第20話 鈴音の幼馴染みのバンド活動
SNSで知り合って、バンド活動。最近はあり得るんですよね。
(それにしても、4人の内の一人を選べって、無理を言うなあ。
4人とも友達のままでいいじゃないか?
だいたい、俺は、バンドメンバーと付き合う気はないんだけど。)
宮田雅人は学校帰りの電車のなかで、つり革につかまり、ぼんやり電車の外の夜景をみながら、
考える。
軽音楽部の練習を終えて、ミーティングをしていたら、けっこう遅くなってしまった。
早く帰って、夕飯を食べたいと思いつつ、バンドメンバーからの要求に悩んでしまう。
(うーん、どうやって断るかだなあ。
でも、4人全員断るってひどくないか?
杉崎なんか怒りそうだなあ。
あいつ、キツイ性格だからな。)
さて、それにしても、バンドメンバーが雅人を除き全員女子というのはなぜだろうか。
理由はある。
それは雅人が在籍している高校は元女子高だからである。
ここ20年ほど前から少子化対策で男子校や女子校の男女共学化が高校でも大学でも積極的に行われているのだが、雅人の高校も例外ではなかった。
雅人の高校は雅人が入学する1年前に男子の入学を認めた。
有名大学への進学率が高く、学校側は男子の大量入学を望んだのだが、
それほど男子は集まらなかった。
結果、男子の割合は学年全体の2割程度。
クラブ活動でも、当然男子は少なく、軽音楽部では部員22人のうち、男子は2年に2人、1年に2人の4人だけであった。
だから、雅人は女子とバンドを組まざるを得なかったのだ。
女子が圧倒的に多いと、女子は男性に遠慮しない。かわい子ぶったりしない。
自然体というか、けっこう男子の扱いが粗雑だったりする。
そして、男子生徒も女子を恋愛対象として見れなくなる。
雅人は割と容姿が整っているバンドのメンバーを見ても全くときめかなかった。
友達としか見れなかった。
でも、女子のメンバーの方は、雅人に対して雑な対応をしながらも、ちょっとワイルドな雅人の雰囲気に少しづつ惹かれてしまった。
女子だけで集まった時に、
「たまには男の子とデートしてみたいよね。」
「そうだね。青春だし、花の女子高生だし。」
「そういえば、うちのバンドの雅人って彼女いるのかな?」
「雅人を狙っているの?お手軽すぎないっ?」
「いいじゃない。だって、性格とかわかっているし、顔も体格もまずまずだし。」
「そうだよねっ。うちの学校の男子って少ないし、レベル低いけど、そのなかで雅人は、かなりいいよね。」
「ううーっ、みんなそう思ってたのか。私もこっそりいいなとは思ってたけど。」
「じゃあ、4人で、雅人に迫ってみない。誰かと付き合いなさいって迫ってみようか?」
「うん、それいいっ!みんなで勝負しようっ!」
そこで、ボーカルの杉崎香耶がぽつりと呟く。
「ちょっと問題はあるんだ。
雅人に厄介な幼馴染がいるの。私、中学一緒で知ってるんだ。いわゆる友達以上恋人未満って感じ。
中学の時の友達の情報では、時々、買い物に付き合わせて、荷物持ちさせているみたい。」
「何、それ。
でも、付き合っているわけではないんでしょ?」
「たぶん。幼馴染の関係でズルズルいっちゃってるパターンだと思う。」
「なら、関係ないよ。ちゃんと付き合ってますっていう宣言ができれば、そんな女、関係ないよっ。」
「そ、そうだね。」
香耶は、他のメンバーの強気の発言で、頭の中にひっかかっていた躊躇いがばさっと外れたような気がした。
雅人はよく知らないのだが、以上が雅人が女子メンバーに迫られたきっかけである。
雅人の話に戻す。
雅人は電車の中から夜景を見ながら、自分の頭の中を整理する。
(鈴音は俺のことをどう思ってるんだろう。
あいつが隣にいるのが、すごく自然という気持ちがする。
これが、恋愛感情なのかよくわからないけど、
あいつ以外の女と付き合うなんて考えられない。
あいつとの関係は別に急がなくていいと思う。
なるようになるだろう。
とりあえず、4人のメンバーの好意は遠慮しよう。)
頭のなかでは、誰が大切かわかっている雅人だった。
さて、数時間後、雅人はパソコンに向かっていた。
あるアマチュアバンド愛好者が集まるSNSで、同じ高校2年生の男子と最近、交流するようになっていた。
SNSの画面を開くと、雅人にダイレクトメールが入っていた。
「おっTOSHIからメッセージ入ってる。」
メッセージの主は最近交流するようになった、同じ高校2年の男子だった。
内容は
<今度の日曜日の2時に渋谷の練習スタジオが取れたんだけど、セッションしないか?
本当は、ウチのバンドの練習をしようと思ったんだけど、
メンバーの都合がつかなくってさ。
ウチのバンドはギターの俺とボーカルが行ける。
MASAはドラムだろう?
あと、ベースが一人いれば、セッションが成り立つ。
ベースを一人誘って来ないか?
セッションのあとは一緒に飯でも食って音楽の話しょうよ。>
というものだった。
雅人はすぐ返事を出す。
<日曜の午後ならあいている。
あとはベースだよな。
学校の軽音楽部で同じバンドやっているやつに頼んでみる。
また、あとでメッセージおくるよ。>
そして、雅人はスマホを触り、バンドのベース担当の
木村優香に電話してみた。
「あっ、誘ってもらったのにごめん。そのときバイト入ってる。
残念だけど、参加できないよ。
でも、ベースなら、香耶がいるじゃない。
香耶ってベースけっこううまいよ。」
「そっか!考えてみれば、杉崎はほかのバンドではベース担当だったな。
あいつがバンドの掛け持ちしてたこと忘れてた。
ありがとう、都合つくか聴いてみる。」
雅人は今度は杉崎香耶に電話をすると、
「いいよっ!
他校の生徒とセッションなんて、すごいっ。
ネットで知り合って、リアルで会うなんて、今時だね。
会うまでドキドキしそう。
そういえば、雅人のドラムをバックにベースを弾くのも始めてだ。
それも、楽しみ。
ワクワクしてきた。」
「サンキュ!杉崎。
俺も、緊張してるんだけど、
たまには違う相手とバンドをやってみるって、絶対自分にプラスになると思ってさ。
ネットも利用しなくっちゃな。」
「でも、変な奴らだったら、私すぐ帰るからね!
私、けっこう好き嫌いあるの知ってるでしょ?」
「少なくとも、俺のネットの友達はいいやつだと思う。
交流していてわかる。
ボーカルはわかんないけど。」
「まあ、いいや。
二人のうち、一人でもまともなら、なんとかなるかな。」
香耶との会話を終え、再びパソコンのキーボードを叩き、相手にメッセージを送る。
<ベース担当者の了解をとった。
スタジオの場所を教えてくれ。
面識ないから、予約時間の30分前にはスタジオの前に集合しよう。
そこで自己紹介をしてから、スタジオに入ろう。
あと、一緒に演奏する曲を決めよう。
候補曲、10曲ほど選んでくれ。>
返事はすぐきた。
<おおっ。これで、ギター、ドラム、ボーカル、ベースでバンドができるな。
30分前集合了解。
スタジオにはいったら金かかるから、自己紹介は予約時間の前にやっちゃおう。
演奏曲については、これから、選んで送るから、選んでくれ。
スタジオの予約時間3時間だから、5曲くらいかな。
有名な曲を送るから。
ちなみに、ボーカルは女の子だから、女子ボーカルで対応できる曲をリストにする。>
メッセージを見ながら、雅人は驚く。
(えっ、ボーカルって女の子なんだ。
もしかして、彼女?
こっちも女の子連れて行くから、男二人、女二人でちょうどいいバランス?
相手がカップルだったら、ちょっとまずい感じかなあ。
いや、純粋に音楽を楽しむんだ。
変なことを考えるのはよそう。)
雅人は香耶に迫られていることを思い出し、ちょっと困惑したが、
割り切ってバンドを楽しもうと頭を切り替えた。
相手のTOSHIからリストが来ると、自分たちが演奏できそうな曲を5曲選んで、返信する。
そして、ちょっと戸惑いながらも、その5曲を他校とのセッションで演奏することを
香耶にメールした。
相手が男と女の2名で来ることは、メッセージには載せなかった。
(ダブルデートみたいに思われたら、いやだからな。)
でも、メールを受け取った香耶は気づいた。
(あれっ。この曲って、みんな女性ボーカルの曲だ。
ということは、ボーカルは女の子だ。
ギターは男の子でまちがいないはず。
相手は2名でくる。こちらも2名。
わっ、男女2名づつで集まることになる。
これって、ダブルデートみたい。
これはチャンスっ!
相手はカップルかなあ。単なるバンド仲間かなあ?
よおっし、ここで、彼女の座獲得競争でリードするぞ。
もちろん、鈴音も出し抜く。)
香耶はやる気まんまんになった。
少子化で女子高に男子が入って共学化ってよくある話ですね。
共学になっても、女子の方が多いと、なんか難しいみたいですね。
よく紅一点とか言うように、男子の中に女子が一人とか2、3人というのはうまくバランスが取れるみたいですが、
女性が多くて、男性が少数派となると、お互いにやりずらいみたいです。
モテる男の子はモテるんでしょうけどね。




