第12話
私がチートに生まれ変わり(笑)あれから2年が経ちました。
私はひたすら訓練にあけくれ、たかが2年。されど2年!この2年で自分の魔力の制御と治癒術の両方を習得!ビバやればできる子!
本当はアルお兄様のように剣術も習おうと思ったけどさすがに周りから止められた。
軽い冗談のつもりだったのだが、あまりに必死になられると少しへこんでしまう。そんなにセンスないかなぁ?正直剣を持つのは重かったので諦めたけれど、攻守揃って回復までやれる万能令嬢!に憧れてしまうのは仕方ないと思っていただきたい。
私が訓練するために通っていたのは魔術師団の皆様がいる訓練所。まるっきりのド素人である私は初めはエルド様、もとい魔術師団長に付き添われての基礎訓練が大半だった。
それが終われば医務局に入り浸って、先生をはじめ、ここでもひたすら訓練。訓練。訓練…。時々王医殿がやってきて治癒の能力の訓練もしてくれた。やはり似ているようで違う能力。治癒の他にも魔法薬の作り方や、魔力を使った時とそうでない時の症状の見分け方等々…。本当にためになったけれど10歳の子供には難しかったですよ。
魔術について少し理解できてきた頃、私の先生を務めてくれたのは魔術師団に所属している女性魔術師の方達で、色々と気遣ってもらった。前世の記憶もあるし、精神年齢高くてもやはりまだ10歳。大柄な男の人達に囲まれると怖いと思ってしまう。
訓練を始めたばかりの頃は失敗することも多かったが今ではかなりしっかりと使いこなせていると思う。きっと具体的なイメージが影響してるんだろうな。
ゲームの攻撃、防御、その他もろもろ。思い出せる限りのエフェクトを思い出すように魔力を練ると意外とあっさりいけました。……嘘です。威力の調節がうまくいかず不発や暴発なんて日常茶飯事でしたね。
暴発とは言っても、なぜか毎日のようにやって来る風の聖霊王によって未然に防がれていましたけどね!けどそれが続くのはやはり悔しかったので必死こいて訓練しましたとも。
私のような失敗はやはり初心者には多いことであるらしく、魔術師団長をはじめ、その場にいるのはプロなわけで被害なんてあってないようなもの。あっても軽いケガで済んでよかったなと…。ケガの度に自分を治療して光の性質である治療も治癒もしっかり訓練しましたよ。
そういや光の聖霊王も時々顔出しにきては私をからかって帰っていった。時にはふらっと来て私をさらっていきドラゴンの雛の相手をさせられたりと…。最初は羨望や嫉妬といった視線が痛かったが何回かすると同情の眼差しで見られ、ちょっと優しくしてくれた。あんなにつつかれてよだれまみれになって帰ってきた私を見たら同情しかわかなかったんだろうけどさ。内容が内容だけに思い出したくもないけどね!
私の指導を担当する魔術師団のお姉さま方は厳しかったが、必死に食らいつく私に何を感じ取ったのかそのうち魔術だけでなく、社交界について教えてくれることも多くなっていった。注意すべき人物、流行しているドレスやお菓子。あとは宰相様が私を第2王子の婚約者候補として諦めていないこと。そしてそれを実現するべく動いていること。それを聞いた時の私の顔色は聞かせた本人が大慌てして心配するほどだったらしい。嫌すぎる。
こうして少しずつ打ち解けていき、魔力の制御も随分と成長した頃には、私と同い年のお姉さま方の妹様を紹介されたり、お茶会に招かれたりと交遊関係も広がっていった。
今では日常になった雛の世話も慣れたし、風の聖霊王の過保護っぷりにも耐性ができた。たまに私がローザ直伝のお茶を入れるととても喜んでくれて、前世でのお祖父ちゃんみたいだと思った。たまにアルお兄様の剣の補強やら、共に打ち合いをしているのを見かけたけどいつの間にそんなに仲良くなったのか……。打ち合いをしているお兄様をすごいと思ったけれど、風の聖霊王もすごかった。昔に映画で見た海の神様みたいだった。─風だけど。
けれどもお兄様の、元々の才能に驕れることなく、本来の実直で真面目な性格が故の努力の成果を目の当たりにすると、私も頑張ろうと思えてくる。それに騎士団長であるウルフ様や特務のスルト様との打ち合いは鳥肌もの。私もいつか恋をするならあんな風に尊敬できる人としてみたいな。
そうそう、ウィルお兄様ももうすぐ留学から帰ってくるようで、帰ってきてからはゼファー様と共に兼ねてから予定していた殿下のサポートをするらしい。直属の部下ってことは秘書…なのかな?なんにしても仕事ができるってうらやましい!そういや旦那さんが書類整理しながらワイシャツの腕捲りしてる腕が好きだったな。お兄様やってくれないかなぁ(笑)
そんなこんなであっという間だった2年間。私の努力も認められてか、お父様や団長、魔術師団のお姉さま方に、学園に入学しても訓練への参加をお願いしたところ快く承諾してくれた。いなくなると寂しいと言われた時は思わず泣いてしまったけど…。
いよいよ1週間後に迫った入学式。学園に入学するにあたり、こちらで仕事をするウィルお兄様と一緒に、別宅から通うことにした。私が入学するまでの間はお父様とお母様もこちらで過ごすようで、今はひたすらマナーの復習を繰り返している。
つい先日に制服が届いた時、記憶そのままだったデザインに懐かしさのあまり一日中眺めてしまった。白を基調としているシックなデザインのそれは、廃らない流行を取り入れ上品に仕上がっている。学年によって変わる襟首の大きめなリボンは濃い青色をしている。なかなか私好みの制服に顔がにやにやと残念なことになってるだろう。…ローザが微笑ましく私を見ていることに気づかない振りをした。
入学式当日。
真新しい制服に袖を通しお姉さま方からの助言を思い出す。
『貴女の周りには貴女自身だけでなく貴女に付随するおまけに目が眩み、それらを手にいれようと近づく愚か者もいることでしょう。でもね、それがなんだと、その程度の小者など放置です。捨て置いて構いません。しっかりと見極めるのです。しかし中には妬みや嫉妬といった醜い感情から貴女を貶めようとする者もいるかもしれません。けれど、貴女が貴女であることが武器なのです。正当な言葉で、気高い能力で、そのような愚か者は殲滅してしまいなさい』
私は孤高の気高さを身に纏い、覚悟を胸に。
学園へ向かう人達の群れに親しくなった友人達を見つけた。気心のしれた彼女達は私にそういった目を向けない。仲良くなるまでにかけた時間が私達の仲を深くしたのだろう。共に校舎へと向かっていく。
──私は運命の一歩を踏み出す。