翠の護人 Ⅰ
まず最初に、前回から1ヶ月くらい間が空いてしまいましたことを深くお詫び申し上げます。
さて、今回からは翠の護人ということで前後に分けて書いていこうと思っております。
それではどうぞ拙い作品ですが、お楽しみ頂けると幸いです。
私はその手にした槍に私の全ての魔力を込めて地を蹴った。
奇怪な邪竜は私を飲み込もうと私に不気味な口を開けていた。
これが、私と彼女の約束…
これが、私と彼女の願い…
これが、彼女の誓い…
†
私が目を覚ますとすでに白さんは朝ごはんの用意をしてくれていました。
私たちはそれを食べて、次の目的地への道を確認するために地図を開いていました。
「……次の目的地はアルスフィリア帝国の西にある巨大遺跡エレグマーラです。」
私は西の果てにある巨大遺跡にマークが付いているのを確認すると、白さんにそう言いました。
「浮遊遺跡エレグマーラね…わかったわ!」
白さんはなぜかとてつもなく嬉しそうに言いました。
「……ここでは遺跡の中心で謎の異界に通じる門が開いていると書かれてあります。」
私は汚れたメモ帳に書いてある情報を読み上げました。
「なるほどね…かつて浮遊遺跡エレグマーラは時空を超えるための船の役割を担うために作られたとされているわ。」
そう言うと、白さんは私の言った異界への門の存在は予想されていた事態であることを教えてくれました。
「……そうでしたか、ではその調査と遺跡自体に魔物が住み着いていると考古学者さんから連絡があったそうなのでその方も対策をしましょう。」
私はメモ帳を腰につけたポーチに片付けて立ち上がりました。
「ここからだと遠いからどこかで一度、休息を入れられるといいのだけれど…」
白さんは私の地図を見て悩んでいました。
確かに白さんの言う通り、ここからでは距離がありますのでどこかで休息を入れないと厳しいでしょう。
「……この付近に小さな村があるはずです、そこで一晩休んでから目指しましょう。」
私は砦にゴブリンたちが残していった食料を詰めたカバンを確認してそう白さんに提案しました。
「そうね…その経路だと北西部のウルキッカ石化林を通ることになるわね。」
白さんは地図を見て指でなぞりながら最短のルートを何度か探しながらそう私に言いました。
ウルキッカ石化林はアルスフィリア帝国の帝国の北西部に広がる広い森林です。
ですが、ここはただの森林ではなく名前の通り石化した大森林です。
かつては普通の森林だったらしいですが、北の山脈にある巨大火山ヴェングラビル火山の噴火によって飛ばされた火山灰が、雨季にできる大規模な雨雲に含まれたまま長いあいだ降り注ぎ少しづつ石化していったと言われています。
今では気候も変化して、乾燥した不気味な石化した森林になっています。
「デュヴェン・パードルがもし本当にいるとするならば日の登っている間に抜けてしまいたいわね。」
デュヴェン・パードルとはアルスフィリア帝国に伝わる古い言い伝えに出てくる大鎌を持った亡霊です。
ウルキッカ石化林では特に目撃例が多いのですが、帝国騎士団が何度も討伐に向かっていますが一度も出会ったことがないため、乾燥地帯の厳しい気候の中で疲労が溜まった冒険者が見た幻が正体だと言われています。
「……帝国騎士団は何度も掃討に向かっていますが、一度も出会ったことがないそうです…ですが、やはり目撃者の証言が細かい部分まで類似しているというのはやはり気になりますね。」
大鎌を持っている点、ボロボロのローブには金色の剣がたくさん釣られていて不気味な音と共に突然現れては冒険者に襲いかかる…少人数での旅人が出会うことが多く、決まって夜に現れます。
「さてと…早めに出発しましょうか。」
白さんは私にそう言って食料を詰めたカバンを背負いました。
「……はい。」
私もその他の荷物を詰め込んだカバンを持って歩き出しました。
†
砂漠地帯を抜けて私たちは北部に向かって進んでいきました。
砂漠地帯を抜けるとすぐに見えてきたのは不思議な遺跡でした…あれが浮遊遺跡エレグマーラです。
これだけ遠くてもその不思議な光と浮遊する遺跡の一部は確認できるほどに広く大きな遺跡なのです。
そしてその手前に見えるのは白い森…ウルキッカ石化林です。
私たちは遥か遠くに見える遺跡を目指して足を進めました。
「………」
私が背後にそびえ立つ塔をぼんやりと眺めていると、白さんは静かに私にそれが何なのかを教えてくれました。
「あれはね、『天空塔』っていう名前の古い塔なのよ…古くから魂の還る場所って言われているの。」
私は静かにその輝く塔に祈りを捧げると再び足を進めました。
「アリス……よかった…」
白さんは私の隣で静かにそう言いましたが、どういう意味なのかはよくわかりませんでした…でもその顔は安心しているようでした。
†
数時間歩いた私たちはついにその不気味な森の前に立っていました。
ウルキッカ石化林に到着した私たちは空を見上げて少しだけ急ぐことにしました。
「……あと3時間ほどで日が沈みますね。」
私は太陽の傾きからおおよその日没までの時間を割り出しました。
「そうね…早いうちにこの森を抜けてしまいましょう。」
白さんは虚空から大鎌を呼び出して手に取りました。
私たちは急ぐようにウルキッカ石化林へと足を踏み入れました。
心なしか少しだけ空気が冷たく感じました。
「……なんだろう、異様な気配を感じるような気がするわ。」
白さんは周囲の状況を探りながらそう私に言いました。
私もそれを感じていました…遠くから私たちを見つめるような刺すように尖った殺気がどこからか向けられている気がしてなりませんでした。
「……何かが近くにいるのは確かなのですが…何者なのかは私もわかりません。」
私も白さんにそう感じている事を伝えました。
すると不意に誰かが私たちにその正体を教えてくれました。
「それはこの森に古くから彷徨っている亡霊の気配だと思うよ〜確かアルゴレイスとか言ったかな〜。」
石化した木の上でナイフを両手に持った女の人がそう言って私たちを見下ろしていました。
「アルゴレイス…強い意思を持った人間がその地に縛られて亡霊になった存在ね…確かにその系統の何かの気配は幾つかあるんだけれど。」
白さんはその女の人にそう答えました…どうやら私たちが感じている気配とはまた違った存在なのでしょう。
「あら…そうなの? じゃあこの辺で有名な邪竜なんじゃない?」
女の人は今度はニヤリと怪しい笑みを浮かべて木から飛び降り、そう白さんに言いました。
「邪竜…グリムワイアームのことかしら?」
白さんはそう女の人に再び尋ねると女の人は不気味に笑って
「さぁ? どうだろうね?」
とだけ言うとすぐにどこかへと歩き出しました。
「…たしかにこの辺りには邪悪な竜が住んでいるわね。」
白さんはそんな女の人なんてかまうこともなく頭をひねって何かを考えていました。
しかし、それは考えるよりも早くその姿を現しました。
「…白さんっ!」
私は白さんに振り下ろされた大きな斧を素早く剣で跳ね返すと戦闘態勢をとりました。
「こいつは…グラディホロウ…!?」
グラディホロウ…かつて人間であった存在が憎しみに飲まれていつしか亡霊のような魔物に変化したものです。
白さんはその異形の存在を見るなりすぐにその正体を明かしました。
「……よくわかりませんが、これが例のデュヴェン・パドールですか?」
私は切っ先をグラディホロウに向けたまま白さんに尋ねました。
「…いえ、多分これじゃないわ。」
白さんはそう答えると大鎌を構えて戦う準備を整えました。
斧を振りかざす亡霊はケタケタと笑うと私たちに向かってすごい速度で接近してきました。
「速いっ!?」
白さんに急接近した亡霊は大きな斧を振り上げて襲いかかりました。
「白さんっ!」
私が白さんに叫んだ時には斧は振り下ろされ、空を切っていました。
白さんは間一髪で後退して斧を避けていました。
「これは厄介な相手に目をつけられちゃったわね〜。」
白さんはそれでもまだ余裕を持って対処していました。
亡霊の連続攻撃をしっかりと見極めて回避しながらも魔法を唱えていました。
「あと2つ…」
白さんは地面に魔法陣を召喚して亡霊の周囲を囲むように描いていました。
「カカカ…ケケ…」
亡霊はそれに気がつくこともなく白さんを集中攻撃していました。
「貴方がどんな人間だったのかは知らないけれど…私は彷徨う魂を導く役目があるの。」
白さんはついに魔法陣を描き終わると強い眼差しでそう亡霊に告げて手を天にかざしました。
「さぁ彷徨える哀れな魂よ、私の導きで天に還れ…セイクリッドロール!」
白さんが魔法を唱えると魔法陣は輝きを増して亡霊を包み込み、強烈な光となって亡霊を浄化しました。
わずかな輝きがその場にキラキラと瞬き、消えて行きました。
「はぁ…久しぶりに仕事をした気分ね。」
白さんはニコリと私に微笑むと再び石化林を進み出しました。
「………白さんは強いです。」
私はただ、そう独り言を呟きながら白さんについて行きました。
私たちはこの時、私たちに忍び寄る存在にまだ、気づくことはありませんでした。
しかし、それは私たちに静かに…確実に忍び寄っていたのでした。




