第3話
よろしくお願いします。
おはようございます。
カレンデュラ・リーファンです。
寝坊することなく朝は起きることが出来ました。…が、しかし。昨日の疲れはないけどスッキリ、爽やかな目覚めではなかった。
「おはようございます、お嬢様。今日は早くに王都へ向かうとのことですので、皆様もう少ししましたら朝食にされるそうですよ。お出掛けの準備はお食事中にしておきますのでご安心くださいね」
朝一にふさわしい、まぶしい笑顔のローザ。テキパキと着替えやら何やら準備と片付けをされて朝食へと送り出された。
「おはようございます、お父様。お母様。ウィルお兄様。アルお兄様」
みんなに挨拶をして自分も席につく。お兄様達の笑顔が今日もキラキラ眩しい…。
「おはよう、カレン。昨日はよく眠れたかい?」
「はい。今日は楽しみですね」
「カレン、今日はウィルやアルから離れてはだめよ?それから、騎士団の皆様にご迷惑をおかけしないようにね。あとは…」
「母上、そんなに心配しなくても大丈夫ですよ」
「そうだよ。カレン1人ならともかく、俺や兄上もいるし。何よりうちの団長と魔術師団長も来るみたいだからそうそう馬鹿な奴等がちょっかい出すこともないよ。それにそんなに時間もかからないと思うしね」
お母様は私が心配みたいだけど苦笑ぎみにお兄様達に嗜められていた。
「アル、人には才能や生まれ持った資質というものがある。自ら選びとることなど、どうにもならないものだ。だが、努力とは時にそれを越える成果を出し、またその方向性を見出だすことで幾重にも可能性が広がっていく。自分の可能性を狭くするような視野を持つのではなく貪欲に知識を、経験を取り込め。それは例えこの先不要になったとしても、積もり積もったそれらは決して邪魔にはならず己を磨く糧になる。魔法剣士への可能性は1つの選択肢だ。いずれにせよ選ばなければならない時がきた時に後悔するなよ」
「そうだね、時間は有限だけどさか戻ることはできない。あの時やっておけばよかったと思うことがないように今は、今出来ることをやるべきだと私も思うよ」
「…」
お父様とウィルお兄様に声をかけられたアルお兄様はとても真面目な顔をしていて、その言葉の意味を噛み締めるようにひとつひとつを飲み込んでいってるみたいだ。そして自分の中で整理がついたのだろう。「うん」と短く返事をして自分の手のひらを見つめる。開いて閉じてを繰り返していた。そうしてもう1度頷くとしっかりと握りしめる。
お兄様の様子はゆらゆらとしていた瞳に芯が入ったような、揺れていた気持ちに踏ん切りがついたようだった。
「では行って参ります」
「「行ってきます!」」
「あぁ、行っておいで。ウィル、2人を頼んだよ。アル、しっかりな。何度も言うようだが、自分の可能性を疑ってはいけない」
「気を付けてね。カレン、帰ってきたらたくさんお話を聞かせて頂戴」
にこやかに両親に送り出されて私達は王都へと向かった。
「ところでお兄様。魔法剣士になることに何か不安があるのですか?」
王都へと向けて出発して少しの間は、街や領民の人達に手を振りながら進んでいた。そういえば…昨日からずっと気になっていたけど何となく聞けなかったと思い尋ねてみた。まだ王都までは時間があるし、馬車にただ揺られて景色だけ見てるのも何だかもったいない気がしたし…。
「そっか。カレンは魔法剣士がどんなもんか知らなかったか」
「…?」
どういうことだろ?
アルお兄様はう〜ん…と考えてから
「魔法剣士って一般的に魔術が使える剣士。って思われてるんだけど…。これって半分当たりで半分ハズレなんだ。魔法剣士とは抑えきれない、もしくは暴走しないために自分の魔力より強い、受け止めきれる程の武具に魔力を流して戦う剣士なんだよ。その戦いの中で剣術と魔術を組み合わせて戦うから魔法剣士。だから魔術が使える剣士ってのもあながち間違いじゃないんだよ。
大前提として魔術は魔力の有無によってその威力がかわる。魔力が多ければ威力が高くなるし、もしくはその逆。人には大なり小なり魔力がそなわっているんだけど大半は死ぬまで量も性質も変わらない。ここまではいい?」
こくんと頷く私にお兄様は続ける。
「ほとんどの人は産まれてすぐに受ける魔力適性検査で魔力の量や性質を知るんだ。その結果は国で管理されるんだけど、特に強かったり厄介な性質持ちだったりするとそのまま親子で国預りとなって子供が日常生活に適応できるようにするんだ。まぁ、そんな場合なんてそうそうないし、短い期間だって聞いてる。だけど希に先天的か後天的かの違いはあれど魔力が増え続けたり性質が変わることがあるんだ。俺や母上みたいにね。魔力が定まらないことでまぁ色々と不便なこともあるけど増えることには抵抗ないんだけどね…。その場合、魔力適性検査を受けてその時点での定期的な経過観察になるんだ。けどね、俺は仮とはいえ、騎士団に所属してるし、少ないけれど魔法剣士にも会ったことあるんだ」
「そうなんですか?」
「今、国にいる魔法剣士は引退した人やギルド含めて10人もいないんじゃないかな。
けど聞く話だと武具さえどうにかなれば剣士としての強さもスキルも断然伸びるんだ。でも見つからないこともある。まぁ、その時は付け焼き刃かもしれないけど魔力付加できる武器を作ってもらうか、魔術師に転職とかあるみたいだけどね…」
どちらにせよ、日常的なことではないし、全く見当がつかないらしい。アルお兄様は窓枠に肘をついて外を眺めながらはぁ、とため息をついてしまった。
「不安っていうか俺をスカウトしてくれた団長の期待に応えたいけど、本物の魔法剣士の強さを俺は理解しきれない。だから検査結果次第で訓練したとして、それが結果に結び付かなかったらと思うと団長だけじゃくて仲間とかにも申し訳なくてさ…」
そう溢したアルお兄様にウィルお兄様は
「アル、悩むだけ無駄だよ。やれることをやらないでどうするの?そうやってうじうじ悩むのは止めたと思ったけど…父上の言葉は無駄になった?私やカレンの気持ちは?君に元気になってほしいってついてきたカレンの気持ちを。だいたい検査する前から悩んだって仕方ないじゃないか。いい加減腹括りなよ」
今まで黙って聞いていたウィルお兄様からの言葉に私は目を丸くしてしまう。
「武器がないから?力が暴走するかもしれないから?だったらそれを押さえ込めるぐらい強くなりなよ。団長殿は君の検査結果で失望するような小さな男ではないはずだよ。君の友人や先輩は?あらかじめお前が魔法剣士になると思っていたとでも?自分は強いはずだけど武具が見つからなければ才能が生かせないと?
思い上がるなアルベルト。お前より強い人間なんて山のようにいる。先の見えない未来に怯えてばかりで周りの気持ちを気づけない、愚か者の弟など私は知らない」
はっきりとした怒気に思わずたじろいでしまう。
確かにウィルお兄様に言うこともわかる。けどアルお兄様の気持ちだってわかる。誰だって失望されるのは怖い。期待に応えられないのは辛い。思わず正面に座っていたお兄様に詰め寄ってしまう。
「ウィルお兄様言い過ぎです!」
「そうかな?確かに皆アルの才能に期待しているよ?でもね、才能に驕れることなく努力してきたから彼を応援しようとしてきたんだ。それなのに…勝手に失望されると思ってる。そんな程度にしか私達の気持ちは伝わってなかったのかな?
だいたい魔法剣士にならなくたって私達は家族なんだ。失望なんてするわけがないのにね。そう思われていたことが私にはショックだよ」
お兄様はふいっと顔を背けてしまう。
どうしたものか悩んでいると、パァァンと音がした。振り向くと顔を両手で覆っているお兄様がいた。
「……うん。兄上ごめん。俺…うん。俺は俺だもんね」
よしっとしっかり前を見据えて
「しっかり見届けてください、兄上。カレン」
そうそう言って頭を下げた。
もう王都は目の前で高くそびえる城が目の前に迫っていた。
ありがとうございました。