第11話
皆さまご機嫌いかがでしょうか?
光の聖霊王様がノリで加護を与えたせいで再びの魔力の検査ですって!
これからお父様もこちらへいらっしゃって今後の私の身の振り方を話し合うらしい。何だろう、悪いことしてないのにこのいたたまれない感じ!
『私の加護もつけたから!風に聞いても何かわからないことがあれば呼んでくれればくるよ〜』
なんて軽い感じで加護をくれたけれど、そもそも………うん?ちょっと待て自分。さっきあの聖霊王は何て言った?
──『私の加護もつけたから!』って……私の加護『も』って!『も』ってなんだ『も』って!
まさかと思いご機嫌で宰相様と話をされてる風の聖霊王の所へ向かう。もう様なんてつけてやるもんか!……心の中ではだけども…。話を中断させるなんて絶対にやってはならないことだとわかってはいたが後でしっかりと怒られよう。けど今は何よりも確認したい。
「ご歓談中、大変申し訳ありません!風の聖霊王様、お伺いしたいことがございます!」
「ん?どうしたのだ?」
「まさかとは思いますが私に加護を与えたりはしていらっしゃらないですよね!?」
「…」
何故こちらを見ない。何故目をそらす!?
その様子を横で眺めていた光の聖霊王は呆れたように口にした。
「あーあ。だから言ったでしょ?あんなに要らないと言ってる相手に勝手に加護を与えたことがバレたら怒られるって」
やっぱりか!
「ちなみにどのタイミングだったのでしょうか?」
「え〜?カレンが風から腕輪を受け取った時に発動したよ」
何の説明もしないのはそういうことだったのかと今になって納得。それよりも自分の迂闊さにほとほと呆れるばかりである。
もういいさ、ここまできたら喚くのはやめよう。女は度胸!傷が深くならないうちに当たって砕けてしまえばいいんだ!…本当に砕けたらだめだけどね!
「はぁ、わかりました。風の聖霊王様、光の聖霊王様、私に授けてくださった加護を無意味であったと後悔されないよう、日々努力を続けてまいります。また、お二方の名に恥じぬよう素晴らしい人間であったとお褒めいただけるよう努めて参ります。どうぞ、ご指導のほどよろしくお願いいたします」
こうなったらここから新しい自分を探そうかな。ゲームでの『カレン』にはこんな能力も加護もなかった。身分と容姿が取り柄のどこにでもいる令嬢だった。自慢の容姿を磨くことにばかりかまけていて、周りに気を配ることをしなかった。恋は盲目とはよくいったもので、第2王子の婚約者となってからはより一層それは顕著になり、随分と好き勝手していたようで…。しかし、現実の『カレン』である私はこの時点で随分とかけ離れている。このままならシナリオにはない新しいルートでこの舞台から降りることもできるだろう…。私のために泣いてくれた家族や私を認めようとしてくれてる彼らのために。私は私の幸せを探してやりましょうとも!
改めて決意を胸に抱き、綺麗な礼をとり再び水晶体と向き合う。
加護をもらったからか、自分の魔力をより鮮明に感じることができる。練り上げ水晶体に込める。水晶体が輝きだした。
……案の定性質に光が追加されていた。
エルド様の説明によると、性質は主に医療方面でその力を発揮している。他の性質に比べてこの適性を持つ人数は有無でいえば少ない方だ。そのため適性の度合いによって医療師、医務師、薬師、と分けられる。
医療師とは、王医などをはじめとする、治療のワンランク上である治癒を専門とした医師達だ。医務師でも対処出来ないときや一刻を争う時などに活躍する。前世でいう、国立や大学病院、テレビに出演するようなちょっと高度な治療をする人達の集まり。性質、魔力量共に高い。
医務師とは薬師では手に負えず、かといって医療師にかかるほどではない患者が主に集まる。治癒までは使えないがしっかりとした治療が行える。市立や県立の総合病院といったところ。性質は強めだが魔力量が一般的。
薬師とは一般的な町医者。簡単な診察や治療を主としている。ただの風邪やケガくらいならば薬師でもきちんと対応できる。性質、魔力量、共に一般的。人数も一番多い。
薬師が手に負えないと判断すると医務師を紹介され、そこでもだめだと判断されれば医療師。また逆も然りで、症状が軽くなっていけば自然と別の医師へと引き継がれて最終的には薬師へと戻ってくる。
それから、医師達が行う治癒と治療の違い。簡単に説明すると、治療とは治すもの。治癒とは元に戻すもの。似ているようで違う能力。例えば転んで出来た擦り傷や打撲ならばどちらも傷跡を残さずに治すことができる。だが、傷跡が残るようなケガの場合、治療して機能が元に戻っても傷跡が消えることはない。しかし治癒は違う。ケガそのものが初めからなかったかのように傷跡までも治してしまう。言葉のまま、元に戻すのだ。あまりに深い傷や重度の病でも早い段階であれば治すことが可能なんだそうだ。
かといって天命には逆らえないし、死者を生き返らせることもできない。古傷も消すことはできない。最終的には患者の体力と気力が勝負だ。決して万能とはいえない。そのため人々の認識は治癒は最後の希望であり薬師や医務師と比べると少し遠い存在のようだ。
説明を受けた私はエルド様から休憩を言い渡された。どうやら病み上がりのせいか疲れからかはっきりとしないが顔色が悪いらしい。たぶん後者だろうな。いろんなものがガリガリ削られた気がするもん…。とりあえず今後の話し合いもあるだろうし、勝手に部屋から出るわけにもいかず、ソファに座りみんなの様子を眺めていた。
自分が医療師としてやっていけると太鼓判を押された。あと2年。されど2年。正直もっと穏やかに時を過ごし、ヒロインが登場する最後の学年までに攻略対象者と関わることなく、誠実で癒される人とゆっくりとでいいから愛を育んでこっそりフェードアウトするつもりだったけどそうはいかなくなったようで…。まさかこんなチート染みた能力手に入れるつもりもなかったし。これがゲームなら喜んでレベル上げにスキル磨いたんだけどねぇ。この能力を開花させていいのかどうかも正直ちょっとわからないけど、好奇心というか戻ってきたゲーム魂というか…極めてみたい衝動もあったり。何だか記憶を思い出す前の自分が遠くに感じた。ビビりな私はどこ行ったんだか…。きっと色々爆発と一緒にぶっ飛んだんだろうな。
そんなことを1人でつらつら考えていたらいつの間にか寝ていたらしい。気付いたら毛布が掛けられていた。だんだんと焦点が定まってくるとお父様が来ていたことに気づく。宰相様と聖霊王の2人、ウィルお兄様や団長様達と隣室から出てきたところだった。どうやら私が寝ている間に色々きまったらしい。
私が起きたことに気付いたお父様達は私のこれからを説明した。途中宰相様からサラリと件の同い年の第2王子との婚約話を混ぜてきたが、そこは、はっきりきっぱりすっぱりと謹んでお断りさせていただきました。私の拒絶に同意したウィルお兄様の真っ黒な素敵な笑顔も後を押してくれたようで宰相様は小さなため息とともにひいてくれた。……ひいてくれたんだよね?
何はともあれ入学まであと2年、ゲーム開始まであと7年。まだ手探りな感じはいなめないが、少しずつルートは外れていることを信じて私はやれるだけやろうと心に誓った。