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第16話

前半はカレン視点、後半はシリウス視点になります。

本日もよろしくお願いいたします。

放課後。


まだ本格的に授業は始動しておらず随分と日が高いうちに解散となった。

私達は食堂の2階にあるサロンへと集まっていた。


学園にはいくつかの場所にグレードが分かれたサロンが用意されている。人数や用途によって選べる部屋は申請という形で予約できるものらしい。


貴族にとってのお茶会という名の情報交換の場は、学園では家同士の繋がりだけでなく、学年、身分階級問わず交遊関係を広めるために開かれることが多いようだ。

もちろん家同士の繋がりをより強固、もしくは新規開拓するためのものや、自分の箔付けのために開かれるもの、同好会のような同じ趣味嗜好の集まりなど多種多様に開かれるらしい。


今回用意された部屋はかなりいい部屋と思われる。彼の身分を考えれば普通なのかもしれないが…。


件の2人が用意した部屋だが彼らはまだ来ていないようだ。

あらかじめ部屋に用意されているお菓子をつまみながら、備え付けの茶器を使ってお茶を入れて待つことにした。

お茶菓子もそうだが、茶葉も豊富で何を入れようか迷ってしまう。


美味しいお菓子とお茶に舌鼓を打つ。

話題は新しいお店やドレスのこと。次から次へと尽きることなく出てくる話題につい夢中になってしまう。


それにしても…。


「こないですね」

「騙されたのかしら?それとも嫌がらせ?」

「あれだけ悲壮な顔していらっしゃったのですし、それはないのではないでしょうか?」


女子会が楽しくて本来の目的を忘れていたが…。そろそろ次のお菓子を用意しようかと腰を浮かせると外から何やら話し声と共に走ってくる足音がした。


「遅くなってすまないっ!!」

「申し訳ありません!」


勢いよく部屋に駆け込んできた2人。


「遅いですわ」


すみません、つい。


「呼び出しておいて悪かった。よかったらこれを…」


申し訳なさそうに言って差し出してきたのは王都でもかなり評判であり、王室御用達と認められた店の新作タルトケーキだった。

昔ウィルお兄様のお土産で同じ店のロールケーキを食べたがあれには感動した。

しかもカフェも併設されているらしく、店に足を運ぶのはほとんどが女性であると聞く。そんな人気店の新作のタルトがハズレなわけはないだろう。

新作のタルトはかなり嬉しい。だがしかし。


「遅れてしまって申し訳ありませんでした。お詫びのつもりでシリウスと共に何がいいか選んでいたら気づけばこんな時間で…」


女子か。

もう一度言おう。

新作のタルトケーキはかなり嬉しい。だがしかし。


「殿下方、まず私達のためにというお心遣いは感謝いたします。ですが待たせている以上さらに失態を重ねるのはいかがなものかと…」

「失態…」

「失礼しました。言葉が過ぎまして申し訳ありません」

「いや、いいんだ。事実だしな」

「お願いしておきながら遅刻するとは失態以外の何物でもありません」


どうしよう…。つい何も考えずに言葉がでてきてしまった。


「殿下、クウガ様。カレンデュラ様は怒っているわけではないんですのよ」

「そうですわ。私達は楽しくお話しておりましたから。きっと殿下方の今後のために仰ったのですわ。

待っているのが私達でしたからよかったですが、これがもっと尊いお方でしたら大変なことになってしまっていたかもしれません。そういった意味で失態と仰ったのではないかしら?ねぇ、カレンデュラ様」


ありがとう親友!!

おしゃべりが楽しく時間を忘れたのは事実だし、怒っているわけでもない。ついポロっと口が滑ってしまっただけだ。きっと2人もそれに気づいたのだろう。

フォローしてくれた2人の言葉に同意しつつ、これからもっとお互い成長しましょうね。と、言葉を濁して伝えてみた。

安堵の表情が伺えたことからきっと伝わったと信じたい。


「あ、あのせっかくですので皆様でいただきませんか?」


普段なら誰かが用意してくれるであろうケーキをわざわざ自分達で買いに行ったのだろう。

とりあえず食べたいのですけど、どうですかね?






いやぁ、美味しい。

さすがというべき美味しさ。

食べるのがもったいないほどキレイな見た目と食べずにはいられないフルーツの甘酸っぱい香り。お店に寄ってお土産にしようかなぁ。

そんなことを考えていたらふいに話をきりだされた。

顔を向けるととても真面目な顔をしている2人がいる。

シリウスが口を開く。


「もう一度謝らせてほしい。昨日は本当に悪かった。レイラ嬢もティア嬢も巻き込んでしまい本当に申し訳ないことをした。すまなかった。他の者達もこの場へ来たがったのだが俺から止めさせてもらった」


なんでも、全員できては結局昨日と変わらないのではないかと思ったらしく、明日残りがくるらしい。


「昨日お前が帰ったあとに学園長と話をした。俺達について何も訴えなかったと聞いた時に正直ふざけるなと思った。弱かった俺に対する同情かと。抗議するほど価値のないものだったのかと…」


グッと拳を握りしめ俯いてしまう。しかし顔をあげしっかりとこちらを見る。


「俺は怒りのままに兄上と共に宰相に詰め寄った。だがそこではっきりと言われた」


そう言って彼は昨日の出来事を話し始めた。




◇◆◇◆◇◆




『今の貴方では王族としての責務を負わせることはできません』


俺が最初に言われたのはこの一言だった。

何を言われたのか一瞬わからなかった。



『今の殿下にはしっかりとした支えが必要だと判断しました。カレンデュラ嬢ならばそれが可能であると。彼女ならば支え合い、貴方をフォローしてくれると思ったのですよ。そうでなくとも彼女から学ぶべきものごとは多いでしょうし。だから貴方の最有力婚約者候補として名を挙げたのです。ですが…こうなるとは思いませんでした』


──今まで楽をしてきたのですからいいかげん、第2王子としてそれ相応の覚悟を持っていただかないと。


幾度となく聞かされていた言葉が甦る。


『なんで俺ばかり辛い思いをしなければいけないんだ!おかしいじゃないか!兄上が学園に通っている時はもっとみんな優しかったじゃないか!』


宰相の冷めた眼差しからは感情が読み取れない。


『あなたはいつになれば周りが貴方を心配していると気づくのでしょうね。いつまでも幼子のままごとのように都合よく考えていられては甚だ迷惑です』

『なんだと!』

『兄君をよくご覧になったらいかがです』

『あ、兄上には優秀な側近もいるし、比べられても…だいたい俺と兄上とでは立場が…』

『当たり前ではありませんか。次代を背負う覚悟を決め、己を律し民の為に骨を埋める。と、彼は陛下と共に歴代の王の墓前に誓っているのですよ。それを知ろうともせず己ばかり蔑ろにされているなど…よく言えたものですね』


そう。違って当然の立場に俺は何の疑問もなかった。兄上は出来て当然なのだと。父に期待され、臣下の信頼を得て優秀な側近に囲まれる。王族として約束された道を歩く兄上。

それを羨むばかりだった俺は何故自分ばかり何でも持っている兄上と比べられなければならないのか。同じ王族なのに何故なのかと納得がいかなかった。だが違うのだ。何もしなかったのだから比べられたのだ。そして、無意識に自分自身が比べていたのだ。

俺の為にと、苦言を呈した者に俺は耳を貸さず、俺にすり寄る甘い言葉に耳を傾けた。


『ロベルト殿下は自ら願いでて陛下と共に視察にも同行されました。短いですが身分を隠して軍にも所属しました。隣国への留学も自分で決めたことです』


『俺は…お、れは…』

『皆、貴方には期待していなかったわけではないのですよ。飛び抜けて、とは言いませんがまだまだ未知の可能性が感じられる貴方自身を、がんじがらめにしてはいけないと陛下はお考えでした。ロベルト殿下とはまた違った未来があるのだからと』


自分に何も言わない父は、兄上とは違った形で気にかけてくれていたというのか…。


『一部の貴族から貴方達を退学にすべきとの声もありましたがそれを一蹴したのはカレンデュラ嬢のお父上とウィルバートです。彼は子供のケンカに口を出す必要はない。双方共に愚かであった。個人的な決闘で決着がついたのだから周りは口を出すべきではないと』


──各々の家でしっかりじっくりお説教。今頃カレンデュラ嬢もお説教されているでしょうね。


俺は今まで何をしてきたのだろう。

自分は何もしなかったのに勝手に妬んで八つ当たりをして…。努力の影を見せない兄上に、何でも出来て当然だと思い込む。

都合の良いようにしか考えなかった自分にうんざりする。


『今の貴方には様々な視線が向けられるでしょう。今までやってこなかったことも含めて、これからやるべきことはたくさんあります。何をしなければならないのか、しっかりと考えてください。貴方の成長を期待します』


気づけば部屋に戻ってきていた。

うまくまとまらない頭で必死に考える。

学園にも行きたくなかった。だがここで逃げれば今度こそ本当に俺はただのろくでなしに成り下がることなんで、考えればわかることだ。

そうか、俺は今まで考えてこなかったんだな。少しでも考えればわかるにもかかわらず、感情のまま行動し、思考することをしなかった。


「俺は第2王子として甘やかされていたのだとしっかりと実感した。随分とぬるま湯に浸かっていたのに、それを認識せず俺に厳しい人々に理不尽だとあたりちらした。どれだけ愚かでそれを認められず逃げていたのかと」


そのあと宰相に頼んで保管されていたお前の魔術訓練の映像を見せてもらった。


「正直に俺はお前があんなに努力をしていたとは思わなかった。何故あんな…ボロボロになるまで毎日続けられるのか理解できなかった。信じられなかったんだ。2年の間に人はこんなにも成長できるのかと…」


「俺は恥ずかしかった。ちやほやされるのが当たり前で、出来ないことはないと思っていた。砂まみれ、傷だらけになりながら学ぶなんてあり得ないと思っていた。けれど…今のお前はそれを自慢するでもなく、まだ共に成長できると言った」


「俺にはまだ信頼を取り戻すことはできるのだろうか。父に、兄上に、そして俺と共にあろうとしてくれる友に。力を貸してほしい。頼む、カレンデュラ嬢」


昨日はあんなに頭を下げることに抵抗があったのに。今の俺にはそんな気持ちは欠片もなかった。


「そうですわね、私も昨日は両親にはたくさん叱られました。普段は何もいわないですがやはり心配してくれているのです。今回は痛み分けと致しましょう」


そう言って微笑んでくれた。


「カレンデュラ様がそうお決めになられたのですし、私達も何も言うことはありません。ね、レイラ様」

「そうですわね。ティア様。では僭越ながら私達からは女心について殿下方にはお話しいたしましょうか、ティア様」

「まぁ!素敵なお考えですわ!」

「よ、よろしく頼む」


にっこりと微笑む2人の令嬢に、何故か逆らってはいけないと俺の中の何かが叫んだ。

こうして俺の隣でしきりにカレンデュラ嬢に謝り、騎士団への稽古を頼み込んだ相棒を羨ましく思う。


ま、待ってくれ!俺も参加させてくれ!


おれ俺の叫びが聞こえたかどうかはわからない。だがここから俺はカレンデュラ嬢のように心身共に強くなろう、例え険しくただならぬ道であろうとも俺は今を精一杯やりきろうと心に誓った。


ありがとうございました。


シリウス達のこれからの成長を見守っていただけるとありがたいです。

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