、そして解放された喜び…私はいろんな感情でグチャグチャになってもうどうすればいいかわかりません。

「好きなだけ泣いていいの…きっと涙の後にはまた1つ強くなれるからね。」

死神さんはそう言って背中を撫でてくれました。

こんなに誰かと触れ合うことが温かくて、優しいことだったなんてすっかり忘れていました。

私はひとしきり泣いた後、そのまま安心して眠ってしまいました。



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