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第8話

よろしくお願いします

私が1人決意を胸にしている間にどうやら完全に夜が明けたらしい。思考の海に沈んでいる間は全く気付かなかったが、いざ意識すると太陽が眩しくて目がしぱしぱする。

これからまた寝るわけにもいかず、眠気覚ましに顔を洗って身支度をしてしまおう。



さっぱりしてクローゼットを開けてみると、ローザが入れておいてくれたのだろう。私のワンピースが入っていて、どれもお気に入りのものばかりだ。きっといつ起きてもいいように用意しておいてくれたのだろう。ローザの優しさが嬉しかった。



程なくして控えめなノックが響きローザが部屋に来た。すでに身支度を終えている私に驚いていたが起きてしっかりと動いていることに安心したようだ。

ベッドの横の鏡台に腰掛け髪を結ってもらっている。


「おはようございます、お嬢様。お加減はいかがですか?」

「おはよう、ローザ。ありがとう、それに心配かけてごめんなさい。でももうすっかりよくなったわ。それに洋服もありがとう。どれも私のお気に入りばかりだわ。さすがローザね!」

「お嬢様に喜んでいただけたならよかったです。診察がありますから髪はまとめて結っておきましょうね。はい、できました。今アビス様をお呼び致しますね」


そういってローザはにっこりと笑い、部屋を出た。鏡を見るとサイドは編み込まれ、うなじが見えない程度にそのまま後ろ髪と一緒にまとめられている。確かミディアムシニヨンっていうんだっけ?女子力よりゲームスキル磨いていた自分にちょっとへこむ。

そうしてまもなくアビス様が到着した。


「アビス様、この度はありがとうございました」

「あらやだ、カレンデュラ様!私に様なんてつけないでくださいよ」

「ですが…」

「身分なんて私にはそんな気にならないものですし、私のことはみんな先生って呼んでます。カレンデュラ様が気になさるようでしたらカレンデュラ様もそう呼んでくださいな」

「あ、あの、でしたら私のこともカレンと呼んでください、アビス先生」



快復のお墨付きをもらい、診察を終えた笑顔の先生を見送った。…あの人、会社にいた食堂のおばちゃんに雰囲気が似てるんだ。朗らかでお世話好きでよく私も心配されたな。おばちゃんの唐揚げが食べたい。

記憶が戻ったばかりだからか色々と思い出して懐かしくなってしまう。記憶の場所が場所だけにお腹がすいてきた。

ちょうどローザがスープをはじめとした軽食を用意して戻ってきた。

なんてステキなタイミング!いやぁ、スペック高すぎです!

なんて顔に出すことはしなかった(はず)でもきっと目は皿から動かなかったんだろう。ローザが苦笑しながらセッティングしてくれた。早速いただく。


「本当に心配致しました。お嬢様のいらっしゃらないお屋敷はとても静かでまるで冬のようでしたわ。ですから早く良くなって戻ってきてくださいませ」

「えぇ。早くみんなにも会いたいし。そうだ、ねぇローザ?家に帰ったら私に美味しいお茶のいれ方を教えてくれない?」

「お茶のいれ方…ですか?」

「そうよ。ダメかしら?だってローザのお茶が美味しいんだもの」

「ありがとうございます。そんなふうに言っていただけるなんて光栄ですわ。そうですね、毎日は無理かもしれませんがお勉強の合間などにできるように奥さまにお願いしてみましょうね。そのためには早く元気になってくださいませね」


そういって優しく微笑んで落ち着く薫りのお茶を出してくれた。ローザは優しさでできていると本気で考えたよ。



食事を終えて本を読みながらひと一息ついた頃、ローザからお父様達が城に到着したことを知らされた。と同時に部屋が開け放たれ抱きしめられた。


「ああっカレン!本当に無事でよかった!」

「お母様…」


あっけに取られてしまったが、その後ろではお父様達は、やっぱりな、とばかりに小さく笑っていた。


「あなたが爆発に巻き込まれたと聞いてどんなに恐ろしかったかっ…。王医殿直々に説明をされ、大丈夫だと言われても起きる気配のないあなたを見るたびに不安で不安で……」


そのあとはもうすすり泣く声しかせず、ひたすらに私を抱きしめる力が強くなるばかりだった。

申し訳なさと会えた嬉しさと今になってやってきた爆発の恐怖に胸が苦しくて何も言葉が出てこなくて、けど高ぶった感情に涙が止まらなくて…。気がつけばどれ程そうしていたのかそろそろ苦しくなってきた。すると苦笑ぎみなウィルお兄様の声にハッとした。


「ねぇ、母上。そろそろ落ち着かれましたか?僕らもカレンの無事を確かめたいです」

「あらごめんなさい。何も考えられなくてつい」


なま涙をぬぐいながら共に私の涙をぬぐってくれた。そのままお父様に抱きついてまた泣いた。

お父様、美人なお母様に抱きつかれて役得ですね。いつまでも新婚のようで羨ましいです。


「お兄様、ありがとうございます」

「いや?君の無事を確かめたい気持ちは真実だからね」


そう言って腕に座らせるような体制で抱き上げて目線を合わせた。そのままコツンと額を合わせる。いくら本当の兄とはいえ、これ恥ずかしい。イケメンの憂い顔に顔が赤くなるのが自分でもわかった。


「でも無事でよかった。あのあと色々あってね、あとで宰相閣下が説明にこられるようだから待っているんだよ」

「…はい」

「ほらアルもおいで?」

「…」

「アルお兄様、私大丈夫ですよ?」

「…」

「アビス先生からもう何の問題もないですってお墨付きもいただきました!ですからお休みの時には遠乗りに連れていってくださいね、約束ですよ!」


お兄様に下ろしてもらってアルお兄様に駆け寄って手を取った。

そのままお兄様に抱きしめられた。お互い声は出さないが気持ちは通じあえていると信じている。


「俺、強くなるからカレンも見ててな」

「はい!」

「うしっ!なら遠乗り行く準備も進めとくから楽しみにしててな!」


そうそうしてガシガシ撫でられた。

お父様は気づいたら側にいて、ポンポンと肩を叩かれた。



本当に無事でよかった。誰かを悲しませるのはもうごめんだ。心底そう思った。

ありがとうございました

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