第15話 小悪魔登場
一方、俊樹も新学期を迎えていた。
新学期の最初の日に教室に入ると、クラスメイトが一箇所に大勢集まっているのをまず発見する。
まさに黒山の人だかりだ。
(あれー、新学期早々、何か事件があったのか?)
クラス替えで、知り合いが少ない教室の中を探すと、知っている顔を見つけた。
(やったー。健二がいる!よかったー!)
健二は1年の時同じクラスで、そこそこ仲がよかった。
好みの女性のタイプも明かし合うくらいの、気が合う男子である。
「健二、同じクラスか?よろしくな。
一緒のクラスでよかったよ。」
「おおっ、こちらこそよろしくっ、俊樹。」
「あれは何だ?みんな集まっているけど。」
「編入生だよ。なんと2年からの編入生がこのクラスにいたんだ。
その編入生の周りに人が集まっているのさ。
何でも札幌から引っ越してきたんだって。
親の仕事の都合みたいだぞ。
なんとか、この席にいながらも、それだけの情報ははいってきた。」
そこで、健二は声を落としてささやくように伝える。
「すっげー、美人だぞっ!おれはちょっとしか見てないけど、顔がちっちゃくて、足も細くて、スタイルもいい。お前も好みだと思うっ。クラスで積極的な奴らが、声をかけ出したらあの通りさ。
男も女もけっこう集まってる。」
「ふーんっ。親の仕事の都合か。大変だな。」
「あれっ?あんまり興味なさそうだなっ。俺は、あの人垣の中に行きたくてしょうがないのを、
今更だから行けなくて歯がゆい思いをしてるんだけどっ。
進学高のうちの学校には絶対いないタイプだぞ。
お前の好きなミニスカ女子高生っぽい雰囲気がある。
まあ、うちの制服だから、限界はあるけど。
でも、たぶんたくしあげてるんだろうな。ほかの女子生徒よりもスカート丈短いっ。
そういえば、さっき誰かが質問していたのが聞こえちゃったんだけど、彼氏はいないみたいだ。
これは、争奪戦の予感がする。」
「そうか、俺も興味なくはないけど、
ちょっと個人的な問題が生じて、それどころじゃないっ。
転校生のことはお前にまかせるっ!」
「おっ、ライバルが一人減った!
ラッキーだ。ぜひ、応援してくれっ。
競争率厳しそうだからな。
もしかしたら、俊樹、好きな女でもできたかっ?」
「うーん、ちょっと違うんだ。とても説明できない複雑な事件があってな。
(まさか親友が美少女になったなんて言えないよ。)」
その時ガラッと教師が入ってくる音がした。
俊樹は健二に追求されなくて済んだ。
ほっとする俊樹だった。
(注目の編入生かあ〜。
かわいいのか。
でも、かわいい編入生は智花だけで手一杯だ。
ほかのキャラのことを考える暇はない。やっぱ興味ない。
それにしても、智花は親友だけど、かわいいよなあ。
おっぱいもそれなりにあるし、触りたいよなあ。
揉んだら気持ちいいだろうなあ。
いやいやっ、だめだっ、そんな事!
でも、あの制服姿はたまらないっ。
こっちの編入生がかわいいっていっても、所詮うちの制服だ。
あの制服姿にはかなわない。)
智花のことばかり考え、教師の新学期のあいさつがぜんぜん頭にはいってこない俊樹だった。
だって、智花には毎日会っているるのだから、うれしくてしょうがなかった。
夕食は基本的に俊樹のうちに食べにくる。そして、そのあとは俊樹の部屋に遊びに来るのだ。
毎日ドキドキだった。
元男性だっていうのがわかっていても、可愛いと思う気持ちがその歯止めを簡単に打ち破ってしまっていた。
ただし、あくまで親友だよなあ〜っと思ってしまう複雑な思春期の心だった。
さて、初登校から、クラスメイトに囲まれ質問攻めにあっていた編入生の少女、双葉あやめは
教師の説明を聞きながらほくそ笑んでいた。
(初日はまずまずの成果かなあっ。
注目度は予想どおりだった。けっこう私人気になっていると思う。
これからがお楽しみだぞっ。)
なんか企んでいる様子である。
はっきり言えば彼女は美少女だった。
誰の目でみても、教室の中で一番の可愛さである。
もしかしたら、学年中、学校中でもトップクラスの可愛さと言ってよかった。
だから、朝から注目されて当然だったのだ。
単に容姿がいいというのではなく、可愛く見せる技が普通でなかった。
同じ制服姿なのに、ほかの女子生徒とはまったく違った魅力ある女子高生姿であった。
わかりやすく言うと・・・
俊樹の通っている高校は県内有数の進学高である。
だから、女子は素質は別として、垢抜けていないのが普通であった。
自分を可愛く見せるために、きれいにみせるために努力するというようなモデル系のタイプの女子
はいなかった。
そんなところに入ったあやめは唯一の垢抜けた存在として目立ってしまったのである。
彼女は今までタレント養成スクールに入っていた事があり、スタイルがよく、歩き方や動作が訓練されていた上に、髪型や制服の着こなしなど、かわいくオシャレにみせる小技をいっぱい持っていたのだ。
勉強が一番大事といった感じの同級生の女子とはまったく異なる人種だった。
だからといって、あやめは勉強ができないわけではなかった。勉強も負けず嫌いでかなりできる。
スポーツはやっていなかったが、かなりスペックの高い女子高生ではあった。
ただしだ。
双葉あやめは、悪い子である。
趣味は「男心を弄ぶこと」だったのである。
見た目からは想像できないちょっと意地悪な性格をしていた。
あやめの美貌に惹かれ、集まってくる男子生徒たちを恋の虜にしてしまい。骨抜きにしてしまうのが
楽しくて仕方がないというタイプだった。
実際、前の学校では、次々と男子生徒を虜にしてしまった。
好きでもないのに、その美貌で思わせぶりな態度を繰り返し、あやめに惚れてしまう男子をいっぱいつくってしまった。
もちろん、がまんできずに、恋の告白をして、付き合いを求めてくる男子生徒は多数いる。
そんな場合は
「私、今は特定の彼氏を作る気はないの。お友達でいてください。
これからも仲良くして欲しいの。」
とニコッと笑いながら、返事をして、相手が完全にあきらめられないような断り方をした。
実際、特定の恋人をあやめはつくらなかったため、告白した男子も、「まだ望みはある。」と
思ってしまい、恋心を継続してしまう。
その結果、あやめの奴隷のような男の子がいっぱいできてしまい、彼女はちょっとしたお姫様のような
存在となっていった。
(男なんて、どうにでもなる。特定の彼氏なんていらない。自分を好きになってドキドキしているのを
見るのがすっごく楽しいっ。たまらないっ。)
彼女は、本気で男を好きになるということはなかった。
男は自分より下の存在としか思えなかった。自分の虜となる男性を増やすことが最大の興味だった。
あやめは、教室でおとなしそうに教師のことばを聴いているふりをしながら、
作戦を頭の中で練る。
(まずは、前の学校でやっちゃった失敗を繰り返さないようにしないとね。)
そう、お姫様状態であった前の学校で彼女は大きな失敗を犯していた。
高校1年生時代は途中から黒歴史になってしまった。
実は、
男性を奴隷のようにして、お姫様として君臨したのはいいのだが、
同性の女子生徒から嫌われてしまったのだ。
男性の心を惹くためにやっているわざとらしい行為、
たとえば、「高くてかわいい声を出す」「男子とわざと目を合わせる」「甘えん坊のような仕草をする」
「力が弱い振りをする」「媚びるような態度をとる」という小技をすべて見破られ、女子からは
とんでもない女狐として扱われるようになる。
「何、あの子、性格わっるーっ!」みたいに言われることが多くなってしまったのである。
だから、男子の間でお姫様として君臨出来たのは秋くらいまでで、そのあとは、同性から嫌われていることが
男子にばれてしまい、結果的に男子の間でも悪い噂がたつようになり、その人気は下降線をたどっていった。
いかに、顔とスタイルがよくても、同性に嫌われている女子は問題物件だった。
それを思い知る高校1年時代だったのだ。
同性は怖い。顔やスタイルが自分より悪くても、女子の多数の意見は男子に大きな影響力があると
わかりすぎるくらいわかってしまった。
あやめは考える。
男の子をすぐにでも籠絡して、あやめを見ながらドキドキしている姿を見たいけど、
それはとりあえず我慢。
まずは男女ともに人気者にならないと。
特に発言力のある女子とは仲良くなっておくことが必要。
女性の力は甘く見ないこと。
今朝は、女の子からも積極的に声をかけられたから、つかみはオッケー。
しばらくはクラス全員から好感を持てるようにしなきゃね。
それからそれから、男性に媚びるような態度は女子から嫌われるから、
低い声で話すようにしなきゃ。性格はサバサバしているようにしないとね。
男勝りにする必要はないと思うけど、ちょっと男の子っぽいキャラにするのもいいかもっ。
でも、かわいい雰囲気もつくって、たまには男女ともにハートをわしづかみにしなきゃ。
とりあえず、私みたいに可愛い子っていないみたい。
今年は、男女ともに私の虜にしてしまうぞっ。
よしっ、今年はがんばる。
前の学校での失敗を糧に、決心するあやめだった。
でも、
まさか、まったく自分に興味がなさそうな男子がいるとは思わない彼女だった。
そして、その男子に振り回されて、自分の恋愛感が変わってしまうなんて想像もしなかった。
男は惚れるものではなく、自分に惚れるものだという彼女の常識が変わるなんて、その時の彼女は
まったく知らなかった。
次回更新は30日を予定しています




