第10話
検査の結果、明らかに跳ね上がった魔力について宰相様から説明された。
生後すぐの検査ではもともと私の魔力量は少なく、性質も弱い水だったらしい。しかし今回の爆発に巻き込まれたことにより、本来私が持ち得ない量の魔力にさらされ、器に入りきらなかった魔力が体に馴染むためにあんなに酷かった魔力酔いになったのではないかと…。
もとが実の兄であり、同じ水の性質を持つアルお兄様の魔力だったことと、聖霊の力が強かったことが不幸中の幸いだったようで、時間はかかったが無事拒否反応もなく今に至る。
しかし、思いの外混ざりあった魔力の結び付きは強く、それは私の性質をも変えてしまったらしい。魔力を結びつけた水の性質はかなり強力になり、それと同時に流れ込んできた火の性質もアルお兄様の性質だったためそのまま取り込まれてしまったとのことだ。そして、原因である風の聖霊の、風の性質がかなり強めに増えたようで…。多属性持ちはいないわけではないが珍しいらしい。アルお兄様もそうだしね。だがしかし、だがしかしだ。私の場合は突発的な発生であり、いまのところ危険がないが今後、暴走させないためにもなるべく早くに訓練を始めるべきだと各団長様達と意見が一致したようだ。
「わかりました」
これ以外に何を言えと…。ひとまず頷いておく。
どうやら毎日魔術の練習が始まるようだ。きっと彼らは学園に入学するのは再来年だし、あと2年あるなら全くの素人で、超初心者の私でも魔力を暴走しないようにコントロールできるだろうと考えたのだろう。
ウィルお兄様の言葉が不意に思い出された。
─うん、頑張ろう!
そうしているといつのまにやら宰相様が隣室へと消えていた。戻ってきた宰相様に呼ばれ、いよいよ風の聖霊王様とお会いするようだ。
子供向けの絵本や童話などにも聖霊王はでてくる。その真の姿はいずれもドラゴンであり、時として人の姿をして現れる。全ての生き物に愛を注ぐ気高い存在として描かれている。
ドラゴンか…何ともいえない気分になるな…。頼むから人の姿でいていただきたいわ。
なんて思っていましたが実際会ってみると、神々しいまでの存在感。オーラというか威圧感が凄まじい。思わず立ち竦んでしまったが、しかしよかった。人だ。…もう1人いるけどどちら様ですかね?
宰相様が私を紹介してくれる。失礼にならないように丁寧に挨拶をした。
「うむ。わしは風の子らを束ねている。我が眷属の子はこんな小さな幼子に迷惑をかけたようじゃな」
「私は光の子らを束ねているよ。風のが面白いことになってるなぁって思ってついてきたんだ。私のことは気にしないでかまわないからね」
何というか…思わず宰相様をチラ見してしまった。宰相様は
隣で控えていますから、と出ていってしまう。おいてかれてしまった。私が10歳の子供だって忘れてやしないかな、あの人…。間違っても普通の10歳はそんなこと考えもしないだろから口にはださないが。それを見届けて風の聖霊王様も早速本題とばかりに切り出した。
「この度は我が眷属がすまんことをした。どうしたら詫びの証になるじゃろうか。」
「いえ、こうしてケガもないですし、五体満足ですので本当に気にしないでいただきたいんですが…」
「わしの気持ちがおさまらんのじゃ。強い力か?使いきれないほどの富か?」
…あれから、これと同じやり取りを何度か繰り返した。魔力が増えたことも性質が変わったことも私にとってはマイナスなことなど1つもなく、むしろここで何かイベント起こる方が今後困るんで勘弁していただきたい。
黙っている私にどう思ったのか
「これならどうだ?わしの加護をやろう」
「そうですねぇ…今のところこれといって不便を感じているわけではないですし、聖霊王様に加護をいただくなんて恐れ多いですしそう気になさらないで欲しいのですが…」
「なんと!我が加護もいらんと申すか!」
やべ。怒らせたかな?内心の焦りを出さないよう必死に首を傾けたまま、困った顔を続ける。けど加護持ちなんてものになったらますます婚約者候補とかに入ってしまうんじゃないですか!?なんとしても避けたいけどこの人ってかこのドラゴン怒らすのも得策じゃないし…。
「子供ながらに見上げた心意気!気に入った!この世の至宝か?不老の果実か?何でもいいぞ!」
だーかーらー……ん?あ!そうだ!
「では聖霊王様、お言葉に甘えてもよろしいですか?」
「うむ。何でもいいぞ!さぁ述べよ」
「あのですね、私、アルお兄様の武器が欲しいです」
「武器、とな?」
「はい。私のお兄様は魔法剣士として成長する道を選びました。ですが…」
「けど、君のお兄さんはそれを喜ぶのかい?」
「…っ。ですよね。余計なことをしているのだと思ってはいるんですが…つい。風の聖霊王様、忘れてください。光の聖霊王様、ありがとうございます」
光の聖霊王様の問いかけに我にかえった。きっとお兄様は喜ばない。少し考えればわかる。きっと困った顔をして受け取ってくれないだろう。いや、受け取ってくれてもきっと使うことはないだろうことは目に見える。
「そうだねぇ。あの真っ直ぐな少年は喜ばないだろうね」
「ううむ、そうさな。だがそなたの兄を慕う気持ちにも嘘はないな。純粋な思いしか感じられない」
「ごめんなさい、聖霊王様方。やっぱりいいんです。明日から私も少しずつ魔力について勉強しますし、今後何か困ったときに助けてください」
そうにっこり伝えるとなぜか風の聖霊王様がおいおい泣き出した。あっけにとられる私の横で光の聖霊王様も口をあんぐりあけている。
「そんなにショックだったの?風の。別に役立たずって言われたわけじゃないんだよ?」
「わしは…こんな健気な幼子に何一つ満足するものを用意できないのかと思うと…っうううっ」
絶句である。え?何ですか、光の聖霊王様。そんな目でこちらを見ないでくださいよ。
「どうするの?これ?」
「え?私のせいですか?」
「だねぇ。この際なんでもいいから何か言ってみたら?」
「…え〜…と…。あ、でしたら私に魔術の使い方を教えてください」
「なんと?」
ピタリと泣き止んだ風の聖霊王様。
「私、今まで魔術の練習なんてしたことないんです。でもこれから必要になるんです。お兄様も頑張ると言っています。ですから私も共に頑張りたいんです。私は学園に入学するまでの2年間、必死でこの力を使えるように学びます。お時間のご都合がつく時だけでかまいませんので、いかがでしょうか?どうぞよろしくお願いします」
深々と頭を下げる。
「そうかそうか!では明日から早速毎日顔を出すことにしよう!」
「それは申し訳ないですしたまにで大丈夫ですよ」
「遠慮するでないよ」
聖霊王様ご機嫌な様子でいそいそと腕輪を抜き取り、こちらに渡してくださいましたが…うん?はめるのかな?そう思い腕を通した瞬間腕輪が光り、消えてなくなってしまった。何が起きたかわからないでいると、にこにこしながらこれでいつでも呼べと説明してくれた。
風の聖霊王様、復活したようで何よりです。
「君、つくづくおもしろいね。よし!なら私からの激励だよ」
そう言って自分の髪を一房とり、指に絡める。するとそこから音もなく切り取られた髪を私に向けて吹き掛けた。
私を金色の風がふき抜けた。
─まさか!
「私の加護もつけたから!風に聞いても何かわからないことがあれば呼んでくれればくるよ〜」
いやぁぁっ!何のために加護を断り続けたと…!ううぅ、泣いていいですか。
前世で馴染みのあったアニメ。どこぞの学園長先生の突然の思いつきがどれだけ迷惑か、世界をこえて身に染みました。