二人ぼっちイブ
「んむ、うま……」
フォークを出したのにも関わらず、俺の彼女様は普通に手でケーキを食べていた。
甘い物が苦手な俺は、黙々とケーキを食べ進める彼女を見つめるだけ。
一応、そのケーキは俺の手作りだったりするわけで、美味しそうに食べてもらえるのは嬉しい。
生クリームまみれの手を、ぺろり、と赤い舌で舐める彼女は酷く幼く、妖艶だった。
眠そうな目で口を動かす彼女。
美味い?という俺の問い掛けに、迷うことなく間髪入れずに頷く辺り、満足してくれているらしい。
「デートしたいとか言ってくれたら、遊園地とか行ったのにさぁ」
「んむ、いい。遊園地とか、乗り物乗れないし」
口いっぱいに詰め込まれたケーキを咀嚼しながら、溜息混じりの俺の言葉に首を振る彼女。
寝癖の付いた髪の毛がひょこひょこ揺れる。
午前から一緒にいたが、基本的にお互い別々のことをしていた。
彼女がパソコンに向かっていて、俺が本を開いている時間が多く、俺の作った昼飯を食べて昼寝をして、こうしてケーキを食べている。
「真面目にこんなクリスマスでいいんすか」
「……良く分からないけど、クリスマスは明日で、今日はクリスマスイブだよ」
イチゴを隅っこに避けながら、首を傾げる彼女。
そういうことじゃないのだが、彼女の中ではそういう話になっているのだろうか。
ふわふわと地に足のついていないような会話が、少しだけ焦れったい。
「別に、どこに行きたいとか、何がしたいいって願望はなくて、一緒にいられたらいいよ」
口元に小さく乗せられた笑みに、ぎゅううっ、と胸が締め付けられる。
こんな乙女臭い思考を、自分が持っていたなんて知らなかった。
クリスマスイブとか、クリスマスとか、正直どうでも良かったというのに。
何で、男の俺の方がこんなに気を使うのか。
彼女の方がケーキを作ったりするはずなのに、俺がケーキを作ったりして彼女をもてなしたり、普通のカップルとは微妙なズレ。
男の俺がわざわざ、彼女が喜ぶように、とイチゴをたっぷり使って作ったケーキ。
ワンホール丸々平らげる彼女も、俗に言う甘い物は別腹思考らしい。
イチゴは全て隅っこに寄せていて、好きなものは後にを貫いている。
クリスマス感があるのは、唯一、イチゴと同じように避けられたサンタの砂糖菓子くらいだ。
恋人同士のクリスマス、という感じは一切しなくて、手の掛かる子供の面倒を見ている気分にもなる。
「こんな日に、二人ぼっちは幸せだよ」
生クリームでベタベタの手で、俺の口にケーキの欠片を押し付けてくる彼女は、ケーキよりも甘ったるそうな笑顔を見せた。
細められた目に、緩んだ口元。
口の中に放り込まれたケーキよりも、彼女の方がいいなぁ、とか思うのはきっとクリスマスイブとか、クリスマスとか以前に、男として当然な気がする。
彼女の口元を拭う俺は、どうしようもなく愛おしい気持ちをケーキと飲み込んだ。