第5話
よろしくお願いいたします。
一行は寄り道をすることもなくまっすぐに騎士団の訓練場へ向かっていた。
先頭を歩くのは団長様で、その後ろをアルお兄様、私。ウィルお兄様とゼファー様がお話ししながら並んで歩いていた。初めて来る場所に何だか落ち着かなくてキョロキョロと周りを見てしまう。私に合わせてなのか、大人の男の人からしたら少しゆっくりなスピード。とにかく置いていかれないようにと必死についていった。
。少し後ろで話している2人にも意識を向ける。プライベートでも親しい友人としても殿下と共に留学していればやはり隣国でもそういった夜会にも招かれることもあるのだろう。私はまだデビュー前だったので両親に連れてきてもらって王宮での壮行会に出席させてもらったけど、緊張であまり覚えてないのが正直なところ…。勢いでお兄様に付いてきてしまったけど本当によかったのでしょうか、と今になって不安になってきた。
チラリと下から前を歩くお兄様を見てみる。ここはアルお兄様の所属する騎士団の本部。まだ正式な団員ではないがここで訓練をしているみたいだし、堂々としている姿が凛々しい。つい、と私に顔を向ける。私に気づいたみたいで、ニコリと笑ってくれた。ちょっと照れてしまってすすすっと後ろに下がってしまった。
「ゼファー、君はいつまでついてくるんだい?」
「え〜?面白そうだからもう少し見学してようかな。…そんなに睨むなよ。…はぁ、一応僕が見届け係。親父殿に…いや宰相閣下にあとで魔道具で判定した結果をまるごと届けなきゃいけないからね。今日はあの人執務室に籠りきりになりそうだからって頼まれた」
元々興味はあったし、まさかカレンデュラ嬢にも会えるとは思ってなかったから役得だよね。と、ご機嫌な様子。
「けどさ、お世辞でも何でもなくて、カレンデュラ嬢は綺麗になったよね。まだ幼さはあるけど将来は約束された感じじゃないか。まるで月の女神なんて言われた君のお祖母様の再来なんて言われてるんだろう?うちのじい様も言ってたけど、あの年代の憧れの的だったマリアベル様に生き写しだ。なんて興奮してたよ。君も公爵も気が気じゃないだろうね」
呆れちゃうよね、なんて軽い口調。
「うるさい」
「別に本当のことなんだし怒らなくてもいいでしょ」
「…」
「まぁ、気持ちはわかるけどね。おっ!そろそろ着くね」
団長様が部屋を開けると中にいたのは各団長と各副団長達。それと中央に水晶体のように透明な球体が置いてあった。
「おっ?揃ってるみてぇだな」
「遅いですよ、団長。こちらは準備が完了してますから早く始めましょうか」
「まぁ、そう急かすなや。ほれ、嬢ちゃん。こっちおいで」
え?私ですか?
確かに手招きされてますが、不安になってお兄様を見上げるが苦笑ぎみに頷かれた。ゆっくりと団長様の前に立ってあいさつする。
「お初にお目にかかります。アルベルト・リーファンの妹、カレンデュラ・リーファンと申します。場違いかと存じますが何卒ご容赦くださいませ」
ローザをはじめとする先生方に教え込まれた淑女の礼をとる。何故か横で団長様が得意気に頷いている。
「お初にお目にかかりますね、私は魔術師団長の役に付いている、エルド・ブランソンです。こちらは私の補佐で副団長をしているキースといいます」
黒の長い髪を背中に流したまま握手をしてくれたのは魔術師団長で、その後ろでキース様も頭を下げてくれた。
次に声をかけてくれたのは暗い茶色の髪を短くそりあげていて。
「私は特務師団、団長のソリダスだ。残念ながら副団長は任務中でこれないが、変わりに副団長補佐のスルト・マクスウェルを連れてきた。アルベルトと面識があるんだよな? 」
「はい。初めまして、カレンデュラ嬢。アルベルトと共に学園で修学しています。以後お見知りおきを」
紳士の礼をとられた。ソリダス様は最後はスルト様に話しかけたようで、頷いたスルト様はそのままの流れで私に挨拶をしてくれた。
「うちのアルベルトの妹は可愛いだろう?」
「何で団長が嬉しそうなんです?」
「何だよ。いいじゃねぇか、俺は娘が欲しかったんだよ、悪りぃか。あ、そうそう。これがうちの副な。ロイドってんだ」
ため息まじりにロイド様に頭を下げられた。なんていうか…御愁傷様です。
「さて、そろそろ始めますよ。アルベルト、準備してください」
魔術師団長様に声をかけられお兄様が部屋の中央まで進む。
何が起こるか私はよくわからずウィルお兄様を見上げた。それに気づいたお兄様が簡単に説明してくれる。
「ごらんカレン。あの中央の球体に魔力を流すことで密度と性質がわかるんだ。自分の性質に合った魔力の色に変わり、密度が濃ければ色も濃くなる。密度が濃ければそれに比例して魔力量も多いってことなんだよ。検査が終われば保存の魔術を施した箱にしまって見届人と一緒に報告されるんだよ」
頷きながらその様子から目が離せない。お兄様が手をかざして魔力をながすと球体がふわりとう浮いた。
まず始めに赤く変わってすぐさま深紅へとかわった。するとそこから淡く煌めく蒼い色が混じって濃くなった。混ざることなく2色が揺らめいていて、最後に緑色の膜が2色を覆った。
誰も一言も発することなくその様子を見ていた。
球体は淡く光っていたがそれも次第に落ち着いていき、そっともとの位置に戻った。
お兄様がそっと手を話して一息つく。
「エルド、これ程までとは思わなかったな」
「そうですね、まさかこの色味になるとは…どうりで早く壊れる訳ですよ」
「火と水。相反する魔力の性質に風が加わったな。あれだけ濃ければそれなりの鍛練ではダメだな。なぁ、ウルフよ、アルベルトうちにくれんか?特務向きだろ?」
「やらん。あれはわが騎士団の未来だ」
「…だよな。すまん、言ってみたただけだ」
団長様達が話し合いをしている横で、キース様がロイド様と共に球体を箱に納めている。ゼファー様も共に行動している。
「お疲れ様。ね?どうってことなかっただろう?」
「うん。兄上、俺死ぬ気で鍛練して誰にでも誇れる俺になる」
アルお兄様がこちらへ来た。検査の結果が自信へとなったのか、その前からなのかわからないけどもう朝みたいなアルお兄様ではなかった。ウィルお兄様も笑顔で頷いている。
「お疲れアルベルト。相変わらずの魔力量だね。やっぱりまた成長したみたいじゃないか」
「スルトもわざわざありがとな」
「いいんだよ、気にしないで」
お話しの邪魔をしないようにと少し離れてみた。いい友人関係を築いているみたいで羨ましい。私は来年の学園入学。友達できるといいな。
そんなことを考えている時だった。
「伏せろっ!!」
鋭い叫び声が響いた。同時に何かが爆発する音。そして爆風に包まれる。とっさのことに何も反応できなかった。
私の中に熱いやら冷たいやらよくわからない感覚が駆け抜ける。爆風に巻き込まれ浮いた体に力も入らないし意識が遠退いていく。
あ、これ。私、詰んだんじゃね?
ありがとうございました。
カレン、ウィル、アルの年齢を変更しました。ご迷惑おかけしました。何卒よろしくお願いいたします。